ニュース - 速報・レビュー(ニュース速報) -

ブラックホール新理論を計算機で検証

掲載日:2014年5月7日

中に落ち込むと光の速さをもってしても外に出られない、宇宙空間にぽっかり開いた「黒い穴」のブラックホールは今も謎めいている。そこで起こる力学現象を厳密に記述できる新理論をコンピューターで数値計算して検証することに、日本の理論グループが成功した。これまでになされてきた検証と異なり、アインシュタインの一般相対性理論を超えて、重力の量子力学を取り入れた。英国のホーキング博士が1974年に予言したブラックホールの蒸発などの解明にもつながると期待されている。

高エネルギー加速器研究機構(KEK)の西村淳(にしむら じゅん)准教授と、京都大学の花田政範(はなだ まさのり)特定准教授、伊敷吾郎(いしき ごろう)特任助教、茨城大学の百武慶文(ひゃくたけ よしふみ)准教授の研究で、重力の量子力学的効果が重要となる物理現象解明の手がかりになる。素粒子論や宇宙論にも影響を与える展開として世界的に注目されている。4月17日付の米科学誌サイエンスのオンライン版に発表した。

大きな質量を持った物体がごく狭い空間に押し込められると、ブラックホールが生まれる。重力の起源を時空の曲がり方とするアインシュタインの一般相対性理論(1915~16年)で予言された。太陽質量の30倍以上の星が超新星爆発を起こして一生を終えた後に生成すると考えられている。さまざまな間接的証拠から、宇宙にはブラックホールがいっぱいあることがわかっている。

20世紀の代表的な物理学者、アインシュタインは量子力学を認めなかったように、一般相対性理論と量子力学は相性が悪い。天体の巨視的な現象の記述で一般相対性理論は華々しい成功をおさめた。しかし、曲率半径が10のマイナス33乗(1兆分の1のさらに1兆分の1のそのまた10億分の1)センチ程度まで縮まり、重力が極端に強くなると、一般相対性理論は破綻する。このブラックホール中心の超微視的な空間では、重力の量子力学が無視できなくなり、時空そのものが不確定性をもって揺らいでいる。アインシュタインが嫌った量子力学の出番である。

この問題を解決するため、米プリンストン大学のマルダセナ教授は1997年、重力を正しく記述するブラックホールの新理論を提唱した。今回、研究グループはこのマルダセナ理論で、ブラックホールの質量と温度の関係を数値計算した。計算には、KEKと大阪大学の多数のコンピューターを使った。その結果、従来の素粒子の超弦理論に基づく重力の量子力学的な効果の近似計算結果とよく一致し、マルダセナ理論が重力の量子力学的効果が無視できない領域でも正しいことを示した。これまでの多くの検証は、重力の量子力学的効果が無視できる状況下を計算してきたが、今回は重力の量子力学を組み込んで検証できた点が新しい。

研究グループの西村KEK准教授は「ブラックホールがどんどん小さくなると、重力の量子力学が効いてくる。そのような状況でも、マルダセナ理論がブラックホールの内部を正しく表していることが、われわれの研究で確かめられた。ブラックホールが蒸発する瞬間はどうなるのかを調べるには、従来の理論では歯が立たなかったが、マルダセナ理論は一般相対性理論の適用限界を超えており、今後解明できる可能性がある。超弦理論の新しい計算法のヒントにもなる」と話している。

ブラックホールとは?
図1. ブラックホールとは?

新理論の必要性
図2. 新理論の必要性

今回の計算の結果:ブラックホールの質量と温度の関係
図3. 今回の計算の結果:ブラックホールの質量と温度の関係
(いずれも提供:高エネルギー加速器研究機構)
ページトップへ