マガジン - 日経サイエンス誌ダイジェスト -

脳科学が教える「学び」の尊さ

掲載日:2009年4月28日

日経サイエンス6月号 量子もつれ
  • 私たちの脳には、コンピューターのチップに相当する神経細胞(ニューロン)が膨大な数、集積し、ニューロンどうしが複雑に結びついている。私たちが言葉を覚えたり、勉強してさまざまな知識を身につけるということは、脳の中においては、ニューロンを結ぶ新たな情報ネットワークが形成されることを意味する。ただニューロンの数そのものは学習によって増えることなく、大人になれば減っていくばかりだと考えられていた。

    ところが約10年前、記憶や学習をつかさどる脳の領域、海馬(かいば)においては、大人になってもニューロンが日々、新たに生み出されている(新生している)という驚くべき研究成果が報告された。しかし新生ニューロンの多くは生き残ることなく、わずか数週間で消えてしまうこともわかった。

    「ならば何とかして新生ニューロンを生かし続け、新たな知識や能力の獲得に活用できないか」と脳科学者は考えるようになった。事故や病気による脳損傷や高齢化で衰えた脳をよみがえらせることができれば、その恩恵は非常に大きいからだ。

    動物実験によると、学習によって、海馬の新生ニューロンはネットワークに組み込まれ、生き残る。新生ニューロンは最初、あまり他のニューロンと結びついていないが、学習によってニューロンが刺激を受け、枝葉が伸びるように他のニューロンと結びついていくと考えられる。

    新生ニューロンの残存数は、難易度が高い問題に取り組んだラットやマウスほど多い。逆に新しいことを学ばなければ、ネットワークに加われずに消滅していった。こうした動物実験の結果から考えると、大人になっても新しいこと、難しいことに挑戦し続けることは脳科学的にも価値があるようだ。

 

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