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最適な光環境を作る“調光型光フィルター”

2013.04.26

 国立精神・神経医療研究センター「精神保健研究所」の太田英伸・診断研究室長と産業技術総合研究所 環境応答機能薄膜研究グループの田嶌一樹主任研究員らは、人工保育器内の早産児がよく眠れ、十分に発育するように外界からの光を遮断する「調光型光フィルター」を共同開発したと発表した。この光フィルターによって最適な光環境が作れ、夜間においても医療従事者は外から保育器内の赤ちゃんの様子を見ることができるという。

 研究グループによると、在胎37週未満の「早産」のため低体重で生まれた赤ちゃんは、24時間同じ明るさの環境で育てるよりも、昼夜のある環境で育てる方がより体重が増加することが報告されている。妊娠28週目ぐらいから赤ちゃんは光の明暗を感じるようになるが、病院によっては治療などのために、早産児がいる新生児集中治療室(NICU)を夜間も完全に暗くしていないところもある。

 これまでに研究グループは、妊娠40週目ぐらいまでの赤ちゃんは波長が600ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の光を主に知覚することを発見し、600ナノメートル以下の光だけを遮断する特殊な樹脂製光フィルターを開発した。今回はさらに、数ボルトの電圧をかけることで透明性や色合いなどの光学特性を切り替えることができる「調光型光フィルター」を開発した。

 調光型光フィルターでは、フィルターの多層構造の1層にマグネシウム・イリジウム合金薄膜を用いることで、赤色系の透明性を出現し、600ナノメートル以下の光を遮断する。さらに電圧によって色の濃淡を制御し、不透明の黒色状態、鏡状態にすることもできる。基材にはガラスだけでなくプラスチック素材も用いることができるので、人工保育器内の光環境の制御だけでなく、さまざまな用途に応用できるという。

 今回の研究は、NEDO産業技術研究助成事業・研究課題「液晶型光フィルターを用いた早産児の発達障害を予防する次世代人工保育器の開発」「高効率成膜プロセスを用いた機能性酸化物薄膜の開発および調光ミラーデバイスへの応用と優れた耐環境性能を有する構造開発」(2009-13年)によって行われた。

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(a)「調光型光フィルター」の外観変化(a)赤色状態(透明)(b)「調光型光フィルター」の外観変化(b)黒色状態(不透明)(c)「調光型光フィルター」の外観変化(c)鏡状態
「調光型光フィルター」の外観変化
(a)赤色状態(透明)(b)黒色状態(不透明)(c)鏡状態
(提供:産業技術総合研究所)

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