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報告「緊急時におけるリスクコミュニケーション-福島原発時のメディア・科学者・政府の対応」

2011.10.09

小野信彦 / 科学技術振興機構 広報ポータル部

 第1回「在日英国民の方が多かった情報量」

 東日本大震災(3月11日)に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故や、近年の欧州での腸管出血性大腸菌(O104)、アイスランドの火山噴火、豚由来の新型インフルエンザなど、一連の全地球的な緊急事態を踏まえて、「緊急時におけるリスクコミュニケーション」のあり方を考えるメディア・科学者・政府間の意見交換会が10月1日、京都市内で開かれた。会の内容を3回に分けて報告する。

 駐日欧州連合(EU)代表部とEU加盟国、政策研究大学院大学が主催したもので、同大学の角南篤・准教授(科学技術政策担当大臣特別顧問)と科学誌ネイチャーのチーフ・エディター、フィリップ・キャンベル氏がモデレーターとなり、国内外の11人のパネリストが「政府と科学」「メディアと科学」「政府とメディア」の各テーマに分かれて意見を出し合った。

パネル「政府と科学」

 英国政府主席科学顧問のサー・ジョン・ベディントン氏が、福島原発事故への英国の対応ぶりを紹介した。同氏は原子力の専門家だけでなく健康・医療や気象などの科学者からなる首相への諮問会議(SAGE:Scientific Advisory Group on Emergency)を直ちに招集し、「東京から避難しなくてよい」との結論を在日大使館員や英国民に伝えた。同会議では核燃料がメルトダウンした場合の最悪ケースのシナリオを描き、東京での天候と飛散線量を考えて4時間ごとに書き直した。さらに会議内での議論をそのまま駐日大使館のウェブサイトにも掲載し、放射能のリスクなどについても、在日の英国民から質疑を受ける電話会議を4回開催したという。

 「首相にも一貫した科学的情報を提供できた。今回の対応でよかったのは、ロンドンと東京でうまくコミュニケーションが取れたことだ。福島原発事故がワーストケースでも東京への影響は極めてマイナーだとする科学的助言を得て、英国民に安心感を与えることができた」とベディントン氏。

 獣医学や食品衛生問題などに詳しいオランダのラテナウ研究所長、ヤン・スタマン氏は「緊急事態の場合は、最初の1、2日の対応が大事であり、それには適任者が適切な地位に就いていないとならない。さらに、どのようなグループの人たちに、どのように情報を発信していくかも、科学的なコミュニケーションでは重要だ」と述べた。

 一方の日本側の対応について、総合科学技術会議議員の相澤益男氏は「政府の対応、社会の人々にとっても科学技術からの専門的アドバイスが必要だった。ところがメディアに登場した専門家の意見は個人によって異なり、状況によって内容が変わるなど、政府も社会も解釈に困ってしまった。大切なのは、科学技術の関連組織が統一的な科学的助言を行い、それを受けて政府が政策決定すること、その決定過程もオープンにすることだ」と述べた。

 「明らかになったのは、日本学術会議や学会などの科学コミュニティにおいて、科学と政府との関係ルール“行動規範”ができていなかったことだ」と、問題に切り込んだのは科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター長の有本健男氏だ。「緊急時には科学的根拠に基づき政策が決定される。そのための科学的助言の重要性を、科学者も政治家も認識すべきであり、今後の行動規範づくりでも、助言者側が責任を自覚し、政治側も助言者の独立性、助言の多様性、バランスを十分に自覚することだ」と提言した。さらに「科学コミュニティが政府に見解を提示するのは社会的責任だ」と述べ、それも「日ごろからの、科学と政府の間に信頼関係があってのことだ」と指摘した。

英国政府主席科学顧問 サー・ジョン・ベディントン氏
英国政府主席科学顧問 サー・ジョン・ベディントン氏

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