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細胞死が植物上陸の鍵だった

2014.03.25

 植物がまず約4億7千万年前の古生代に海から陸に上がって、すぐ後追いをするように動物たちも上陸し、多様に進化した。植物上陸のドラマは生物進化で大きな転換期となった。この地球史上の大事件は、植物体内の自己細胞死によって起きたことを、日本の研究グループがコケ植物などの実験で突き止め、3月20日付の米科学誌サイエンスのオンライン版で発表した。

 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科の徐波(しゅうぼ)研究員、出村拓(でむら たく)教授と、理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターの大谷美沙都(おおたに みさと)研究員、豊岡公徳上級研究員、基礎生物学研究所の長谷部光泰教授らの共同研究。体内に水を運ぶ通り道の「通水細胞」と、根を張って体をしっかり支えるための「支持細胞」の2種類の特殊な細胞集団は、自己の細胞を予定通りに死なせて(自己細胞死)、残った細胞の構造を利用するシステムであることをコケ植物で実験的に初めて証明した。通水と支持の細胞組織はいずれも、陸に上がるのに欠かせないとされている。

 出村教授らはこれまで、被子植物のシロイズナズナやポプラで、水を通す道管や、植物体を支える支持組織の形成に必要な遺伝子群としてVNSを見つけていた。今回は、より原始的で、最初に陸に上がった植物に近い仲間とみられているコケ類のモデル植物、ヒメツリガネゴケでVNS遺伝子群がどう働いているかを調べた。

 葉の通水組織や支持組織、茎の通水組織でVNS遺伝子群がよく発現していることを見いだした。VNS遺伝子群を人為的に壊すと、通水組織の形成が異常になって、水が輸送されなくなり、葉のしおれも発生した。さらに、電子顕微鏡で通水組織を観察すると、VNS遺伝子が働かない変異体では、通水組織で「細胞の自殺」とされる自己細胞死が起きていなかった。逆に、VNS遺伝子群を活性化すると、ヒメツリガネゴケでもシロイズナズナでも、自己細胞死が誘導され、特にシロイズナズナでは厚い細胞壁が形成されることを確かめた。

 一連の実験で、高さ0.5センチほどの茎葉体があるヒメツリガネゴケも、シロイズナズナも、共通のVNS遺伝子群による自己細胞死、それに伴う通水組織と支持組織の形成が起きていることがわかった。「積極的な細胞死こそが植物の上陸の鍵だった」と結論づけた。

 理研の大谷美沙都研究員は「原始的な陸上植物のコケにも、通水組織や支持組織があって、植物の大型化の基盤ができた。VNS遺伝子群はどの陸上植物にも共通しているだろう。植物は動物と異なり、死んだ細胞壁の殻を体内でブロックのように活用して、道管などを作っているのが興味深い。VNS遺伝子は海に生息し続けた藻類などには存在しない。どのようにこの遺伝子が出現したかを探り、植物の上陸の謎を解いてみたい」と話している。

植物の通水組織(※)。左がヒメツリガネゴケ、右がシロイズナズナ
図1. 植物の通水組織(※)。左がヒメツリガネゴケ、右がシロイズナズナ
VNS遺伝子を変異させる(A、Bの右側)と、ヒメツリガネゴケの通水組織が異常になり、葉もしおれる
図2. VNS遺伝子を変異させる(A、Bの右側)と、ヒメツリガネゴケの通水組織が異常になり、葉もしおれる
植物陸上化のイメージ図
図3. 植物陸上化のイメージ図

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