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大学教授が実名で個人ゲノム情報を公開

2012.08.01

 慶應義塾大学環境情報学部の冨田勝教授(同大学先端生命科学研究所所長)は、自分自身のゲノム(全遺伝情報)を解析し、7月31日から国立遺伝学研究所の「日本DNAデータバンク」(DDBJ)で公開を始めた。日本人が実名で個人(パーソナル)ゲノムを公開するのは初めてという。

 ヒトのゲノムは国際協同事業として2000年代初頭に解読された。その後の解析技術の進展で、より短時間で安価に一人ひとりのゲノムも解読できるようになってきた。個人ゲノムが解読されると「どのような病気になりやすいか」が分かり、予防医療やオーダーメード創薬などへの貢献が見込まれる。その一方で、遺伝情報の判明による就職雇用や保険での差別問題、出生前診断などの是非問題など、社会的・倫理的な面から問題や課題も指摘されている。

 冨田教授は、こうした問題や課題の解決のためには、個人ゲノムに関するリテラシー教育の浸透が急務だと考え、自らのゲノム情報とこれまでの診療録を実名で公共データベースに登録し、公開することにしたという。実名による個人ゲノムの公開は、海外では、DNA(デオキシリボ核酸)の二重らせん構造を発見しノーベル賞を受賞したJames Watson博士のほか、ヒトゲノムプロジェクトに関わったCraig Venter博士やGeorge Church博士(ハーバード大学教授)などがいる。日本人のゲノム配列の公開は、研究成果として匿名で行われたことはあるという。

 冨田教授は自分の個人ゲノムを教材にした「ゲノム解析ワークショップ」を大学1年生向けに、今年4-7月期に開講した。全14回の講義と実習では、学生自らが「ゲノムから見た冨田教授の適職診断」「冨田教授がオリンピックに出場するならこの種目」「冨田教授が注意すべき生活習慣病」などテーマを設定して、冨田教授のゲノムを解析した。7月19日の最終発表会では、個人ゲノム解析の可能性とその難しさについて、活発な議論が交わされたという。

 冨田教授は「最終発表会では、私の遺伝的な身体能力や知的能力、体質や病気のリスクなどの考察・議論がなされた。当たっているものや外れていると思われるものもあり、“ゲノムを見れば何でも分かる”ということではないことを、学生たちは体感できたと思う。一方では、体質や能力について統計的な傾向が分かることも確かであり、それをどのように生活向上のために利用していくかが今後重要になる」と話している。

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