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閉経後骨粗鬆症の原因タンパク質を特定

2013.09.12

 閉経後の女性に多い骨粗鬆(こつそしょう)症の発症原因となるタンパク質を、慶應義塾大学医学部や福島県立医科大学、仏ストラスブール大学、米カリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究チームが特定したと発表した。このタンパク質を標的とした治療薬の開発が期待されるという。

 日本の骨粗鬆症患者は約1,300万人、その80%が女性だ。とくに「閉経後骨粗鬆症」は、閉経後女性の約4人に1人、80歳以上の女性では2人に1人がかかっているという。発症の仕組みは、卵巣から分泌される女性ホルモン「エストロゲン」が閉経後に少なくなると、骨を吸収する「破骨細胞」の働きが活発化し、骨密度が低下してくるためと考えられているが、なぜ破骨細胞が活発化するのか、その原因については不明だった。

 慶應義塾大学の宮本健史特任准教授らは、細胞が酸素不足に陥ったときに誘導されてくるタンパク質「低酸素誘導因子-1α」(Hypoxia-Inducible Factor 1α:HIF1α〈フィフ・ワン・アルファ〉)に着目した。閉経前のエストロゲンの分泌が多いマウスでは、破骨細胞からHIF1αはほとんど検出されなかったが、閉経後に卵巣機能を失いエストロゲン欠乏によって骨粗鬆症状態となったマウスでは、破骨細胞からHIF1αが強く検出された。

 遺伝子操作で、破骨細胞にHIF1αがないマウスを作ったところ、エストロゲンが欠乏しても、破骨細胞の活性化や骨量の減少が起こらなかった。HIF1αの働きを阻害する薬剤をマウスに投与すると、閉経後でも骨密度が増え、エストロゲン欠乏による骨粗鬆症の発症が完全に抑制できることが分かったという。

 今回の研究により、骨粗鬆症に対する治療薬の開発では実験動物を使わずに、試験管の中で破骨細胞のHIF1αへの抑制効果を調べるだけですむ。その薬剤候補の探索方法と今回用いたHIF1α阻害剤の特許も出願中だ。これまで骨粗鬆症治療薬は輸入に頼っていたが、今後は日本産の薬剤に取って替わることも期待される。

 研究成果は、文科省科学研究費助成事業・基盤研究(B)「破骨・骨芽細胞制御による骨恒常性制御」によって得られた。研究論文“HIF1α is required for osteoclast activation by estrogen deficiency in postmenopausal osteoporosis(HIF1αは閉経後骨粗鬆症においてエストロゲン欠乏により破骨細胞を活性化する)”は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(オンライン版、9日)に掲載された。

閉経後の破骨細胞の活性化と、骨粗鬆症の発症メカニズム(1) 閉経前は卵巣からのエストロゲンにより破骨細胞のHIF1αは常に抑制されている(2) 閉経に伴うエストロゲン欠乏によりHIF1αが破骨細胞の中で安定化する(3) その結果、破骨細胞が活性化し、骨密度の低下から骨粗鬆症へと進行する(提供:慶應義塾大学)
閉経後の破骨細胞の活性化と、骨粗鬆症の発症メカニズム(1) 閉経前は卵巣からのエストロゲンにより破骨細胞のHIF1αは常に抑制されている(2) 閉経に伴うエストロゲン欠乏によりHIF1αが破骨細胞の中で安定化する(3) その結果、破骨細胞が活性化し、骨密度の低下から骨粗鬆症へと進行する(提供:慶應義塾大学)

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