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日本の“豆ぶち”が実験用マウスの一起源

2013.05.30

 世界の生物・医学研究分野で使われている現在の実験用マウスは、江戸時代末期にヨーロッパに渡った日本産のマウスと西ヨーロッパ産マウスの交配集団が起源となっていることが、国立遺伝学研究所哺乳動物遺伝研究室の城石俊彦教授らと理化学研究所バイオリソースセンターらのグループが行ったマウス・ゲノム(全遺伝情報)の比較研究で分かった。実験用マウスの成立に関して100年余りにわたる議論に終止符を打つものだという。

 世界に分布するマウスは、4つのグループ(亜種:ドメスティカス、ムスクルス、キャスタネウス、モロシヌス)に分類される。実験用マウスは1900年代初頭に米国の生物学者リトル(Little)博士が、ペットとして飼われていた西ヨーロッパ産マウス(ドメスティカス)から遺伝的に均一な「C57BL/6」系統のマウスを樹立したのが最初だ。日本でも1970年代から国立遺伝学研究所の森脇和郎博士らが世界中の野生マウスから多くの系統を樹立し、現在ではさらに、さまざまな特徴をもったマウスの基準系統が400以上作られている。

 研究グループは、日本産マウス(モロシヌス)由来の2つの系統「MSM/Ms」と「JF1/Ms」のゲノムを解読し、標準的な実験用マウスのC57BL/6系統とゲノム配列を比較した。MSM/Msマウスは、同研究所のある静岡県三島市で捕獲された野生マウスから森脇博士が樹立した。JF1/Msも森脇博士が、デンマークのニールセン(Nielsen)博士が飼っていたマウスを系統化したものだが、パンダのように白地に黒い斑(ぶち)の入った姿が、江戸時代中期(1787年)に発刊されたハツカネズミ飼育本『珍翫鼠育草(ちんがんそだてぐさ)』に出てくる「豆ぶち」マウスにそっくりなことが分かり、後の遺伝解析でやはり日本由来であることが確認されていた。

 今回の比較解析の結果、C57BL/6マウスのゲノムの約90%は西ヨーロッパ産マウス(ドメスティカス)由来で、残りの部分は日本産マウス(モロシヌス)由来であることが確認された。またC57BL/6マウスには、本来が日本由来のJF1/Msマウスのゲノム配列と極めて類似度の高い((99.998%以上)領域が散在していることなどが分かったという。

 日本の「豆ぶち」マウスは江戸末期にヨーロッパに渡り、日本国内の系統は戦前までに途絶えてしまった。研究グループは「日本産マウスが今日の実験用マウスの基準系統の起源となり、ゲノムの多型性やその研究に大きく貢献していることが分かった」と述べている。

マウスの4亜種の世界分布と、今回ゲノムを比較解析した3系統マウス(提供:国立遺伝学研究所)
マウスの4亜種の世界分布と、今回ゲノムを比較解析した3系統マウス(提供:国立遺伝学研究所)

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