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致死率の高いダニ媒介性感染症が東アジアで急増中

掲載日:2018年7月2日

2018年7月号

マダニが媒介するSFTSウイルス。治療薬の臨床試験などの対策が進められているが、感染者数急増の理由は不明だ。

ダニが媒介する致死性ウイルスへの感染者が年々増加している。2009年に報告されたこのウイルスは、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)と呼ばれる疾患を引き起こすことからSFTSウイルス(SFTSV)と呼ばれる。東アジアの研究者らは、SFTSの発生率が上昇していることや、このウイルスに想定以上に容易に伝播できる兆候が見られることから、感染拡大を懸念している。2018年3月には日本でSFTS治療薬の最初の臨床試験が始まったが、一部の研究者は、このウイルスに対する社会の関心を高め、研究を促進するためには、政府が資源をさらに投じる必要があると言う。この臨床試験の開始に助力した、国立感染症研究所(東京)のウイルス学者である西條政幸は、「私たちには有効な治療法を考え出す責任があります」と話す。

SFTSの最初の症例は、2009年に中国から報告された(X. –J. Yu et al. N. Engl. J. Med. 364, 1523–1532; 2011)。高熱、胃腸障害、白血球数減少、血小板数減少(血小板減少症)などの症状を複数共有する一群の人々の血液試料から、原因となるウイルスが見つかったのだ。

その年、このウイルスは中国で感染者の30%を死に至らしめた。2013年に日本と韓国で最初の症例が確認された際には、致死率はもっと高く、日本の感染者の3分の1以上、韓国の感染者の約半数が死亡した。

以来、各国の症例数は急上昇している。韓国では、2013年に36症例が報告されたが、2017年には症例数は270症例に激増した。中国では2010年の症例数は71であったが、2016年には約2600となった。日本での2017年の症例数は、前年の50%増となった。

この3カ国は、SFTS流行地域の医師や市民に対し、ダニに咬まれるリスクについて教育する措置を実施している。その結果、現在では感染者の死亡率は改善しており、2016年には中国では約3%、日本では8%に低下した。韓国では、2013年は47%であったが、2017年には20%まで低下した。SFTSに特異的な治療法はまだないものの死亡率が低下したことについて、研究者らは、より早期に感染を認識して一般的な感染に対する治療を実施したことや、より広範囲にわたってこの感染症の発生動向調査(サーベイランス)を行い、医師が重症患者に加え、軽症患者も把握できるようになったことが大きいとみる。

SFTSウイルスは、エボラのような迅速に伝播する感染症には進化しないと考えられている。また感染は、一般的には、SFTSウイルスが感染したフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)などのマダニ類に寄生された動物との接触がある人や、マダニ類が多い草むらや藪などの場所に入る人に限られる。

しかし、ウイルスによる犠牲者や脅威の可能性は正しく評価されていないといわれている。済州大学校(韓国)の微生物学者Keun-Hwa Leeは、「感染者の予後は良好ですが、現在でもSFTSウイルスは、他のどの感染症よりも死亡率が高いのです」と言う。

人はヤギやウシ、ヒツジ、シカなどの身近な動物を介してダニに曝されており、これらの動物は感染が起こっても症状が現れない場合が多い。江蘇省疾病管理予防センター(中国南京市)の生物統計学者Bao Chang-jun(鮑昌俊)は、「既知の流行地域を中心とした現在の疾患管理では成功しないでしょう。SFTSの流行の過程は、ヒトの活動や気候の変化に伴って変化すると考えられます。流行のリスクがある地域について研究を行う必要があります」と言う。

日本では2017年に、ネコに咬まれたことで感染した女性1例と、飼っているイヌから感染した男性1例について厚生労働省が報告したことで、特に懸念が高まった。「数年前に出された注意喚起に、病気の家畜やペットに触れるリスクを追加しなければなりません」と、国立感染症研究所の感染症疫学センター長である大石和徳は言う。

臨床試験

2018年3月に日本では、抗インフルエンザ薬ファビピラビルのSFTSを対象とした臨床試験が始まった。この薬剤は、西アフリカで2014年に大発生が起こったエボラ出血熱の治療にも使われた。「ファビピラビルは、RNAポリメラーゼ阻害剤といわれる種類の薬剤で、RNAウイルスの増殖を抑制します。エボラウイルスやSFTSウイルスも、RNAウイルスです」と西條は言う。

一方、症例数が急激に上昇した理由について、サーベイランスの増加や意識の高まりのためなのか、ダニの数が実際に増加し、ダニに寄生された動物が増えたためなのか、SFTSが流行している地域にヒトが侵入することでリスクが高まったためなのかは、分かっていない。国立感染症研究所の獣医科学部長である森川茂は、「日本では野生動物を狩る人が減ったため、シカやイノシシの数が激増しダニの数も増加した、と考える研究者もいます」と言う。

研究者らは、SFTSウイルスや、このウイルスが伝播する仕組みについて、まだ多くの疑問があると言う。そして東アジアは、人々がダニと接触する機会が増えるアウトドアシーズンを迎える。感染者が増えるとSFTSウイルスの解明は進むかもしれないが、研究者たちはマダニ類に咬まれる人が減ることを願っている。「それでも、感染者数は去年より多いと予想しています」と、国立感染症研究所の感染病理部長である長谷川秀樹は言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180712
原文:Nature (2018-04-13) | doi: 10.1038/d41586-018-04486-6 | East Asia braces for surge in deadly tick-borne virus
David Cyranoski

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