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植物ホルモンの輸送担う遺伝子を同定

2014.05.01

 植物ホルモンの一種、サイトカイニンが根から地上部へ輸送される際に鍵となる遺伝子ABCG14を、理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター(横浜市)の木羽隆敏(きば たかとし)研究員と榊原均(さかきばら ひとし)グループディレクターらがシロイヌナズナで突き止めた。植物の成長を制御する基本的な仕組みで、農産物の増産などにも結びつく成果といえる。浦項工科大学(韓国)とチューリヒ大学(スイス)との国際共同研究で、4月28日付の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表した。

 植物は、水や栄養分を吸収する根と、光合成を行なう地上部からなる。発達や環境変化に応じて、この2つの役割の異なる器官のバランスを最適化している。このとき、根と地上部の情報のやり取りを担うシグナルのひとつがサイトカイニンで、道管や師管を介して根と地上部の間を移動していると考えられている。しかし、重要な成長ホルモンであるサイトカイニン輸送の仕組みはよくわかっていなかった。

 研究グループは、実験モデル植物のシロイヌナズナの変異体から、植物の地上部が通常より小さいまま成熟するabcg14変異体を見いだし、解析した。abcg14変異体では、水を通す道管を介して根から地上部へのサイトカイニンの輸送が滞り、含量が根で増え、逆に地上部では減少していた。

 この結果、変異体の原因遺伝子ABCG14がサイトカイニンの根から地上部への輸送を担う重要な因子であることがわかった。ABCG14遺伝子は主に、根の維管束で発現しており、根で作られるサイトカイニンの道管への積み込みに関与していることがうかがえた。さらに野生株の根に、abcg14変異体の地上部を接ぎ木すると、根からサイトカイニンが輸送されて、変異体の地上部は野生株と同じように成長が回復し、大きくなった。根から輸送されるサイトカイニンが地上部の成長を促していることがはっきりした。

 木羽隆敏研究員は「シロイヌナズナは小さいので、道管からの溶液採取や接ぎ木の実験には苦労した。植物は、水や栄養分を吸い上げる地下の根と、光合成をする地上部がバランスをとって成長する。このバランスの制御に、サイトカイニンの輸送は重要な役割をしているだろう。サイトカイニンは植物の地上部の成長や実りを促進するので、その輸送を制御できれば、農作物増産への応用も期待できる」と話している。

シロイヌナズナの野生株とabcg14変異体のサイトカイニン含量
グラフ. シロイヌナズナの野生株とabcg14変異体のサイトカイニン含量。左が地上部、右が根。
シロイヌナズナの野生種(左)、abcg14変異体(中)、野生株の根にabcg14変異体の地上部を接ぎ木した際の地上部の成長の回復(右)。
写真. シロイヌナズナの野生種(左)、abcg14変異体(中)、野生株の根にabcg14変異体の地上部を接ぎ木した際の地上部の成長の回復(右)。(いずれも提供:理化学研究所)

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