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「謎多い“よそもの細胞”」マイクロキメリズム あなたの身体に潜む“他者”の細胞

掲載日:2008年4月10日

日経サイエンス5月号 革命前夜の物理学
  • お腹の中の赤ちゃん(胎児)は、へその緒を通じて母親と結ばれ、母親の血液から栄養や酸素をもらっている。だから妊娠中、母親と胎児の間で細胞が行き来していても、さほど不思議ではない。

    ところが近年、出産から数十年すぎた後でも、母親の体内で男の子の細胞が生き残っている事例が報告されるようになった。逆に成人した男性の体内から母親の細胞が見つかることもある。本人の細胞とともに母親由来の細胞が心臓の一部となって働いていた事例などだ。

    これは医学研究者の間でも驚きをもって迎えられた。子どもは母親の遺伝子を受け継ぐが、父親からももらっている。近しい間柄にあるとはいえ生物学的に見れば他人だ。妊娠中は互いの細胞の往来が許されても、いずれは免疫系が“よそもの”と認識して攻撃、完全に排除されてしまうはず。ところが実際には免疫系の目をかいくぐり、“和平協定”を結んで数十年間も生き残っている“よそもの細胞”が存在していた。

    このような現象は「マイクロキメリズム」と呼ばれる。著者は米国西海岸のがん研究拠点でマイクロキメリズムの役割を20年近く研究しているパイオニアの1人だ。

    マイクロキメリズムが注目される1つの理由は、いわゆる自己免疫疾患とされてきた疾患のなかに、体内に潜む他者の細胞が本人の免疫系を刺激して起きるものがあるらしいこと。なぜ、他人の細胞なのに本人の免疫系によって排除されないのか? 自己免疫疾患に関係するなら、なぜある時期に“和平協定”が破綻したのか?

    一方で、そうした他者の細胞がダメージを受けた臓器や組織を修復する例もある。マイクロキメリズムはさまざまな医学分野に影響を及ぼしそうだ。

 

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