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福島原発事故についての政府事故調・最終報告書の要旨〈その8〉

2012.09.18

《全交流電源喪失事象(SBO)》

東京電力福島第一原発の事故時運転操作手順書(事象ベース)において、SBO時の直流電源の監視可能時間を8時間などとしていた経緯

  • 「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(以下「安全設計審査指針」)が求める「電源喪失に対する設計上の考慮」については、現在の設計においては、30分間のSBO時に、炉心(沸騰水型原子炉〈BWR〉の場合)または1次系(加圧水型原子炉〈PWR〉の場合)を冷却する機能を持つ系統の存在と、これらの系統の動作を制御するための直流電源の容量とによって満たされると判断されてきた。
  • 今回の調査過程においては、東京電力福島第一原発の1号機から4号機の事故時運転操作手順書(事象ベース)において、SBO時の直流電源の監視可能時間を、1号機は10時間および2号機から4号機は8時間としていたことが明らかになった。
  • 米国原子力規制委員会(NRC)は、1980年7月、米国での過去の外部電源喪失発生事例およびDG(ディーゼル発電機)の起動失敗事例が数多くあることから、SBOを未解決の安全問題(USI)のA-44に指定して検討を開始し、1985年5月、外部電源および非常用交流電源の信頼性に応じてプラントが4時間または8時間のSBOに対する耐力を持つことを要求するというNRCスタッフの規則案を公表した。
  • 当時、我が国では、当時の安全設計審査指針の指針9「電源喪失に対する設計上の考慮」において、プラントがSBOに短期間(30分程度)の耐性を持つことを要求し、安全審査においては、30分程度のSBOに対して耐性を有するかどうかを審査していた。
  • 東京電力、東芝および日立製作所のプラントメーカーは、NRCの規則案に基づいて、国内の代表的なBWR プラントを対象に評価を行い、その評価結果として、前記規則案に準じた場合、国内BWRでは4時間の耐性が要求されるが、実際には8時間程度の耐性があることを確認した。
  • 1988年、NRCは「10 CFR 50.63」に、SBOに対する規定を追加して「一定時間のSBOの継続」に耐えられる設計であることを求め、また、これを受けて「規制指針(Regulatory Guide)1.155 SBO」を発行し、米国においては、各プラントの設計状況により、2時間、4時間、6時間、8時間または16時間の耐性を持つように要求されることとなった。
  • 1989年3月、東京電力は、福島第一原発4号機の蓄電池の交換時期を契機として、福島第一原発の1号機から4号機までを含むBWR-3、BWR-4およびBWR-5について、東芝および日立において受託研究「BWRの確率論的安全評価に関する研究」を実施した。
  • その研究によると、NRCの「規制指針1.155 SBO」に準ずると、国内のプラントはDGの信頼性が高く、外部電源の設計も比較的良好のため、求められるSBO耐性は4時間となる。そのため、4時間の耐性確認で十分となるものの、受託研究においては1ランク上の8時間の耐性があるか確認を実施し、結果としては、蓄電池の放電時間などのプラントの設計条件は4時間であるが、外部電源喪失時に必要となる機器の運転を、水源、環境温度、蓄電池容量などを踏まえた実運用ベースで実力評価すると8時間などの耐性が確認された。
