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統計が暴いた10年前の談合天国・日本

2014.03.18

 摘発された入札談合は氷山の一角にすぎなかったのか。膨大な入札データを統計的に詳しく分析して、公共工事の入札談合が10年前、広範に横行していたことを、ニューヨーク大学スターンビジネススクールの川合慶(かわい けい)助教授と東北大学国際教育院の中林純(なかばやし じゅん)准教授が報告している。2003 〜06年の公共工事の入札データを分析した結果、この間に談合を繰り返した可能性の高い業者は約1000社に達するとみた。状況証拠だが、公正取引委員会などによる談合捜査の活性化を促す研究として注目される。

 入札は通常、最も安い金額を提示した適正な業者が落札する。本来は業者の競争の機会である。研究グループはまず、公共工事の入札で全員が予定価格を超過した場合に行われる「再度入札」に着目した。国土交通省の旧建設省部局が03〜06年に全国で発注した工事すべての入札結果4万件のうち、再度入札になった2割弱について分析した。初回の入札で1位と2位の差が小さいほど逆転の可能性が高いはずなのに、初回1位の業者が再度入札でも、再び1位になる割合は97.5%にも上っていた。

 さらに、初回の入札に1位、2位だった業者が再度入札の際に出した入札価格の差について分析した。再度入札での1位と2位の差をグラフにすると、ゼロから右側に集中して僅差が維持され、逆にゼロから左側に移って逆転するケースはごく少ないという異様な分布となっていた。つまり、初回2位の業者は再度入札でもほぼ確実に僅差で負けており、公正な競争が行われているとはとても思えない「1位不動」の不自然な実態が浮かび上がった。初回2位と3位の業者の間では逆転がほぼ50%の確率で起きているのと対照的だった。

 研究グループは「初回2位業者は、初回1位業者が再度入札で入札する予定の価格を知っており、業者間で談合が行われていたことをうかがわせる状況証拠」としている。調査期間中に入札に参加した業者3万社について、再度入札でどう入札したかを調査して、談合を繰り返した可能性が95%あると判明した業者約1000社をリストアップした。それらの業者が落札した工事は約7600件、予算規模は計約8600億円に上ると推定した。

 川合ニューヨーク大学助教授らは「この研究が競争入札における談合の抑止につながり、日本の社会資本の充実、産業の健全な発展につながることを望む」と締めくくっている。

 共同研究者の中林東北大学准教授は「データがそろっている約10年前の競争入札を分析した。予定価格をわずかに下回る価格で落札されたケースが多いことから、談合の疑いはこれまでも指摘されていたが、今回のように統計的に談合の実態を証明したのは初めてだ。2006年以降、法規制が次第に強化され、業界でも自粛する機運が高まっており、10年前とは違う。しかし、談合の摘発はいたちごっこの側面をぬぐえない。入札のデータがもっと公開され、統計的手法も使って全体像を監視していく必要はあるだろう」と話している。

 日本建設業連合会は「業界は2006年に談合からの決別を宣言した。それ以降、コンプライアンス遵守の経営に徹しており、談合はほぼなくなっている。今でも談合が横行しているようには捉えないでほしい」と指摘している。

初回入札1位と2位以下の業者に関して再度入札順位の比率
表. 初回入札1位と2位以下の業者に関して再度入札順位の比率
再度入札での入札価格の差。左は初回2位と1位業者の再度入札での差。右は初回3位と2位業者の再度入札での差
図. 再度入札での入札価格の差。左は初回2位と1位業者の再度入札での差。右は初回3位と2位業者の再度入札での差

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