コラム - 科学のおすすめ本 -

復刻版「21世紀への階段 40年後の日本の科学技術〈第1部・第2部〉」

推薦者:永山悦子 氏(科学ジャーナリスト)

掲載日:2013年11月11日

「復刻版『21世紀への階段 40年後の日本の科学技術〈第1部・第2部〉』」
 ISBN: 978-4-335-05102-9 C1000〈第1部〉
978-4-335-05103-6 C1000〈第2部〉
 定 価: 1,800円+税
 監 修: 科学技術庁
 監修委員長: 中曽根康弘
 発 行: 弘文堂
 頁: 第1部 296頁、第2部 312頁
 発行日: 2013年10月

「今から40年後、どんな科学技術が花開いているのか」。およそ半世紀前の1960年に“将来の日本”を描いた本が復刊された。終戦の混乱を乗り越え、高度経済成長の入り口に立っていた日本。科学技術へのあこがれ、希望、期待が大きく膨らんでいた時代。科学技術の発展こそが、日本復興のカギを握ると信じられていた。原子力、宇宙開発、医学、交通、エネルギーなどの「未来」を、各分野の第一人者たちが執筆している。

「40年後」の予想は当たったのか。現状と比較しながら読むことで、科学技術の可能性だけではなく、限界や課題といった“負の側面”も見えてくる。

第1章から第12章までを2分冊に収めた本書のうち、〈第1部〉第1章は「原子力時代は花ざかり」だ。出版の3年前には、茨城県東海村に日本初の「原子の火」がともった。資源に乏しい日本にとって原子力の平和利用は、本書を監修した「科学技術庁」誕生のきっかけになったほどに、政治的な重要課題だった。「放射線を利用して電気を使わないランプ」「無尽の動力源」「核燃料の時代が到来する」「核融合発電で燃料問題が解決」「原子力船の普及」など、原子力の明るい未来が描かれる。

自然災害についても「ドライアイスで台風をコントロール」「地震の予知研究が進む」「津波の予知ができるようになる」など、「自然」をコントロールすることを夢見ている内容だ。

一方、当たったものも少なくない。「切符切りのいない改札」「感染症を制御」「がんが人類最大の敵になる」「臓器移植が実現」「ポケットに入る電話」「人を運ぶベルトコンベア」「遺伝を人工的に変える」「通信衛星で世界同時中継」「電気を通す合成樹脂」などだ。まさに「人類の幸福」を目指し、研究者や技術者が実現に邁進(まいしん)した成果と言える。宇宙開発の糸川英夫氏、分子生物学の渡辺格氏ら、大物研究者の文章に触れられる点も興味深い。

本書の監修委員長を務めた中曽根康弘元首相は当時、科学技術庁長官だった。40年後の日本を描く本の出版によって、「ビジョンとテクノロジーを融合する人材『イマジニヤー』の登場を期待した」と書く。今回の復刊に寄せた前書きでは、「倫理性や道徳性が問われる事案も散見されるようになってきた」と述べているが、東日本大震災による東京電力福島第一原発事故など、最近の科学技術への“社会の不信”については言及していない。

かつて科学技術に託された「夢」には、人類の幸福の実現に役立つものもあるが、同原発事故のように当時は想定していなかった深刻な問題や、倫理的に問題のある夢(たとえば「人工子宮」など)も含まれている。半世紀前の「夢」を振り返ることは“反面教師”として、次の「22世紀への階段」の方向性や目指すべき社会を見いだす、きっかけになるかもしれない。

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