  • 東京電力は、受託研究の報告を踏まえ、1990年8月に、各事故時運転操作手順書(事象ベース)に「全交流電源喪失事故」の項目を追加し、SBO時の直流電源の監視可能時間を8時間などとして、SBO時の手順書を整備していた。
  • その後、安全委員会は「原子力施設事故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループ」において、93年6月に報告書をまとめ、NRC のSBO規則における要件などとの対比の下に、我が国の代表プラントにおけるSBO発生頻度やSBO耐久能力(SBO時の蓄電池および冷却用水源による耐久時間)を検討した。
  • その結果、我が国では外部電源および非常用DGの信頼性が高く、SBO耐久能力は、(安全審査においては慣行として30分間しか要求されていないものの)実力値としては加圧水型原子炉(PWR)で5時間以上、沸騰水型原子炉(BWR)で8時間以上であってSBO規則を満たしているとした。
  • ただし、SBO規則が降雪、ハリケーン、竜巻などの外的事象の想定を求めている(地震、洪水は含まれていない)のに対して、同ワーキング・グループにおける検討では外的事象によるSBOの可能性は論じられていなかった。
  • このワーキング・グループにおける議論には、部外協力者として原研、東京電力および関西電力も参加していた。安全委員会より公開された資料によれば、同ワーキング・グループの報告書を作成するに当たり、1992年7月付けで「電力」も一部の原稿の作成を担当することとする案が作成された。報告書の結論部分は事務局が原稿を作成するものの、「電力」においては、SBOに対するプラントの設計や運転管理の実施状況に関する部分や、安全審査、運転管理などに関する現状の位置付けと対応策などに関する部分を作成することとされた。
  • また、92年10月付けで(旧科学技術庁原子力安全局の)「原子力安全調査室」名で作成された質問票には、短時間のSBOについて、「今後も『30分程度』で問題ない(中長時間のSBOを考えなくて良い)理由を作文して下さい」との依頼が記載されていた。
  • これに対し、同年11月に関西電力より回答された文書には、手書きで、「30分の根拠を本Reportで明確にすることは、無理」と書き込まれている一方、東京電力の回答※には、「今後、マージンを下げる方向ではないなら、これでOK」との書き込みがなされていた。
  • ※「我が国のSBOの位置付けは、外部電源及びD/Gの信頼性の高さ、手順書の整備を反映し、PSAの結果から見ても突出した炉心損傷頻度を有するものとなっていない。仮に米国R.G.1.155 に基づいて我が国プラントの適合性を見たとき、耐久能力の要求時間は4時間となるが、これに対し我が国プラントは少なくとも5時間の耐性を有している。これらは、我が国プラントは30分程度のSBOに対する耐性で設計されているが、それに対する設計の余裕及び我が国のD/Gの信頼性の実績等の現状においては、適切なマネージメント操作が実施されれば、十分な安全性が確保されるものとなることを示している。」(「程度」は原文のとおり)
  • 93年6月に取りまとめられた報告書には、東京電力の回答の丸写しではないが、内容的にはこれに近似したことが書かれており、東京電力の回答が参考にされたものと考えられる。
  • 20年前のことで具体的な事実経過は明らかでなく、電力側に「理由」の「作文」を求めたとしても、それを鵜呑みにしたのではなく、参考としつつもあくまでワーキング・グループとして必要な評価・判断が行われた可能性はあるが、少なくとも、報告書の原稿作成を電力会社に分担させたり、理由づけの「作文」を求めたことは、規制関係機関として不適切であったと言わざるを得ない。

