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赤い蛍光試薬で細胞内カルシウムイオンを可視化

2013.02.20

 東京大学大学院薬学系研究科の花岡健二郎・准教授らのチームは、カルシウムイオンを赤く光らせて可視化する新しい蛍光試薬を開発した。色の異なる蛍光試薬と併用することで、ラット脳のスライス切片でのカルシウムイオンの濃度変化と脳神経細胞を可視化し、神経細胞が自然に興奮する「自然発火」と呼ばれる現象を捉えることに成功した。今回の開発は、マルチカラーイメージングの可能性を大きく広げるものだという。

 生体内での現象をリアルタイムで高感度に観察するために、緑色蛍光試薬「フルオレセイン」が広く用いられている。フルオレセインは高い水溶性と高い蛍光輝度を持ち、さらに蛍光制御機構が確立されているなどの特徴があるが、他の緑色蛍光試薬とは併用できず、緑色蛍光タンパク質を発現させた細胞や動物には用いることができないという問題があった。そこで花岡准教授らは、フルオレセインの優れた特性を保持したまま、緑色蛍光タンパク質(GFP)や他の緑色蛍光色素と併用することができる赤色の蛍光色素「TokyoMagenta(TM)」を2011年に開発した。

 さらに今回、研究チームはTokyoMagentaを用いて、細胞質に均一に分布し、細胞内部におけるカルシウム濃度変化を可視化できる新しい赤色蛍光色素「CaTM-2」と、細胞膜を透過できるように成分を改良した「CaTM-2 AM」を開発した。ラット脳のスライス切片をCaTM-2 AMと細胞体の染色に用いられる「アクリジン・オレンジ」で同時に染色した結果、神経細胞の活動を発火に伴った細胞内のカルシウムイオンの濃度変動を可視化することに成功した。アクリジン・オレンジとの併用で、神経細胞が一つ一つ明瞭に区別でき、より詳細な可視化解析が可能となった。

 なお今回の研究は、科学技術振興機構の研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)要素技術タイプ「次世代型蛍光プローブの創製を目指した新規蛍光団の開発」によって行われた。研究論文“Red Fluorescent Probe for Monitoring Dynamics of Cytoplasmic Calcium Ions(細胞質内カルシウムイオンの濃度変動を可視化する赤色蛍光プローブの開発)”は近く、ドイツの科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載される。

ラット脳スライス切片における神経細胞の自然発火の画像化(提供:科学技術振興機構) 
 (a-c)CaTM-2の蛍光像(a)、細胞体を同定するために用いたアクリジンオレンジの蛍光像(b)および、重ね合わせた蛍光像(c)。(d)CaTM-2の蛍光強度の時間変化。(a)内に示した1〜5の位置において、神経細胞の発火に伴う細胞内カルシウムイオン濃度の変動を蛍光強度の変化として捉えることに成功している。
ラット脳スライス切片における神経細胞の自然発火の画像化(提供:科学技術振興機構)
(a-c)CaTM-2の蛍光像(a)、細胞体を同定するために用いたアクリジンオレンジの蛍光像(b)および、重ね合わせた蛍光像(c)。(d)CaTM-2の蛍光強度の時間変化。(a)内に示した1〜5の位置において、神経細胞の発火に伴う細胞内カルシウムイオン濃度の変動を蛍光強度の変化として捉えることに成功している。

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