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電子スピンの運動捉える顕微鏡を開発

掲載日:2014年7月3日

電子が持つ電荷とスピンの両方を併せて利用するスピントロニクス。半導体素子などの小型化や今後の新しい機能の創出に欠かせない新技術として急速に発展しているが、その電子スピンの計測に役立つ画期的な技術が登場した。1000兆分の1秒の電子スピン運動を捉える顕微鏡の開発に、筑波大学数理物質系の重川秀実(しげかわ ひでみ)教授らが世界で初めて成功した。6月29日付の英科学誌ネイチャーナノテクノロジーのオンライン速報版に発表した。

この顕微鏡は、原子1個を見ることができる走査トンネル顕微鏡(STM)と、1000兆分の1秒の超高速現象を解析できるレーザー技術を組み合わせて実現した。それぞれ幅6nm(1nmは10億分の1m)と8nmで作製した量子井戸の中で、向きをそろえた電子のスピンが1000 億分の1秒ほどで乱れていく様子を、たった1つの量子井戸からの信号として直接捉えた。

量子井戸は、半導体の超薄膜が異なる種類の物質に挟まれたもので、半導体素子の基本的な構造。半導体レーザーや LEDの発光、高効率の太陽電池の開発などに応用されている。また、この顕微鏡で、電子スピンが磁場の周りを回転する歳差運動(すりこぎ運動)の様子も観察できた。原子が並んだ構造をSTMで観察しながら、その同じ場所でスピンの超高速の運動を測定して、その性質を議論することが可能になった。

研究グループは 2010 年、時間と空間の両方で極限的な分解能を併せ持つ新しい顕微鏡を世界に先駆けて開発した。今回は、その成果を発展させて、さらにスピンの情報を得る機能を加えた。スピントロニクスの研究・開発で重要な役割を担うことが期待される。

開発した重川秀実筑波大教授は「電子スピンの運動はこれまで、空間的に、または時間的に平均された状態でしか観測できなかった。この顕微鏡は、最先端のレーザー技術を併用できるよう、走査トンネル顕微鏡と測定技術を改良することで実現した。調べたい場所の原子の並びをSTMで確認することが可能で、例えば、どこの量子井戸の電子のスピンがどういう運動をしているか、また周囲の構造の影響をどう受けるか、といった様子を直接捉えることができ、スピンの新しい情報を得ることができる。ナノ構造が問題となるスピントロニクスの発展に貢献するだろう」と話している。

量子井戸の中、配向した電子スピンの向きが乱れていく様子の模式図
図. 量子井戸の中、配向した電子スピンの向きが乱れていく様子の模式図

走査トンネル顕微鏡とレーザーを組み合わせた新しい顕微鏡
写真. 走査トンネル顕微鏡とレーザーを組み合わせた新しい顕微鏡=筑波大重川研究室
(いずれも提供:筑波大学)
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