NRCにおける「B.5.b」

  • 全交流電源喪失事象(SBO)対策として活用できるものとして、取り上げられる対策の1つに、米国原子力規制委員会(NRC)におけるセキュリティ対策としてのいわゆる「B.5.b」 がある。
  • NRCは、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件の発生を受け、02年2月に、「B.5.b」の節を含む、セキュリティ上の暫定的な追加措置命令を発出した。
  • 「B.5.b」の詳細は、米国において「セキュリティ関連情報」とされているため、現時点においても不明である。概要は、東日本大震災後に開催されたNRC委員会会合の資料などによると、「B.5.b」によって3段階の対応が必要とされる。第1段階として初動対応に利用可能な機材や人員の準備、第2段階として使用済燃料プールの機能維持および回復のための措置、第3段階として炉心冷却と格納容器閉じ込め機能の維持および回復のための措置が求められている 。
  • 06年12月、米国の原子力エネルギー協会は「NEI 06-12, Revision2, “B.5.b Phase 2 & 3 Submittal Guideline”」※を発行し、NRCは、同月に「B.5.b」の要件を履行可能な手立てとして是認した。
  • ※「NEI 06-12, Revision 2, “B.5.b Phase 2 & 3 Submittal Guideline”」は、爆発や火災によってプラントが大きく損傷した状況下において、炉心冷却、格納容器閉じ込め機能および使用済燃料プールの冷却能力を維持し、または回復することを目的とした各方策を整備するための手引であり、東日本大震災後の2011年5月に明らかになった(ML070090060)。
  • これらの意見を踏まえ、事務局では、防災対象地震の考え方を再検討することとした。
  • 07年9月、NRCは、航空機衝突の影響評価として、セキュリティ要件としての「B.5.b」 に「類似した内容」を、安全要件としても位置付けるという規制案を発表した。これにより、「B.5.b」は、設計基準を超えた航空機衝突を含めあらゆる要因による大火災や大爆発により、施設に大きな損傷を受けた場合に対処するため、炉心冷却、格納容器閉じ込め機能、使用済燃料プールの冷却能力を保ち、または回復するために、容易に利用可能なリソースを使った緩和方策を採用するよう要求していたということが明らかになった。
  • 08年5月、福島章原子力安全・保安院首席統括安全審査官らがNRCを訪問し、セキュリティに係る意見交換として、原子力発電所に対する航空機衝突に係る米国の取組を聴取した。保安院は、NRC訪問の後、同月訪問時の説明資料や「B.5.b」本文などの資料を入手したいとNRCに依頼したが、結局、これらの資料は入手できなかった。
  • 09年3月、保安院は、公開の原子力安全・保安部会(第29回)において、航空機衝突について米国を始め国際的な動向の調査を進めることを報告し、同年11 月までに、原子力安全基盤機構(JNES) において原子力発電所に航空機が衝突した場合の影響評価を行った。
  • 09年3月、NRCは、07年9月の規制案を踏まえ、セキュリティ対策の要件としての「B.5.b」 に「類似した内容」を、原子力の安全確保の要件としても位置付けた。当該要件においては、爆発や火災によってプラントが大きく損傷した状況下において、炉心冷却、格納容器閉じ込め機能、使用済燃料プールの冷却能力を保ち又は回復することを目的とした準備として、(1)消火活動、(2)燃料損傷緩和策、(3)放射線放出を最小限に抑えるための措置、の3つに分類される14 点を考慮した方策が要求された。
  • 保安院は11年1月には、影響評価の結果について、NRCの助言を得た上で、順次規制への取組を行う旨の「航空機衝突に係る検討の進め方について」という方針を決定した。なお、同年3月の時点では、保安院はNRCに対し、日本のこれまでの検討について意見交換するための機会を設定してもらうことを申し入れ、日程等の調整を行っているところであった。
  • 11年10月に開催された第19回原子力工学国際会議(ICONE-19)において、NRCの元委員長であるNils J. Diaz 氏が講演を行っており、その中で、「もし仮に、日本でB.5.b 型の安全性強化策を効果的かつタイムリーに実施していれば、福島第一原子力発電所の運転員が直面した事態は軽減されていたであろうし、とりわけ、全交流電源喪失事象(SBO)並びに炉心および燃料プールの冷却への対処がなされていたであろう」旨発言している。
  • 当該学会に参加していた原子力委員会の近藤駿介委員長は、当委員会のヒアリングにおいて、「当時の米国は、そんなオープンには言っていなかった。そのことを学会でこのように言うようになったのは、ものすごい変化。でも、後で言われてもと感じた」「Nils J. Diaz 氏の発言が本当なら、大事故が防げたかもしれないが、米国のB.5.b について、昨年(2011年)のNRC の委員会会合で、米国は日本を含む国々に考え方を伝えたとの発言があったので、関係者に聞いたところ保安院に伝えたと分かった。原子力委員会は安全委員会が引き受けないというので、核セキュリティの基本政策を所掌しているが、このことは世界の常識ではないこともあって、こういう情報は私のところには寄せられていない」「保安院は、あの情報を入手したら、原子力安全の人とちゃんと共有し、安全の立場から見ても利益のある追加対策を使用済燃料プール等に施しておく、少なくともそういう観点からの取扱いをどうするのがよいか内部で協議するべきだったのではないか」旨述べている。

