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海洋細菌の巧みな太陽光利用を発見

2014.04.10

 生物の太陽光利用は生命活動の基盤である。海洋細菌(Nonlabens marinus)から、光エネルギーで塩素イオンを細胞内に運び入れる新しい種類のポンプ(ロドプシン)を、東京大学大気海洋研究所の吉澤晋特任研究員と岩崎渉准教授、木暮一啓教授らが見つけた。この海洋細菌のゲノム解析で、水素イオンやナトリウムイオンを細胞外に運ぶポンプを持っていることも明らかにした。

 はありふれていて、海水1ミリリットル当たり50万〜100万個と膨大に存在する。クロロフィルで光合成をする植物や細菌以外でも、太陽光を活用していることを裏付けるもので、地球規模で利用される光エネルギーの流れを根本から見直す発見といえる。宮崎大学の小椋義俊助教、林哲也教授、米マサチューセッツ工科大学のエドワード・デロング教授らとの共同研究で、3月31日付の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表した。

 光が当たると水素イオンを細胞の外に排出するポンプ(ロドプシンの仲間)が2000年に、海洋細菌で見つかった。その後、海の表層に生息する細菌の8割がロドプシン遺伝子を持っていることもわかり、光合成とは別の太陽光利用の経路として関心が高まっている。ポンプはイオンを運んで細胞内外にイオンの濃度勾配ができると、生物共通のエネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)を合成したりするため、エネルギー代謝の視点からも重視されてきた。

 今回、吉澤晋特任研究員らは、西部北太平洋の表層で採取、分離した海洋細菌を材料に研究した。その細菌から、塩素イオンを細胞内に運び込むポンプに当たるロドプシンを初めて見つけた。「塩素イオンを運ぶロドプシン」の意味でClRと命名した。このNonlabens marinusのゲノム解析で、水素イオンとナトリウムイオンのポンプとなるロドプシンを持っていることも示し、それぞれのゲノム上の遺伝子の位置も突き止めた。海洋細菌は、海水を構成する3種類の主要なイオンを、光エネルギーで細胞内外に運べることを確かめた。

 木暮一啓教授は「ナトリウムイオンを運ぶポンプも昨年、われわれのグループが見つけた。今後、海洋細菌がこれら3種類のロドプシンをどのように操って生命活動を続けているか、ロドプシンがどれくらいの光エネルギーを受け取っているかなどを調べていくつもりだ。塩素イオンなどが細胞膜のポンプを通して運ばれて、細胞内外に電気的な勾配が形成されることが重要だろう。こうした太陽光利用は光合成よりシンプルで、生物進化のごく早い時期に実現したのだろう。この研究で生物の太陽光エネルギー利用に関する理解を深めたい」と話している。

今回見つかった海洋細菌(右)の太陽光利用のイメージ図(提供:吉澤晋・東大特任研究員)
図. 今回見つかった海洋細菌(右)の太陽光利用のイメージ図(提供:吉澤晋・東大特任研究員)

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