マガジン - Nature ダイジェスト -

ニホンアナグマの駆除に懸念

掲載日:2017年8月7日

2017年8月号

日本の固有種であるニホンアナグマの個体群は、捕獲・駆除によって消滅の恐れがある。

ニホンアナグマ(Meles anakuma)。alpsdake/CC BY-SA 4.0
ニホンアナグマ(Meles anakuma)。
alpsdake/CC BY-SA 4.0

九州地方ではニホンアナグマは害獣と見なされ、日常的に罠や狩猟により捕獲されている。生態学者らによると、こうした駆除は現状では野放し状態にあるという。鹿児島県でのアナグマ駆除数は、以前は年間数百頭程度だったが、2016年には4000頭以上に急増した。生態学者らは、この流れが個体群消滅につながる恐れもあると指摘し、日本政府に対しアナグマ駆除に介入し、持続可能な状態で駆除が行われているかどうかについて科学的助言を得るべきだと述べている。

「駆除がこのペースで続けば、ニホンアナグマが絶滅してしまう可能性もあります」と、東京農工大学の生態学者、金子弥生は話す。日本では「ジビエ料理」の流行で、ニホンアナグマの肉がレストランで供されることも増えている。しかし、この現象がアナグマ駆除に拍車をかけているのか、あるいは逆に供給のしやすさから食肉利用が増えているのかは不明だ。

生態的危機

金子と、オックスフォード大学(英国)の生態学者Christina BueschingおよびChris Newmanは、ニホンアナグマ駆除に関する懸念を、Nature 2017年4月13日号のCorrespondenceで表明した1。その中で彼らは、駆除数の急増が「生態的危機」とされる状態につながる恐れがあると警告し、ニホンアナグマの駆除は「科学的助言や戦略的計画もなしに」行われているのが現状だと述べている。

ニホンアナグマ(Meles anakuma)は日本の固有種であり、ヨーロッパアナグマより小型で、顔の縞模様もそれほどはっきりしていない。紛らわしいことに、日本語の「アナグマ」という言葉は、農家が罠でよく捕獲している2種類の動物(タヌキおよび日本への侵入種であるアライグマ)に対しても使われるのだと金子は説明する。

地方自治体では、農作物の獣害を減らす取り組みとして害獣の狩猟を促進しており、ニホンアナグマの個体数はそうした駆除によってかなり影響を受けているようだと金子は話す。鹿児島県の行政担当者によれば、同県ではニホンアナグマの個体群を追跡調査していないが、2016年3月までの12カ月間に4354頭が駆除されたことを確認しているという。この駆除数は前年の70%増しであり、ニホンアナグマの年間駆除数はここ数年で一挙に1桁増えている。

「この固有の個体群を追跡調査し、科学的見地から法的規制をかけるべきです」と、ロシア科学アカデミー(サンクトペテルブルク)の研究者Alexei Abramovは話す。彼は金子と共に、国際自然保護連合(IUCN)の「レッドリスト」に掲載するニホンアナグマの保全状況の評価に当たっている。ニホンアナグマは現在、IUCNのレッドリストで「絶滅危惧」に分類されていない。しかし金子は、彼女が見積もったニホンアナグマの個体群密度に基づいてこの評価がじきに改訂されるのではないかと話す。その見積もりによれば、鹿児島県のニホンアナグマの最大70%がこの数年で駆除されてしまったことになる。

駆除は許可制

ニホンアナグマの駆除が違法かどうかは、現状では不透明である。鹿児島県側の話では、駆除は環境省の法律に従って行われており、ニホンアナグマなどの害獣は許可を得て狩猟・捕獲できるのだという。県側はさらに、アナグマ駆除の許可を得ているハンターその他の人々からの報告を基に、ニホンアナグマのデータをまとめていると述べている。しかし金子によれば、現状では駆除が行き過ぎており、その結果、環境省が定めた詳細な規定を順守できていない、つまり、違法となっている可能性があるという。

環境省の広報担当者は匿名を条件に、ニホンアナグマの駆除が容認されていることを認めたが、同省は九州の駆除実施に関する詳細な情報を把握していないと語った。

バルセロナ大学(スペイン)でヨーロッパアナグマの研究を行ったことのある生物学者Guillem Molina-Vacasも、駆除活動に法的規制が設けられていないとすれば、ニホンアナグマのIUCNカテゴリー分類は間もなく変更されると考えている。彼は、過去に日本で起こった事例に照らし合わせ、「現状に安心はできない」と指摘する。19世紀、明治期の日本では国土の開拓が推進されており「害獣」の積極的な駆除が認められていた。ハイイロオオカミの亜種であるエゾオオカミに対しては、ストリキニーネ入りの毒餌による駆除も容認されていたという。やがて、エゾオオカミは姿を消してしまった。「あのような事例を繰り返してはなりません」とMolina-Vacasは話す。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Kaneko, Y., Buesching, C. D. & Newman, C. Nature 544, 161 (2017).
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