《原子力災害対応体制の検討経緯》

原子力災害対策特別措置法策定時の議論

  • 「原子力災害対策特別措置法」(原災法)は、1999年のジェー・シー・オー核燃料加工施設における臨界事故(JCO臨界事故)の発生を踏まえ、同年、原子力災害に対する対策の強化を図ることにより国民の生命、身体および財産を保護することを目的として制定された法律である。
  • 一般的な災害対策では、地方公共団体の長に最も重い責任があるが、原子力災害の場合は、国がより主体的に責任を負うものとした。
  • 放射線は目に見えないので、事故初期の対応を遺漏なく行えるようにするため、原子力災害の基準を明確に定量化し、原子炉の中で何が起こっているかにかかわらず、施設外部で計測された放射線が一定値以上になったら、自動的に「原子力災害対策本部」が立ち上がって「原子力緊急事態宣言」が発出されるといった制度設計とした。
  • 原子力災害に関連する様々な情報が最も集まるのは現地であり、現地中心に対応方針を決めていくべきとした。つまり、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)において国、県、市町村などの関係職員が原子力災害合同対策協議会を作り、そこで実質的に意思決定を行うという運用面の仕組みを考え、基本的には原子力災害現地対策本部長が権限の委任を受けて対応策を講じていき、その中で重要な事項は当然東京の対策本部に相談することを排しないというものとした。
  • 安全委員会の原子力災害対策への関与については、最終的な責任は規制官庁にあるものの、行政官の技術的対応能力の限界を踏まえ、技術的知見、学識経験を持つ者を災害対策に関与させるべく、原子力委員会および原子力安全委員会設置法を改正し、「緊急事態応急対策調査委員」制度を創設した。

防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲(EPZ)などの考え方

  • 今回の原子力災害においては、オフサイトセンターが当初予定されていた機能を果たすことができなかったり、広範囲かつ長期間にわたり住民避難を余儀なくされたりといった事態が発生した。
  • これらの背景として、原子力災害対応体制を検討する際の事故事態想定が過小であった可能性がある。

 「EPZの範囲設定の考え方」

  • 防災指針によれば、EPZの目安は、原子力施設において十分な安全対策がなされているにもかかわらず、あえて技術的に起こり得ないような事態までを仮定し、十分な余裕を持って原子力施設からの距離を定めたものであるとしている。
  • 具体的には、施設の安全審査において現実には起こり得ないとされる仮想事故などの放出量を相当程度上回る放射性物質の量が放出されても、EPZの外側では屋内退避や避難などの防護措置は必要がないことなどを確認し、過去の重大な事故(JCO臨界事故や米国のスリーマイル島原発事故)との関係も検討して、福島第一原発のような原子力発電所については半径約8-10kmと決められた。
  • 当委員会によるヒアリングでは、防災指針においては、格納容器が損傷する事態やベントが行われる事態は検討に入れておらず、あくまで「リーク」により格納容器外に漏出するものとしてその量を評価している。
  • 一方、現在のPSAの知見からは、格納容器が損傷するような事故では「放出源から8kmおよび10kmの区域の外側において屋内退避を必要とするような放出量」をはるかに上回る量の放射性物質が放出されると見積もられている。
  • また、希ガスとヨウ素しか考慮していないのも、フィルターを通して放出されるメカニズムを前提としているためであり、セシウムなどの固体微粒子は放出されない想定となっているとのことであった。
  • 原子力災害対策で勘案したのは、格納容器損傷は起こらない前提の計算でしかなく、ましてや今回のような複数号機が一度に損傷するような事態は想定されていなかった。

 「IAEA文書において示された予防的措置範囲(PAZ)など」

  • 国際原子力機関(IAEA)では、2002年の安全要件GS-R-2「原子力または放射線の緊急事態に対する準備と対応」および07年の安全指針GS-G-2.1「原子力又は放射線緊急事態の対策の準備」において、重篤な確定的影響のリスクを低減するため、施設の状況に基づいて放射性物質の放出前または直後に、予防的緊急防護措置を実施するための整備がなされていなければならない区域としての「予防的措置範囲」(PAZ)、および緊急防護措置を迅速に実施するための整備がなされていなければならない区域としての「緊急防護措置計画範囲」(UPZ)を定めることを提案している。
  • PAZにおいて実施される防護措置内容として、周辺住民への確定的影響の防止または低減を目的として、放射性物質の放出前または放出直後にPAZ内の住民の屋内退避や避難等を実施することとしている。
  • UPZについては、事故が発生したらまず緊急環境放射線モニタリングを行い、放射性プルームの濃度と拡散方向を把握してから、PAZの外ではあるが避難などが必要という領域があればそこにいる住民を避難させようといった概念で、防護措置においてPAZよりも多少の時間的余裕があるものであるとされている。
  • また、UPZにおいて行われる防護措置は、確定的影響の回避とともに確率的影響を実行可能な限り低減することも目的としている。
  • GS-G-2.1では、熱出力100万kW以上の実用発電炉におけるPAZおよびUPZの範囲として、PAZについては3kmから5km(5kmを推奨)、UPZについては5kmから30kmが提案されている。

