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エルニーニョは世界の穀物生産に打撃

2014.05.19

 南米ペルー沖の太平洋赤道海域の水温が上がるエルニーニョ。その動向を世界中が固唾を飲んで見守っている。気象庁は今年エルニーニョを想定し、日本の冷夏などの可能性を予測している。エルニーニョや、同海域の水温が逆に下がるラニーニャと、世界の主要4作物の生産変動の関連を、農業環境技術研究所(茨城県つくば市)の飯泉仁之直(いいずみ としちか)研究員と海洋研究開発機構の佐久間弘文(さくま ひろふみ)主任研究員らが突き止めた。影響は地域、作物ごとに微妙に異なる。その収量変動の全球マップも初めて示した。オーストラリアと英米の研究者との共同研究で、5月15日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

 研究グループは1982〜2006年の世界各地域の作物収量データベースを作成し、それを基に解析した。穀物のトウモロコシ、コメ、コムギの世界平均の収量は、エルニーニョ年とラニーニャ年いずれでも平年収量を下回った。豆類のダイズだけはエルニーニョ年に平年収量を上回り、ラニーニャ年には平年並みとなる傾向があった。収量に影響が見られる地域は、プラスとマイナスのいずれも、エルニーニョが世界の広範囲に及ぶのに対して、ラニーニャはより限定的だったが、コメとコムギの収量でマイナスの影響が大きくなっていた。

 世界平均の収量でみると、トウモロコシとコメ、コムギはエルニーニョとラニーニャのいずれも警戒が必要だが、コメとコムギに関してはラニーニャを、トウモロコシでは逆にエルニーニョをより警戒した方がよいことがわかった。最も世界の収量に影響が大きかったのは、コムギのラニーニャ年で、平年に比べ平均マイナス4%だった。

 エルニーニョとラニーニャの収量影響の全球マップからは、例えばエルニーニョが米国のトウモロコシにはマイナスだが、ダイズ収量にはプラスの影響があるなど、複数の作物に関連する有用な情報を得ることもできる。

 研究グループは「これまでも地域ごとの作物生産への影響は指摘されていたが、全地球的な影響を細かい解像度のマップで示したのはこれが初めてだ。エルニーニョやラニーニャの発生は早い時点で予測できるため、それに基づく信頼性の高い豊凶予測も早く出せる。この予測を活用すれば、食糧輸入国は早めに備蓄量を積み増すか、途上国が食糧緊急援助の申請時期を早めるなどの対策が取れる。エルニーニョやラニーニャに伴う作物収量予測をより精緻にして、世界の効果的な飢餓貧困対策につなげたい」としている。

エルニーニョ年とラニーニャ年、通常年の世界平均収量の平年収量に対する差の頻度分布
グラフ. エルニーニョ年とラニーニャ年、通常年の世界平均収量の平年収量に対する差の頻度分布
通常年と比較した場合、エルニーニョ年の平均作物収量の変動
図1. 通常年と比較した場合、エルニーニョ年の平均作物収量の変動
通常年と比べたラニーニャ年の平均作物収量の変動
図2. 通常年と比べたラニーニャ年の平均作物収量の変動
(いずれも提供:農業環境技術研究所)

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