コラム - オピニオン -

新たな国連開発目標(SDGs)∼「新国富」指標で測る豊かさの評価∼

九州大学 都市研究センター 主幹教授 馬奈木俊介 氏

掲載日:2015年12月14日

持続可能な開発サミットで採択

馬奈木俊介 氏
馬奈木俊介 氏

2015年9月、国連持続可能な開発サミットで、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。これまで途上国の貧困や教育を中心課題としたミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)が2015年を目標に実施されてきました。このSDGsはMDGsに代わる今後の世界的な目標として位置づけられます。17項目の目標に及ぶSDGsでは、貧困根絶や教育改善のみならず、人類の健康や、気候と海洋を含むグローバルな資源保護まで網羅している点は特筆すべき点です。(図1参照)

国連の持続可能な開発目標 出典:「SDGs(持続可能な開発目標)」が掲げる17の解決課題引用元:http://www.globalgoals.org/ja/)
国連の持続可能な開発目標
出典:「SDGs(持続可能な開発目標)」が掲げる17の解決課題
引用元:http://www.globalgoals.org/ja/

その17の目標を次の表に示しています。その一方で、SDGsおよび関連公文書では、SDGsを達成するために各国政府が実施する施策が有効かどうか、さらに、それを判断する枠組みについて言及されていない点が問題でした。

表1. 持続可能な開発目標 出典:地球環境戦略研究機関(IGES)「持続可能な開発目標(SDGs)に関するオープン・ワーキング・グループ成果文書)

  • 目標 1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
  • 目標 2. 飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
  • 目標 3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
  • 目標 4. すべての人々への包括的かつ公平な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
  • 目標 5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女子のエンパワーメントを行う
  • 目標 6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
  • 目標 7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な現代的エネルギーへのアクセスを確保する
  • 目標 8. 包括的かつ持続可能な経済成長、およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワーク(適切な雇用)を促進する
  • 目標 9. レジリエントなインフラ構築、包括的かつ持続可能な産業化の促進、およびイノベーションの拡大を図る
  • 目標 10. 各国内および各国間の不平等を是正する
  • 目標 11. 包括的で安全かつレジリエントで持続可能な都市および人間居住を実現する
  • 目標 12. 持続可能な生産消費形態を確保する
  • 目標 13. 気候変動およびその影響を軽減するための緊急対策を講じる* *国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う一義的な国際的、政府間対話の場であると認識している。
  • 目標 14. 持続可能な開発のために海洋資源を保全し、持続的に利用する
  • 目標 15. 陸域生態系の保護・回復・持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・防止および生物多様性の損失の阻止を促進する
  • 目標 16. 持続可能な開発のための平和で包括的な社会の促進、すべての人々への司法へのアクセス提供、およびあらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包括的な制度の構築を図る
  • 目標 17. 持続可能な開発のための実施手段の強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

どのように評価するか?

教育や健康、自然といったものなど多くの次元が異なるものをどのように評価するかについては、最終的には金銭単位での評価軸が有効です。そこでわれわれは「新国富」という新たな包括的な富の指標で国・都市(企業評価であっても)などの対象とする地域の豊かさを計測し、その持続可能性を持続可能な開発目標(SDGs)の評価軸とする提案をしています(Dasguptaら, 2015;Managi 2015a, 2015b; 馬奈木俊介, IGES 2015, 山口ら, 2016)。ここでは、世界中の国・都市における主たる三つの資本(地域の生産の基礎となる自然・人・人工)を「新国富」の計測対象としており、国連による全世界的な取り組みからわが国の地方自治体に至るまで、幅広い組織や分野領域での活用が今後一層期待されています。

ここで提案されている考え方および実証例では、持続可能な開発目標(SDGs)に向けて実施する施策の有効性、さらに、それをどのように判断すべきかを、「新国富」という新しい包括的な富の指標により地域の豊かさを計測し、その持続可能性の客観的評価を明確にしています。

「新国富」指標は、2012年に国連持続可能な開発会議(リオ+20)で初めて公表された「包括的な富に関する報告書(Inclusive Wealth Report)2012」に示された新たな経済な富を表す指標です。ノーベル賞経済学者のスタンフォード大学のケネス・アロー、ブループラネット賞受賞者のケンブリッジ大学のパーサ・ダスグプタ両名誉教授らを含めたわれわれ22人の著者と、ハーバード大学のデール・ジョルゲンソン教授ら18人の審査委員会での審査を経て報告書は出版されました(計算例はMuñozら, 2014を参照)。