 「IAEAの考え方を踏まえた我が国の対応」

  • 2009年に発行された国際原子力機関(IAEA)の安全指針NS-G-2.15「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」(策定前は安全基準案DS385)においては、停止時および低出力時を含む内的事象並びに外的事象の全事象を含み、また、使用済燃料プールにおける燃料損傷事故に対するAM整備を求めている。
  • DS385については、07年2月にIAEAが原子力安全基準委員会(NUSSC)委員に提示した。我が国では、同年3月、国内検討会である、第4回IAEA国際安全基準検討会を開催し、同年4月のIAEAの第23回NUSSC会合に向けた対処方針案およびコメント案の検討を行っている。
  • その会議資料において、国内のAM整備との相違点として「外的事象、火災、地震、溢水その他自然災害を対象に含めている(国内では出力運転時の内的事象のみ)」との記載がある。
  • 第23回NUSSC会合においては、我が国からは、修正を求めるコメントを提出しているものの、前記相違点に係るコメントは含まれてはいなかった。
  • その後、IAEAからDS385の修正案文が示され、08年4月に開催された第6回IAEA国際安全基準検討会において、翌5月の第25回NUSSC会合に向けた対処方針案およびコメント案の検討を行っている。
  • その会議資料においては、DS385に、停止時や使用済燃料ピットにおける燃料損傷事故に対するAM整備およびその他の放射性物質大量放出事象、例えば、廃棄物処理系からの大量放出に対するAMの検討が求められていること、並びに、外的事象時の緩和策に必要な水源などの確保について記載されていることが言及されている。
  • 第25回NUSSC会合においては、我が国からは、技術的修正を求めるコメントを提出しているものの、前記第6回IAEA国際安全基準検討会の会議資料における言及内容に係るコメントは含まれてはいなかった。
  • その後、各国からのコメントを踏まえ、IAEAから再度、DS385の修正案文が示された。08年8月に、国内検討会である「CSS24会合対応検討会」が開催され、IAEAの第24回CSS(安全基準委員会)会合に向けた対処方針案およびコメント案の検討が行われた。その会合において、DS385について技術的修正を求めるコメントを提出するほかは承認してよいとされた。
  • DS385は08年9月の第24回CSS会合において承認された。

 「最近の情勢」

  • 安全委員会は、GS-G-2.1のドラフトDS105が05年にIAEAのCSSにおいて了承されたことなどを踏まえ、国際的な原子力防災に関わる検討を踏まえた防災指針の見直し等を調査検討するため、06年3月29日に第1回の防災指針検討ワーキング・グループを開催した。
  • 防災指針検討ワーキング・グループでは、当初、PAZ概念を我が国に導入しようという方向で議論していた。
  • しかしながら、保安院から、我が国においては大量の放射性物質が外界に放出されるような重大事故は極めて起こりにくく、起こったとしても長期間にわたることはないと考えられ、PAZとして5km圏内は直ちに避難することとするのは必要がない。仮に、PAZ概念などのIAEAの考え方を導入した場合には、原子力立地地域および地域住民に居住地やオフサイトセンターなどの移転を考慮させることとなるなど、多大な社会的混乱を惹起するとともに現行のEPZにおける防災対策が不十分であるとの認識を与えることとなり、原子力安全に対する国民の不安感を増大するのではないか、といった強い抵抗があった※。

※2006年5月24日に安全委員会委員と保安院幹部との昼食会で、当時の保安院長の広瀬研吉氏から「寝た子を起こすな」「JCO臨界事故への対策が一段落するなどしてようやく国民が落ち着いたときに、なぜまた敢えてそのような議論をして国民を不安に陥れるのか」といった反対発言があったという。

