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ホタル発光利用の生体pHモニター

2013.05.21

 東京大学大学院の服部満特任研究員や小澤岳昌教授、北海道大学大学院の尾崎倫孝教授らは、ホタルの発光に関わるタンパク質とイネ科植物の光受容体の一部を組み合わせた発光タンパク質を細胞に入れ、その発光する速度から、生きた動物体内のpH変化(酸性度)を長時間安定してモニターする方法を開発した。生体内のpH異常はさまざまな疾患や障害に関係することから、より簡便な検査技術の開発につながるものと期待される。

 研究グループは、ホタルの発光のために働くタンパク質「ルシフェラーゼ」と、イネ科植物がもっている光受容体の一部のタンパク質「LOV2」を組み合わせた人工の発光タンパク質を作った。LOV2は青色の光を吸収することで構造が変化する性質があり、植物はこれによって光の方向に曲がったり、葉の気孔の開閉などが引き起こされたりしている。

 作製した発光タンパク質は、青い光を当てると構造が変化して一時的に発光が弱まり、しばらくすると元の強さに回復した。その発光の回復時間は環境が酸性であるほど遅くなることから、発光の回復時間を計測することで周囲のpHをモニターできることが分かった。

 実際に、この発光タンパク質を生きたマウス足先の皮下に注入し、外から青い光を照射すると、やはり発光が一時的に減少し次第に回復した。この回復速度を色別に変換し、マウス体内でのpH環境を画像化することにも成功した。マウスの足先の血管を止めて酸欠状態にし、止血解除後に徐々に酸性から中性へとpHが変化する様子を画像で観察することができた。

 細胞は、酵素などのタンパク質が効率よく働けるように自らコントロールして、内部のpHをおよそ7.2に保っている。さらに、不必要になったタンパク質を分解するために、pHが低い(酸性) 場所も細胞内に区分けして持っている。しかし、異常な環境下では正常pHが保てず、止血などの酸素の欠乏状態ではpHが低下(酸性化)し、ウイルスやがん化によってもpHは大きく乱れる。そのため個々の細胞や組織、臓器、あるいは炎症部位や腫瘍などのpHを測る技術が求められているという。

 研究論文“Sustained accurate recording of intracellular acidification in living tissues with a photo-controllable bioluminescent protein”は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に20日掲載された。

 また今回の研究は、JST先端計測分析技術・機器開発プログラム(要素技術タイプ)、科学研究費補助金・若手研究(S)、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、三菱財団自然科学研究助成、日本科学協会・笹川科学研究助成の支援を受けて行われた。

発光の回復時間を色変換して、細胞集団のpH値を画像化した(提供:東京大学)
発光の回復時間を色変換して、細胞集団のpH値を画像化した(提供:東京大学)

 

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