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裁判員の情状酌量において働く脳領域を特定

2012.04.03

 裁判員が被告人の量刑を判断するときには、脳のどの領域がよく働くのか——。放射線医学総合研究所(放医研)や米国カリフォルニア工科大学などのチームが、神経細胞の活動に伴う血流動態を視覚化する「機能的核磁気共鳴画像法」(fMRI;functional magnetic resonance imaging)を使って調べた。

 協力を得た男女26人には裁判員役として、殺人を犯した被告人の量刑を判断してもらった。その際には「介護疲れと生活苦から犯行に及んだ」という同情的ケースや、「不倫相手と結婚するために犯行に及んだ」などの非同情的なケースを16例ずつ示し、量刑(懲役20年を基準に高い・低い)を決めるときの脳活動を測定した。

 その結果、同情的なケースほど、他者への理解や道徳的葛藤に関わる脳の領域(内側前頭前皮質と楔前部〈せつぜんぶ〉)の活動が高かった。また、量刑を低く判断するのに伴って「尾上核」という報酬に関する脳領域の活動も上昇した。尾上核の活動はチャリティー行為によっても高まることから、減刑も「人助け」の意味合いを持つようだという。

 さらに同情傾向が強い人ほど量刑を軽減する「情状酌量」傾向が高く、右脳にある「島皮質」(右島皮質)の活動も高かった。島皮質は身体内部の情報を脳内における情動・認知処理に統合する役割をもち、島皮質の働きによって主観的(意識的)な感情の体験が生み出されている。被告の事情を自分のことのように感じることで、量刑を減じるようだ。

 今回の研究について、放医研分子イメージング研究センターの山田真希子主任研究員らは「一般人の情状酌量とその個人差について脳科学的な根拠を提供するもので、日常的な諸問題に対する繊細な精神活動を脳科学によって客観的に検証できることを示したものだ」と説明している。研究成果は英科学誌「Nature Communications」(3月27日号)に掲載された。

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