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イモムシには腸内細菌がいない?

掲載日:2017年7月6日

2017年7月号

イモムシやナナフシなど一部の昆虫の腸内には、共生細菌がいないらしい。また、わずかだが脊椎動物でもこうした例が報告されており、「腸内細菌は全ての動物で不可欠な存在」という近年定着しつつある概念に疑問を投げ掛けている。

ヒトをはじめ多くの動物は、腸内細菌なくして健康な生活を送ることはできない。腸内に棲むこれらの微生物は、食物を分解するだけでなく、免疫や代謝の調節、病原体の排除など宿主に有益な多様な役割を果たしているのだ。ところが最新の研究によれば、イモムシなどの一部の昆虫は、腸内に微生物がいなくても特に問題なく生きていけるらしい。近年、腸内細菌の重要性が次々と報告されているが、その存在自体が普遍的ではない可能性が出てきた。

コロラド大学ボールダー校(米国)の進化生態学者Tobin Hammerは今回、米国およびコスタリカに生息する野生の植食性イモムシ16科124種について、rRNA遺伝子の塩基配列を解読して、腸内細菌の存在度と組成を調べた。rRNA塩基配列に基づく系統解析は、微生物の分類や同定で広く利用されている手法である。Hammerは比較のために、腸内細菌を有すると考えられる昆虫や鳥類、哺乳類の計24種についても同様の解析を行った。その結果、イモムシの腸内に存在する微生物は密度が著しく低く、その組成は個体間で大きく異なることが明らかになった。また、イモムシの糞に含まれるわずかな微生物は主に餌となる葉の微生物群集を反映しているとみられ、HammerはプレプリントサーバーbioRxivに投稿した論文で、イモムシには宿主と共進化してきた「常在」微生物と呼ぶべきものが欠如している、と結論付けている1

最近、さまざまな動物や昆虫種で「腸内細菌が見いだされなかった」という研究報告が少数ながら増えつつあり、今回の論文はその最新のものといえる。だが、こうした論文は学術誌に掲載されにくいといい、Hammerはその理由を「おそらく、存在しないことを証明するのが難しいためでしょう」と説明する。

従来の通念では、ウシをはじめとする植食性動物は、植物細胞壁に含まれる繊維を分解するために腸内細菌を必要とする、とされている。今回Hammerが調べたイモムシは全て植食性であり、当然イモムシの腸内にも多様な微生物が存在すると考えられた。

「でも、忘れてはいけないのは、イモムシはウシの縮小版ではないということです」とHammerは言う。大型植食性動物の糞便には植物のDNAよりも微生物のDNAの方がはるかに多く含まれているが、イモムシはその反対で植物のDNAが圧倒的に多いという。Hammerが発見したごく少数の細菌は、イモムシが食べたものや環境に由来するとみられた。

Hammerはさらに、イモムシの腸内にいる微生物の中に、生存に役立っているものがあるかどうかも調べた。北米に広く分布するタバコスズメガ(Manduca sexta)72匹を対象に、孵化したイモムシをいくつかのグループに分けて異なる量の抗生物質を与えながら成長させたところ、与えた抗生物質の量が多いほどイモムシの糞に含まれる微生物量は大きく減少したものの、イモムシの健康や成長、生存には特に影響は見られなかった。

多大な影響

ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)でイモムシと細菌との関係を研究している生態学者Melissa Whitakerによれば、イモムシに腸内細菌が存在しないことは、これまでにも複数の研究で示されていたという。しかし、これらの研究は少数の種を対象に行われたもので、100種を超すイモムシを対象にしたHammerの今回の研究とは規模が違う。また、イモムシの体内に存在するわずかな微生物が宿主にとって有益なものかどうかを検証した実験データも、過去の研究には含まれていない。これらを総合すると、今回のHammerの研究の影響は極めて大きいだろうとWhitakerは推測する。

「イモムシは、植食性動物の中でも特に種数の多い動物群です」とWhitaker。ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)が行った、とあるプロジェクトの推計では、既知のイモムシは約18万種にも上るという。「イモムシが食物の処理を腸内細菌に頼っていないとするなら、一体何に頼っているのでしょう。きっと全く別のものに違いありません。とても興味があります」とWhitakerは目を輝かせる。

今回Hammerが見いだしたような研究成果は、文献ではごく少数だが実際はもっと多い可能性がある、とWhitakerは言う。「選択バイアスがあるのだと思います」。研究者たちは否定的な結果を投稿したがらず、同様に学術誌もそうした結果の掲載には前向きでないと考えられるからだ。

それは珍しい話ではない。実際、Whitakerもイモムシの腸内細菌について調べ始めた頃、予想外の結果にデータか方法に問題があるに違いないと考えたという。しかし最終的には、見いだすべき腸内共生自体が存在しないという結論に行き着いた2

いくつもの例外

似たような経験をした科学者は他にもいる。カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)で微生物と宿主の共進化を研究している博士研究員Jon Sandersは、ペルーに生息するさまざまなアリについて調べていたときに、地表徘徊性の複数種に腸内細菌が全く存在しないようであることに気が付いた。彼は論文をしたためて学術誌に投稿したが、1年半にわたる査読の末に却下されたという。最終的にSandersはbioRxivにこの論文を投稿3。現在はIntegrative and Comparative Biologyで査読が行われている。

マックス・プランク化学生態学研究所(ドイツ・イエナ)に所属する昆虫学者のMatan Shelomiは、植食性昆虫であるナナフシの腸内細菌について長年研究してきた。彼は2013年に、ナナフシの腸内に微生物が存在しないことを報告しており4、翌年には、ナナフシがペクチン(植物の細胞壁に含まれる繊維の一種)を分解でき、その際に用いる酵素は、進化の過程で細菌から獲得したものとみられることを示している5。彼の他の研究成果も最終的には学術誌に掲載されたものの6、「査読過程ではかなりの議論と労力を要しました」とShelomiは振り返る。

イモムシやアリ、ナナフシといった昆虫だけでなく、脊椎動物にも腸内細菌が存在しないものがいる可能性がある。「聞いた話ですが、鳥類や魚類の研究でも腸内に微生物が見当たらないといったことがあるそうです」とHammerは言う。実際、彼が対照として解析した複数の脊椎動物種のうち、ヤギなど一部の種には確かに腸内細菌が存在していたが、植食性の鳥類であるコクガンや食虫性の哺乳類であるトビイロホオヒゲコウモリの糞便には腸内細菌は見つからなかった。

「微生物がいない腸」の存在を示す論文の掲載例は、まだまだ少ない。しかし、腸内細菌への関心はますます高まっており、今後は似たような知見がさらに出てくるだろうと、WhitakerやHammer、Shelomi、Sandersらは考えている。

「これまでの知見をもとに、私たちの学術分野ではまさに、『全ては腸内細菌に関連していて、全ての生物に腸内細菌が存在する』と主張しようとしています。でもこの説は、たった1つの例外で再考を余儀なくされるでしょう」とWhitakerは語る。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Hammer, T. et al. Preprint at bioRxiv (2017).
  2. Whitaker, M. et al. Front. Microbiol. 7, 1–13 (2016).
  3. Sanders, J. G. et al. Preprint at bioRxiv (2017).
  4. Shelomi, M. et al. BMC Res. Notes (2013).
  5. Shelomi, M. et al. BMC Genomics. 15, 1–18 (2014).
  6. Shelomi, M. et al. Sci. Rep. (2016).
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