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報告「緊急時におけるリスクコミュニケーション-福島原発時のメディア・科学者・政府の対応」

2011.10.10

小野信彦 / 科学技術振興機構 広報ポータル部

 第2回「科学者がまとまった意見を」

 パネル「メディアと科学」

 福島原発事故の報道にあたったフランス民放ラジオ、RTLフランス特派員のジョエル・ルジャンドル氏が「メディアが求めるのは情報の透明性と責任だ。事故などのリスクを正しく評価するには情報が必要だが、日本政府には情報の出し惜しみがある。東京電力には現在でもマイナスイメージがあり、もっと謙虚であるべきだ」と批判した。

 毎日新聞科学環境部の足立旬子記者は「福島原発事故報道では最初の1週間が重要だった」と述べ、水素爆発を起こした原子炉格納容器、あるいは原子炉内の圧力や温度、水位などの状況が不明のまま「どの程度危険なのか、政府の対応や避難範囲はよかったのか、専門家に取材しても両論からの意見があった」と、少ない情報下での報道の難しさを語った。

 英国原子力公社会長のロジャー・キャシュモア氏は「メディアが科学者にコメントを求めても、信頼できるデータや情報がなければ、科学者もそれはできない。福島原発事故について英国の新聞には、中身と無関係なセンセーショナルな見出しを付けたものもあった。科学者には放出された放射線量などの情報が必要だが、正しい情報、科学的根拠に基づく報道がなされなかったために、いろいろな人が意見を変えることになった」とメディア側を批判した。

 日本政府や東電の対応についても「情報を伝えるすべがなかったので、正しく伝わらなかった。災害などの緊急時に備えて、国民とのコミュニケーションを図り、科学的な情報を伝える専門家が平時から必要だ。福島の場合も、国民とのしっかりした科学的なコミュニケーションが求められる」と述べた。

 科学者の立場から独立行政法人・海洋研究開発機構 理事の平朝彦氏(東京大学 名誉教授)が、国民への情報提供の仕方をめぐる、ある地球科学系学会での議論を紹介した。

 福島原発事故の水素爆発で上空に飛散した放射性物質のちりは、その後、前線に伴う雨によって栃木県などの北関東にも降下した。この状況は「スピーディ(SPEEDI:緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)」によってシミュレートされていたが、公開されなかった。上空のちりは首都圏にも降下する可能性があったわけで、「この情報を国民に伝えるべきか否か」が議論のテーマだった。「放射能の濃度が不明で、パニックとなる」などの反対意見があったが、「正確な情報を提供すれば、国民は正しい行動ができる」とのトータル的な意見で「知らせるべきだった」との結論になったという。

 このように平氏は「国民に対する信頼をベースに、専門家が決定し、オープンにしていくこと。さらに科学者としての、まとまった考えや意見を出して行くことも必要だ」と語った。

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