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コラム - 科学のおすすめ本 -

科学技術と知の精神文化 新しい科学技術文明の構築に向けて

推薦者:立花浩司(SciencePortal 特派員)

掲載日:2009年5月26日

科学技術と知の精神文化 新しい科学技術文明の構築に向けて
 ISBN: ISBN978-4-86345-008-0
 定 価: 1,500円+税
 編 集: 独立行政法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター
 発 行: 丸善プラネット
 頁: 266頁
 発行日: 2009年3月30日

私たちは今後、どのように科学技術とかかわり、文化としての科学技術とどう向き合っていったらよいのか。本書は、過去の歴史を振り返り、現状を見つめ、将来の方向性についてじっくりと考えていくための多様な発言をとりまとめた、いわば「素材集」である。

2007年度から1、2カ月に1回の頻度で開催された「科学技術と知の精神文化」研究会での講演、2008年2月に開催されたワークショップ、そして今までの意見や議論をもとにまとめられた「科学技術と知の精神文化についての試論」によって構成されている。なお「科学技術と知の精神文化」研究会における講演の記録に関しては、科学技術振興機構・社会技術研究開発センターのウェブサイトを通じ、個別に請求することができる。

日本は、第二次世界大戦後、海外からの積極的な技術導入と改良による、いわゆるキャッチアップ型の産業構造を構築することによって、経済大国と呼ばれていた時期があった。その際、従来の精神文化ないし「エートス」を否定または軽視し、さらにその後の新しい「エートス」の構築を怠ってしまったという。21世紀は、物質文明的な側面の追求だけでは、知を創出し実現していく社会を希求していく上では不十分、という共通認識のもと、本書ではさまざまな分野の研究者が過去の歴史をひもといて解説している。

総合科学技術会議議員を経験し「科学技術と知の精神文化」研究会を立ち上げ、現在は科学技術振興機構の顧問を務めている阿部博之氏は、「科学技術と知の精神文化についての試論」において、本書に収載されている講演やワークショップの内容を踏まえたうえで「どのような科学技術を推進していくかと、どのような社会を創造していくかは重なるものの、どのような民主主義を志向していくかについては議論していなかった」と書いている。

どのような民主主義を志向していくかという軸足がきちんと定まっていかなければ、今後、科学技術にかかわるさまざまな案件の意思決定が滞ることになるだろう。これは、科学技術基本計画を策定していく上での基本とも言え、たいへん重要な指摘である。拙速になるべきではないが、少なくとも着実に議論を詰めていくことが必要なことではないかと思われた。

冒頭にも述べたが、本書はあくまでも「素材集」であって、科学技術と知の精神文化に関する「答申の取りまとめ」などではない。さらなる議論を深めるための「たたき台」と言い換えてもよいかも知れない。これまでに十分な議論が尽くされたとは言いがたい、物質文明的な側面の追求「以外」からの科学技術のあり方について,本書の上梓がきっかけとなって関心を持つ人が増え、実のある議論の輪が広がっていくことを期待したい。

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