コラム - テクノフロント -

第18回「実用的マグネシウム素形材技術開発」

大阪府立大学 副学長・大学院工学研究科 教授 東健司 氏

大阪府立大学 大学院工学研究科 准教授 瀧川順庸 氏

掲載日:2013年8月9日

大阪府立大学 副学長・大学院工学研究科 教授 東健司 氏 大阪府立大学 大学院工学研究科 准教授 瀧川順庸 氏
東健司 氏 瀧川順庸 氏

はじめに

マグネシウム合金は構造用金属材料として最軽量(アルミニウムの2/3、鉄の1/4)であり、機械的性質にも優れていることから、工業的利用の拡大が期待されている構造用金属系素材である。しかしながら、マグネシウムおよびその合金の素形材製造技術は、国内における大型ビレット鋳造技術の未熟さや、マグネシウム金属自身の低い塑性変形能、特に室温付近での難成形加工性に起因して充分には開発されてこなかった。現在までのマグネシウム部材製造は、主にダイカストなどの鋳造法にて実施されてきており、2012年の国内でのマグネシウム合金の構造材としての使用量は約8,200トン程度であり、このうち展伸材としての利用は600トン程度である[1]。

マグネシウム合金の成形加工に関する各国の取り組み

マグネシウム合金は、軽量性とリサイクルに要するエネルギー消費が少ない循環型素材として、自動車部品と家電製品において用途が拡大してきている。マグネシウム合金の素形材技術の一つである成形技術に関する開発は、わが国のみならず、欧米や中国などの諸外国においても積極的に進められている。例えば、自動車分野では軽量化による省エネルギー効果による観点から官民を挙げた研究開発が進められており、EU では「MAGFORGE」プロジェクト、北米では「マグネシウムビジョン2020」などのマグネシウム合金の鍛造技術開発が推進されている。さらに、中国では最近、マグネシウムの資源輸出政策からその資源活用戦略へと展開しており、マグネシウム利用に関する重点政策が活発化している。

自動車・家電分野は日本の強みであり、他産業への波及効果も大きい重要な産業分野である。そのため、わが国では、この産業分野の国際的競争力を維持・強化する政策の一つとして、マグネシウム合金の素材製造に関わる社会基盤技術の構築およびその部材製造に関わる金型設計や潤滑などの周辺技術を含めた、素形材技術に係るものづくりの優位性を活用した「革新的マグネシウム鍛造部材技術開発」が採択され、実施されてきた。

革新的マグネシウム鍛造部材技術開発

「革新的マグネシウム鍛造部材技術開発」は、マグネシウム合金鍛造用素材の初期微細組織と、鍛造による複雑形状付与および微細組織制御を適切に複合化したプロセスの両方を最適化することにより、強度と信頼性の高いマグネシウム部材を成形可能で、かつ工業的にも利用可能な鍛造技術の基盤技術を確立することを目的として行われた。また、マグネシウム合金の工業的利用の拡大に不可欠なリサイクル技術と安全性についても課題を抽出し、課題解決のための技術開発を行うことで、体系的なリサイクルシステム構築のための提案を行うことを目指して行われた。

技術開発における学術的な共通基盤技術については、1999年から約5年間実施された文部科学省科学研究費・特定領域研究「高性能マグネシウムの新展開」をはじめとする多くの研究を通じて格段に進化しており、わが国のマグネシウム研究は世界トップクラスである。他方、鍛造技術に関しては、わが国のものづくり技術の優位性がある。高強度・高靭性などの高性能化と高信頼性を確保できる革新的鍛造プロセスを構築するためには、鍛造技術の優位性と学術的裏付けに基づく材料科学を融合させ、革新的製造技術の一体化・体系化を達成する必要がある。また、市場競争力のあるマグネシウム合金鍛造部材を創成するためには、少なくとも他の軽量金属素材や金属加工法に比して、その部材特性と部品コストの両方において優位性を持つことが必須であり、素材コストの低減とともに、高強度のみならず高信頼性部材や高精密部材を成形加工できる鍛造技術の確立が重要である。さらに、マグネシウム合金の循環型素材としての特性を活かした安価なリサイクル技術を確立することが社会的要請である。

「革新的マグネシウム鍛造部材技術開発」では、こうした技術的要望や社会的要請に対応するため、図1に示すように、基礎研究からものづくり技術開発までをマルチスケール論的に包含する統合的な階層的研究開発を実施した。具体的には、基礎研究および基盤研究として、「動的再結晶」や「第二相粒子」をキーワードとし、原子レベルでの微構造解析や第一原理計算による組成最適化、ミクロ組織制御、変形機構解明などを実施した。これら一連の基礎研究および基盤研究を核にして、鍛造用素材および鍛造プロセスの最適化を目指すことを応用研究とした。

基礎研究からものづくり技術開発までをマルチスケール論的に包含する統合的な階層的研究開発

 

