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昼に光合成、夜に分裂する仕組み解明

2014.05.09

 生物の活動は昼と夜の周期によって調節されている。昼に光合成し、夜に細胞分裂する仕組みを、国立遺伝学研究所の宮城島進也(みやぎしま しんや)特任准教授と藤原崇之(ふじわら たかゆき)研究員、墨谷暢子(すみや のぶこ)研究員らが単細胞の紅藻を使って、分子レベルで解明した。光合成と細胞分裂という2つの主要な生命活動を時間的に仕分けすることで、環境に適応する生物の巧みな生存戦略がうかがえる。5月8日付の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

 細胞分裂の時間帯が限られていることは、単細胞生物からほ乳類まで広く知られている。細胞内時計(ほぼ24時間の概日リズム)で制御されているとみられているが、詳しい仕組みは謎だった。研究グループは、細胞分裂が夜に起きる傾向が顕著で、強酸性の温泉に生息する単細胞紅藻で実験した。12時間明期(昼)と12時間暗期(夜)を繰り返せば、細胞集団の時間的同調が容易で、光合成をする藻類の中でゲノムサイズが小さく、効率よく遺伝子を解析できるため、研究に適している。

 細胞は、細胞成長のG1期、染色体複製のS期、分裂準備期のG2期、細胞分裂のM期を順番に繰り返して増えていく。これをセルサイクルと呼ぶ。実験した紅藻では、G1期からS期への移行が、夜の始まりに限定されていることがわかった。さらにS期移行に必要な遺伝子群の転写に関わるタンパク質の E2Fのリン酸化が概日リズムを示し、日没時にピークになることを突き止めた。S期に移るには G1期で細胞が十分に大きく成長していることが望ましい。そのサイズの制御にはRBというS期移行にブレーキをかけるタンパク質のリン酸化が関わっていることも確かめた。E2FとRBのリン酸化がスイッチになって、細胞の染色体が複製され、分裂に至るというシナリオが浮かび上がった。

 次に、リン酸化E2Fを過剰に作らせるか、ブレーキ役のRB遺伝子を壊すと、細胞は昼夜を問わず、分裂するようになった。しかし、光合成や細胞内呼吸で発生する活性酸素が細胞にダメージを与えるため、全体の分裂数と増殖速度はやや減っていた。細胞分裂はDNAの複製や細胞内の構造変化を伴う。その際、活性酸素のダメージは細胞の生存に危機をもたらす。活性酸素が生じる光合成は昼に、細胞分裂は夜に分けることが、光合成をする生物の生存にとって重要な意味を持つことが今回の研究で明らかになった。

 宮城島進也さんは「単細胞の生物は、活性酸素を生み出す細胞内呼吸や光合成の時間帯を避けて分裂することで、酸化ストレスによる子孫へのダメージを最小限にとどめているのではないか。生物時計を利用した活性酸素への対応は紅藻にとどまらず、生物が広く使っている可能性はある。生物時計の仕組みを解いていくのにも、この実験系は役立つだろう」と話している。

昼間に光合成して成長し、夜間に分裂する紅藻
図. 昼間に光合成して成長し、夜間に分裂する紅藻。生物時計の概日リズムで制御されている。(提供:国立遺伝学研究所)

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