  • 安全委員会としても、住民の恐怖感をあおるというのはPAZ導入に反対する理由にならないが、PAZの概念はもともと米国のシステムに基づくものであり、我が国においてPAZという領域だけ設定しても、米国では事業者が定めることとされている緊急事態を区分するための緊急時活動レベル(EAL)に相当するものの体系化がなされない限り機能しないものと考え、まずは、既に我が国の原子力防災訓練でPAZにおける緊急防護とよく似た措置が行われていたことを踏まえ、そのようなやり方を徐々になじませた上で、IAEAにおけるEALの議論が確定した時点で、次のステップとして我が国にPAZを導入することとしようという判断がなされた。
  • ただし、このときの検討においては、事故の想定として、我が国の軽水炉においては今回の福島第一原発事故ほどの事象は想定されず、影響範囲は、最大でも従前の指針で規定していたEPZの範囲に収まるものと考えられていた。
  • その結果、改訂防災指針にPAZという概念や範囲の値を直接的には書きこまず、本文中に「放射性物質の放出前または放出後直ちに、地域の実情や異常事態の態様および今後の見通しなどによっては、予防的に屋内退避あるいは避難などの対策を実施することも有効である。」という文言を記載するとともに、付属資料においてPAZを取り上げ、「既に現行の防災指針に基づくEPZ内における対応として、各地方公共団体の実情に応じて、施設の状態の基づいた放出前または直後の防護対策に係る訓練が行われているところ。」と書き入れることとされた。
  • 防災指針検討ワーキング・グループの議論は、PAZの我が国への導入が主眼であり、UPZは最初から余り議論の対象とならなかった。
  • 当時の防災指針に示されているEPZの対象施設や半径についても、IAEA文書において示されたものを満たしており、また、半径について諸外国と比べ大差なかったことから、EPZの半径などについて特段の見直しはなされなかった。

 「原子力災害と大規模自然災害の同時期発生への対処」

  • 2007年新潟県中越沖地震の際の東京電力柏崎刈羽原子力発電所における火災事故を契機に、保安院において「原子力災害などと同時期または相前後して、大規模自然災害が発生する事態に対応した原子力防災マニュアルなどの作成上の留意事項(素案)」がまとめられた。
  • 同素案に対しては、国の関係機関や地方公共団体から批判的な意見が寄せられ、2010年10月、保安院は、複合災害対策も現行の防災スキームに沿って取り組むという方針を決定した。
  • これにあわせて、原子力災害を含む複数種類の災害が同時期に発生した場合に備えることの必要性やそれに備えた全体的な防災体制はどのようにあるべきかについて、内閣府(政策統括官〈防災担当〉付部局)に相談し、今後、中央防災会議に諮問することも視野に入れて調整を図り、方向性が定まった後に、具体的な原子力防災体制の拡充について、その対応と調整を関係機関とともに開始するといった方針も決定された。
  • 保安院側は、その方針に基づき、2011年3月8日に、内閣府に対し、複合災害について中央防災会議で議論させてもらいたい旨申し入れた。
  • このときの応対について、内閣府側は「申入れは内閣府側の業務の都合によりごく短時間の挨拶程度のもので終わり、今後具体的な内容が固まってきたら必要に応じて相談していこう」と返答するにとどまったと供述しているが、保安院側は「中央防災会議の話ではないとのことで、内閣府側に受け付けてもらえなかった」と供述しており、詳細なやりとりまで確定するには至らなかった。
  • 内閣府は原子力災害対策の内容面には関与しないという姿勢がうかがわれた。
  • また内閣府では、複数種類の災害(原子力災害を含まない場合を含む)が同時期に発生した場合に対する防災について、東日本大震災以前には余り議論したことはなかった。その背景として、さまざまな自然災害の単独発生に対する防災体制の整備を優先すべきだと考えていたこと、複数災害の同時期発生シナリオとして、どこまでのものを想定すべきかを決めかねたこと、人員体制的に複数災害の同時期発生対策までを対象とすることが困難であったことを挙げている。

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