まず、マグネシウム鍛造部材用素材の製造プロセスとして、図2に示す低コストの素材である連続鋳造材と三次元プリフォーム材に注目し、マグネシウムの特徴である動的再結晶による結晶粒微細化を利用して鍛造素材組織を作りこむ鍛造工程を選択した。

低コストの素材である連続鋳造材と三次元プリフォーム材

図3に鍛造素材の組織の最適化による鍛造温度の低温化の実現例を示す。連続鋳造材の粗大な結晶粒を前鍛造において動的再結晶により微細結晶粒組織に最適化し、後鍛造にて連続的に複雑形状に鍛造成形する方法である。この前鍛造での素材創製と、後鍛造での成形加工を、精密な加工速度制御可能な複動サーボプレス装置を用いて連続的に一工程で行うことが特徴である。ここで、動的再結晶粒径の初期結晶粒径およびZ(Zener-Hollomon)パラメータ依存性に関する知見[2]より、初期結晶粒径が50-100μm であれば、動的再結晶粒径が5-10μm になると予測されるので、初期組織における結晶粒径が50μmの連続鋳造材を開発した。前鍛造により形成する微細組織を最適化することにより、素材の鍛造特性の改善、鍛造温度の低温下が可能となる。そこで、種々の組織を持つ鍛造素材を作製し、鍛造素材組織と鍛造加工特性の関係を調査した。また、鍛造素材の加工性と鍛造部材の機械的特性等のデータを整理・解析することで、鍛造素材の微細組織と鍛造特性の関係を解明し、鍛造加工マップを整備した。これら一連の研究開発により、易加工性と優れた部品特性を同時に満足する組織を形成させる加工プロセス開発の指針を提示することができた。また、従来の、前工程である押出工程を経た鍛造部材と比較して、安価な連続鋳造材を出発材料とした一工程での低温精密鍛造が可能となった。

鍛造素材の組織の最適化による鍛造温度の低温化の実現例

マグネシウム合金の成形加工に関する今後の展望

わが国の材料・部材産業は、国際的に高い技術力と競争力を有し、わが国の経済社会の発展を支えている。近年、汎用的な社会基盤製造技術は、国際規模でのグローバル化に伴う川下産業とユーザとの連携の希薄化とアジア諸国の生産技術向上などに起因して、地域の企業集積の空洞化や後継者問題などの深刻な状況に陥っている。それ故、最近では産学官を含む川上・川下産業の垂直連携、新素材創成と成形加工技術の水平連携といった新規連携を強化することで、次世代の材料・部材分野でのイノベーションを促進、維持することがわが国の緊急課題となっている。

「革新的マグネシウム鍛造部材技術開発」において、マグネシウム合金の高度成形加工技術開発のためには、材料科学に関する基礎的な学術的知見を核とした予測や指針に基づき、材料企業や成形加工企業が保有する技術・技能を活用することが重要かつ必要であり、この連携を通じて革新的な部材開発における共通基盤技術を確立することが可能であることを示した。今後の開発においても、川上・川下産業の連携や産学官の連携に加え、素材と成形加工のより密接な連携が従来以上に大切である。特に、わが国が保有する高い鋳造技術と鍛造技術を有機的に複合化することにより、高信頼性複雑形状部品においても大幅な生産性の向上、すなわち、短納期、大量生産による低トータルコストの実現が期待される。一方、これまでのマグネシウム合金開発は特性の向上を主眼においたもので、生産性に関してはあまり考慮されてこなかった。今後、生産性に優れた新規マグネシウム合金の探索とその素材の最適化プロセスの構築が重要な課題となっていくと考えられる。

 

[1]  一般社団法人日本マグネシウム協会 ホームページ
[2] Y. Takigawa, M. Honda, T. Uesugi and K. Higashi: Mater. Trans., 49 [9], 1979-1982 (2008)
東健司 氏
東健司 氏
(ひがし けんじ)

東 健司(ひがし けんじ) 氏 プロフィール

1953年石川県小松市生まれ。72年大阪府立四条畷高校卒業。82年大阪府立大学大学院工学研究科博士後期課程修了(工学博士)。83年日本学術振興会奨励研究員。84年大阪府立大学工学部 助手。86-87年マンチェスター大学材料センター 客員研究員。88年スタンフォード大学材料科学工学科 客員教授。89年大阪府立大学工学部 講師。90年大阪府立大学工学部 助教授。97年大阪府立大学工学部 教授。2000年大阪府立大学大学院工学研究科 教授。13年から現職。材料組織制御、材料プロセス構築、第一原理計算を利用した材料設計など、材料科学の幅広い分野の研究に従事。

瀧川順庸 氏
瀧川順庸 氏
(たきがわ よりのぶ)

瀧川 順庸(たきがわ よりのぶ) 氏 プロフィール

1969年三重県津市生まれ。87年私立高田高校卒業。98年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(博士〈工学〉)。95年日本学術振興会特別研究員DC1。98年財団法人ファインセラミックスセンター 研究員。2004年大阪府立大学大学院工学研究科 助教授。07年から現職。材料の高温塑性、ナノ・アモルファス材料創製の研究に従事。

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