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遺伝性リズム障害の原因

2013.04.17

 体内の24時間リズムに関わる遺伝子が離乳期前後に脳中枢で働かなくなると、神経細胞間のネットワークが形成されず、成長しても体内時計の機能が消失してしまうことが、北海道大学大学院医学研究科の本間研一・客員教授らのマウス実験で分かった。出生初期の脳から分泌される液性因子を中枢部に作用させるとリズムが回復したことから、新たなリズム障害の治療法の開発につながることが期待されるという。

 哺乳類の睡眠・覚醒や血圧、心拍数、ホルモン分泌などの体の機能は、1日周期のリズム(概日リズム)で変動している。この体内リズムを支配する最上位の機関が、脳の深部で左右の視神経の交差点近くにある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」だ。視交叉上核は、マウスやリスなどのげっ歯類では左脳・右脳で約2万個の神経細胞からなる神経集団で、これらの神経細胞内で「時計遺伝子」と呼ばれる一群の遺伝子が働き、全身の細胞に24時間のリズムを発振している。こうした概日リズムは、特に「Cryptochrome(Cry)」という時計遺伝子が欠損すると全く見られなくなるが、その理由は不明だった。

 研究グループは独自に開発した蛍光分析技術を用いて、視交叉上核の組織や細胞で概日リズムの生後発達を調べた。その結果、Cry遺伝子を欠損したマウスの視交叉上核では、生後7日目までは個々の細胞リズムが互いに同期しているが、生後21日ごろの離乳時期の前後でリズムは“脱同期”し、体内時計として機能できない状態になっていた。

 新生児期には、視交叉上核を含む脳細胞から液性因子が分泌され、神経細胞間のネットワーク形成にも関わっている。そこで正常マウスから得られた液性因子を、時計機能が消失した視交叉上核に作用させるとリズムが回復した。これらのことから、視交叉上核では離乳時期にCry遺伝子が働いて細胞間ネットワークを形成し、成人型の体内時計を形成することが明らかになった。

 研究グループによれば、生後初期は脳内神経細胞のネットワークが劇的に変化する時期で、それに伴いさまざまな機能が形成される。今回の研究は、体内時計の発達を促す因子の究明やリズム障害への治療法の開発、さらに、脳内神経ネットワーク形成の新たなメカニズムの解明にもつながることが期待されるという。

 研究論文“Cryptochromes are critical for the development of coherent circadian rhythms in the mouse suprachiasmatic nucleus”は英科学誌「Nature Communications」(オンライン版、10日)に掲載された。

哺乳類の生物時計中枢は視交叉上核に存在する(提供:北海道大学)
哺乳類の生物時計中枢は視交叉上核に存在する
(提供:北海道大学)

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