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ツシマヤマネコの脳にヒトと同じアルツハイマー病の病変

2012.10.15

 長崎県対馬にのみ生息する国の天然記念物ツシマヤマネコの脳で、ヒトと同じようなアルツハイマー病の病変が起きることを、東京大学大学院農学生命科学研究科のジェームズ・チェンバーズ特任助教や中山裕之教授らの研究チームが発見した。

 チームは、鹿児島大学や山口大学などの研究施設に保存されている、ツシマヤマネコの脳組織のパラフィン標本(14匹分)を詳しく観察した。14匹のうち10匹は交通事故で死んだために年齢は不明だが成獣とみられ、他の2匹は繁殖施設で生後3日目に死亡、さらに2匹は保護施設でそれぞれ10年、15年間飼育されていた。ちなみにネコの10歳は、ヒトの80歳ほどにあたる。

 その結果、年齢不明の成獣4匹と10年・15年飼育の2匹の計6匹の脳組織に、ベータ(Β)アミロイド・タンパク質の沈着を発見した。Βアミロイドは神経網に顆粒状に沈着していたが、Βアミロイドが凝集して形成される、ヒトのアルツハイマー病に特徴的な「老人斑」は観察されなかった。Βアミロイドのアミノ酸配列を決定したところ、老人斑を形成するヒトおよびイヌ、サル類のΒアミロイドとは7番目のアミノ酸残基が異なっていることを突き止めた。また、この6匹のうち5匹には、高リン酸化タウ・タンパク質が沈着した神経細胞(神経原線維変化)がみられた。この神経原線維変化の病変の形態、分布、構成タンパク質はヒトのアルツハイマー病のものと同じだった。

 ヒトのアルツハイマー病では、Βアミロイドの蓄積によって老人斑と神経原線維変化が生じ、神経細胞が脱落するために認知症を発症すると考えられている(アミロイド仮説)。今回の5匹に認知症の症状が出ていたかどうかは不明だ。これまで、日本国内の動物園で飼育されていた老齢チーターが、老人斑を形成せずに神経原線維変化を起こしていたことが報告されている。今回のツシマヤマネコの研究成果は、ネコ科動物は老人斑を形成せずにアルツハイマー病と同様な神経原線維変化を起こす、特殊な存在であることを示す重要な知見だという。

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