コラム - 科学のおすすめ本 -

これも数学だった!? カーナビ・路線図・SNS

推薦者:サイエンスポータル編集長

掲載日:2013年5月24日

これも数学だった!? カーナビ・路線図・SNS
 ISBN: 978-4-621-05382-9
 定 価: 760円+税
 監 修: 国立情報学研究所
 著 者: 河原林健一 氏・田井中麻都佳 氏(ライター)
 発 行: 丸善出版
 頁: 208頁
 発行日: 2013年3月30日

何の研究をしているのか、名前だけでは分からない研究所がある。失礼ながら「国立情報学研究所」もその一つ。ホームページには“情報学という新しい学問分野での「未来価値創成」を目指すわが国唯一の学術総合研究所”とあるが…。その研究内容を身近な話題を例に分かりやすく紹介しようと、“情報研シリーズ”の16番目として出版されたのが本書だ。

著者は数学者で同研究所教授の川原林(かわらばやし)健一氏。1975年生まれの氏は2012年10月から、独立行政法人・科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「巨大グラフプロジェクト」の研究総括も務める。ERATOは、将来的に科学技術の源流となり、社会的・経済的な変革をもたらすような研究に対して、5年間に最大12億円もの資金を提供する支援事業だ。30歳代の若い研究総括の選出は、1981年の事業創設以来、川原林氏が5人目というから、それだけ、氏にかけられる期待も大きい。というよりも、ネット社会で急速に増大し、近い将来には10の10乗(10億)ケタ以上にも膨大化するといわれる情報量(ビッグデータ)を扱い、実社会に生かすには、どうしても若い柔軟な頭脳が必要ということなのだ。

その「巨大グラフ」とは何か。FacebookやTwitterなどのソーシャル・ネットワーク(SNS)に代表される巨大なネットワークは、現在10億人近いユーザーが利用している。各ユーザーを1つの頂点とすると、巨大ネットワークは約10億個の点と辺を持つ「巨大グラフ」として描けるのだという。プロジェクトでは、そうした巨大グラフを解析するために、最先端の数学的理論を駆使して、コンピュターを効率よく働かせる方法を追究する。その“最先端の数学的理論”の1つこそが、本書で取り上げている「離散数学」だ。

「離散数学」とは何か――については説明を省くが、本書ではその理論の基となる考え方のほか、携帯電話やカーナビ、缶ビールとオムツの物流、プロ野球の対戦スケジュール、さらには全員がペアになる“安定結婚問題”など、私たちの生活にどれほど役立っているのか(役立つか)を分かりやすく紹介している。「数学的に考えることができる問題ならば、日常のどんなことでも扱うことができる」というのが、「離散数学」の大きな利点だという。

本書に登場する数学者たちのエピソードや、随所に出てくる「フェルマーの最終定理」や「ポアンカレ予想とペレルマン」「クレイ数学研究所とミレニアム懸賞問題」などの8つのコラムも雑学的に面白く、読者を最後まで飽きさせないように工夫している。何よりも、川原林氏自身は数学がすごく得意だったわけでなく、「計算もプログラミングも大嫌いだ」というから驚きであり、何とも心強い。

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