コラム - 科学のおすすめ本 -

青い光に魅せられて -青色LED開発物語-

推薦者:サイエンスポータル編集委員

掲載日:2013年3月29日

青い光に魅せられて -青色LED開発物語-
 ISBN: 978-4-532-16851-3
 定 価: 1,700円+税
 著 者: 赤﨑勇 氏
 発 行: 日本経済新聞出版社
 頁: 241頁
 発行日: 2013年3月25日

発光ダイオード(LED)は、わずかな電力ですむ光源として、今やさまざまな屋外施設だけでなく家庭の照明としても広く利用されている。LEDの中で最も開発が難しかった「青色LED」の開発者として知られる著者の歩んできた道を振り返った書だ。青色LED開発の困難さと著者の業績の大きさを紹介しているくだりが、まず実に分かりやすい。

青色発光ダイオード開発の成功は、「窒化ガリウムでしか実現できない」と固く信じた著者のぶれない姿勢にあった。きれいな結晶を何としてでも作るという信念に基づいている。例えばダイヤモンドとの比較で、難しさを説明しているくだりが、分かりやすい。
「ダイヤモンドは、地殻の中で5.2万気圧、1,200℃などという条件が満たされたところでのみ、美しい結晶になる(窒化ガリウムは、ダイヤモンドに似ていて、4.5万気圧以上、2,500℃以上といわれている)。人工的につくったダイヤモンドが、天然のダイヤモンドの輝きに及ばないのは、そうした条件を人工的につくることが困難だから。しかもダイヤもンモンドは地殻の中に存在するが、窒化ガリウムは自然界には今まで見つかっていない」
いつしかほとんどの研究者、技術者が窒化ガリウムによる青色ダイオードの開発をあきらめてしまい「我ひとり荒れ野を行く」という心境に至ったこともある。有機金属化合物気相成長法による窒化アルミニウムを原料にした低温バッファ層技術に目を付けたのが、第一のブレークスルーとなった。高品質の窒化ガリウム単結晶をつくりだした時のエピソードが面白い。電気炉が、日夜を分かたぬ実験で酷使されて調子が悪くなり、温度があまり上がらなくなった。この時に思わぬ成果が得られたという。

同じ大学で学び、研究生活も同じ大学で続ける。こんな「単線型」の研究者ばかりでは画期的な研究成果は生まれにくい、という声を最近、聞く。著者は鹿児島県知覧町(現・南九州市)に生まれ、鹿児島県立第二鹿児島中学(現・鹿児島県立甲南高校)、旧制第七高校と鹿児島で過ごした後、京都大学に進学する。東京など大都会だけで生まれ育った若い人間には到底、体験しようがないと思われる豊かな人と自然との触れ合いが伝わってくる。

大学卒業後の経歴も単線型の研究者とはまるで違う。江崎玲於奈氏らが社員として活躍していた神戸工業に入社、7年後に名古屋大学へ移り、その5年後には松下電器東京研究所へ。そこで17年間研究生活を送って、再び名古屋大学に移る。働き盛りで大学、企業をこのように往復し、輝かしい業績を挙げた研究者、技術者は珍しいのではないだろうか。

松下電器東京研究所時代、松下幸之助の「ほな、やってみなはれ」の一言で、開発に成功した「微小電流発光型双方向LED」開発の話も面白い。火災報知用確認灯などとして製品化されたという。

失敗談やそれに伴う思わぬ出会いなどを語った「コラム」が、著者の人柄を如実に示し、興味深い。常に誰かが助けてくれるのも、初対面でも著者のおおらかな人柄がすぐ分かるからだろう。ハワイのホテル前ですりに現金を全てとられて弱っていたとき(今のようにクレジットカードが普及していなかった時代)、声をかけられた隣席の米国人の親子連れに、問われるまますりに遭った話をしたらその場で、小切手を切ってくれたというエピソードが載っている。

著者の業績は、最も成功した産官学連携例といわれる。「選択と集中」が叫ばれる一方、個々の研究者の創意を重視する研究支援が手薄になっているのではないか。そんな声も聞かれる今、より良い科学技術政策は、という観点から読んでも示唆に富む本といえるだろう。

しかし、科学技術を特に意識しなくても興味深く読める本ではないだろうか。研究者としてだけでなく、著者の魅力あふれる人となりが、実にうまく描かれているからだ。

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