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報告「緊急時におけるリスクコミュニケーション-福島原発時のメディア・科学者・政府の対応」

2011.10.11

小野 信彦 / 科学技術振興機構 広報ポータル部

 第3回「崩れかかっている信頼関係」

パネル「政府とメディア」

 欧州議会STOA(Scientific Technology Options Assessment)委員長のパウエル・リュービッヒ氏が「災害対応のためには、時間をかけてネットワーク作りをして、何かあった時に、正しい情報を流すことを心がけること。メディアにとっては、国民が本当に知りたいことを伝えることが求められることだ」と述べた。

 元内閣府科学技術政策担当政務官の津村啓介氏(衆院議員)は「メディアには国民と科学者などの専門家をつなぐ役割、政治家には専門家の知見を吸収して、政策として国民に提示する役割がある。日ごろからお互いに信頼し、情報を共有する関係を築いておくことが必要だった」と述べ、「福島原発事故後の3カ所(東電、原子力安全・保安院、内閣官房長官)での連日の長時間の記者会見では、多くの情報が出されたが、本当に国民の求めるものではなく、すれ違いもたくさんあった。何を知りたいか、何を聞きたいのかお互いに分からなかったのではないか」と指摘した。

 ドイツZDFテレビのヨハネス・ハーノ氏は「私たちが必要なのは信用、信頼、真実の情報だが、福島の事故後の毎日の情報を得るのが難しかった。当時の菅首相にも東電から情報が上がって来ないなど、私たちは誰を信用すべきなのか。東電の会見内容は、専門家ではないと分からない。福島の人も“何が自分たちの生活にとって重要な情報なのか分からない”と話していた。日本政府は正確、正直に語ってほしいし、科学者とのコミュニケーションを図り、信頼できる情報を流すべきだ。日本国民が自分で食品や地面などの放射能を測ること自体が、もはや、だれも政府を信じていないことであり、信頼関係が崩れかかっている日本は危険な状態だ」と語った。

 この後、政府からの情報の「信頼性」をめぐり、他のパネリストや会場参加者からも意見が出され、質疑があった。

フィリップ・キャンベル氏(科学誌「ネイチャー」チーフエディター)のまとめ

 今日の意見交換会で指摘されたように、市民からの政府への信頼が破綻していることは問題だ。このテーマについては社会科学者も重要な役割を果たすだろう。緊急時の対応で準備すべきことは、自分たちのコミュニケーションネットワークを持っておくことだ。政府においては何らかの組織をつくり、緊急時に科学的なメッセージをメディア側に説明すること。また科学者側においても、特定の行動規範をつくるなどの準備も必要となるだろう。

 具体的には、政府には科学的なコミュニケーションが上手な人を用意し、メディアに語ってもらうこと。それをサポートする仲間の科学者、さらに彼らをメンバーにした独立した審議会をつくり、そこでの議論内容を外部に出すことが、信頼をつくることにもつながるのではないか。科学としてのベストな判断力は、政治的にも価値があり、それを民主的に積み上げていくことだ。

 また、ジャーナリストにおいては、情報を積み上げて、報道する内容を何度も更新していくことだ。科学と政府との関係で言えば「科学的なデータがオープンかどうか」が重要であり、オープンであるほど、ジャーナリストは知っていることを正しく伝えることになり、それが政府の信頼にもつながるだろう。

欧州連合大使、ハンス・ディートマール・シュバイスグート氏の閉会の辞

 とても刺激的な議論だった。とくにハート氏の話に関心をもった。メディアの役割は真実を報道することだ。しかし3・11の震災後、「日本はもうダメだ」「東京は死の街になる」などの馬鹿げた東京発の報道もあるなど、ときには抑制も報道には必要だ。その意味では、政府との間での信用、信頼が必要であり、緊急時にそれらは発揮される。

 欧州のある原子力関係者は当時、私にこう言った。「福島の事故について全て分かっているわけではない。日本政府も本当のデータを出しているかも分からない。しかし、はっきりしているのは、これが欧州の政府であった場合、日本以上にうまく対応できたか疑問だ」と。ベディントン氏も言うように、政府は科学的助言を得て政策を判断することができる。日本政府も国際的対話をよりオープンにして、透明性を確保すること。さらに、海外からも専門家を招くことによって、政府としての立場を裏づけ、自分たちの政策を後押ししてもらうことも必要となるのではないか。そして科学者は政治家、メディアからも信頼されているということ。これは3・11以降も変わらない。

会場風景

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