ニュース

赤外線レーザー照射で狙った遺伝子発現

2008.12.16

 赤外線レーザー照射で1個の細胞を加熱、調べたい遺伝子を発現させる技術を産業技術総合研究所などの研究チームが開発した。生きた生物の中で遺伝子の機能を解明できることから、分子・細胞レベルでの病態解明につながる研究の強力なツールになると期待されている。

 研究チームは、ほぼすべての生物が持っている熱ショックに反応する細胞機構に着目した。新しい技術は、顕微鏡下で赤外線レーザーを照射して狙いの細胞だけを加熱、それによって起こる熱ショック応答により、調べたいタンパク質を作らせることができる。

 レーザー照射による熱ショックを利用するアイデアはこれまでもあったが、成功していなかったのは、細胞を傷つけずに加熱することができなかったことによる。加熱に伴う細胞の温度変化を測定し、狙った細胞だけに熱ショック応答を起こす温度範囲に保つ測定手段がなかったためだ。

 研究チームは、温度変化によって蛍光強度が変化する性質をもつ緑色蛍光タンパク質を利用した。赤外線で加熱した時の蛍光強度を記録して、蛍光強度の減少量から温度を算出、さらに空間的な熱の広がり具合を顕微鏡レベルで解析し、単一細胞だけに熱ショック反応を起こさせる温度範囲に加熱を制御することに成功した。緑色蛍光タンパク質は、遺伝子の形で細胞内に導入し、調べたい遺伝子が発現したときに緑色蛍光タンパク質も合成されるようにしておく。

 現在の遺伝子機能解析は、「試験管内」での解析が主で、生きた生物個体内での機能を反映しているかどうかを証明することが難しかった。研究チームは実際に生きた線虫にこの技術を応用し、狙った遺伝子の機能を確認することに成功している。

 この研究成果は以下の研究者たちによって得られた。産業技術総合研究所セルエンジニアリング研究部門の弓場俊輔・研究員(現 ・新エネルギー・産業技術総合開発機構)、川﨑隆史・研究員、藤森一浩・研究員、出口友則・研究員、京都大学放射線生物研究センターの亀井保博・助教(現・大阪大学)、名古屋大学大学院理学研究科の高木新・准教授、東京大学大学院薬学系研究科の船津高志・教授。

ページトップへ