そこで、現実に普及するためには、まず現在、広く用いられている国民経済計算システム(System of National Accounts:SNAs)に取り入れることが提案できます。国民経済計算システムは、消費や投資、雇用、財政支出など資源の一定期間の生産価値を表すフローを記録するものであり、一定期間の経済規模を表す国内総生産を測定するように設計されています。しかしながら、SDGsの持続可能性を判断するには、ストックである富を包括的に測定する新しいSNAsが必要です。この包括的な富(以後、「新国富」と記す)は、経済の生産能力を測る手段であり、国、都市レベルの地域経済内における、人工資本(道路、建物、機械)、人的資源(教育、健康)、および自然資本(土地、漁業、気候、鉱物資源)の合計値として計算します。

例えば、自然資本を大きな比率で使い果たして一時的に国内総生産が増加しても、それに伴う持続可能性の低下(自然資本の枯渇)が統計上で明示されません。SNAsでは人工資産以外の償却を記録していないからです。国内総生産の増加に伴う急激な資源の消耗は、同時に「新国富」の減少、経済の生産能力の縮小を意味し、やがて国、ないし地域が消滅する可能性の増加を意味します。つまり、成長とは国内総生産の増加ではなく、「新国富」の増加を意味すべきであり、そのためにも「新国富」を世界中の国・都市で計測することがわれわれの都市研究センターの研究の主たる内容です。

その効果は?

われわれの研究では、従来あまり考慮されていなかった自然資本・人的資本を定量化し、内包した地域経済のストックを「新国富」として定量化する効果があります。域内総生産などのフロー会計により得られる情報と補完的に活用し、地方自治体レベルでの持続可能性向上に向けた政策策定への効果が期待されます。既に、国レベルでの「新国富」の計測の精緻化、データベースの拡充、日本全国の都道府県レベル・政令指定都市レベルで近年の「新国富」の計測、さらに細かく、村や離島の「新国富」の計測も行っています。

まず、次世代への配慮として気候変動や生物多様性の損失を軽減するために、市場で取引できない多種の自然資本を測定し、「新国富」に取り入れています。さらに、人的資本に関しては、人々の労働の質が高く健康であるほど数値が向上し、教育や医療がどの程度の効果を与えたかを金銭的なリターンとして把握できるようにしました。そのため、これまで政策評価が難しかった自然政策、福祉・健康政策の客観的な評価指標として利用することが可能です。

指標作成の際にはさらに、各資本要素間の結びつきを見渡す「全体性」を高めたアプローチをとり、生産基盤の変動を包括的に評価しています。過去には計量的技法の面から計測が難しかったものが、近年のデータ整備と方法論の発展により、多数の国・都市においてデータ化が可能となりました。さらに、「新国富」の計測に主観的幸福度を取り入れることで、より先進的かつ詳細な地域の豊かさの計測も行っています。

今後の展開

今後は、この手法を応用し、特に日本国内の都市において新国富指標を用いて地域の豊かさと持続可能性を測定し、そこでの都市計画などの政策運営に活用していく予定です。新国富指標を用いた当該地域の持続的な発展に関わる総合的な都市計画の策定・運用およびその効果の検証を連携して推進します。その他にも、さまざまな地域、さらには民間企業との連携を行う予定です。例えば、自然、健康、教育の現状の改善だけでなく自動運転自動車やドローンなど人工知能の普及を見越し、ドローンが広く利用される新たな社会の豊かさを「新国富」として評価できます(例えば、自然資本の維持、管理にドローンを活用します)。

このように大学における学術研究の活性化のみならず、地域経済の振興に寄与することが期待されます。持続可能な開発目標を国際的に実行に移すには、先進国から途上国へのお金の移転だけでなく、このように予算効果的な総合的な視点での計画と実行、そして対象とする地域の豊かさのレベルを上げる取り組みを文理融合して産学官で進める必要があります。われわれの取り組みはそれを国際的なネットワークで支援する予定です。

参考文献

  • Dasgupta, P., A. Duraiappah, S. Managi, E. Barbier, R. Collins, B. Fraumeni, H. Gundimeda, G. Liu, and K. J. Mumford. 2015. "How to Measure Sustainable Progress", Science 13 (35): 748.
  • Managi, S. (Eds.) 2015a. "The Economics of Green Growth: New Indicators for Sustainable Societies." Routledge, New York, USA.
  • Managi, S. (Eds.) 2015b. "The Routledge Handbook of Environmental Economics in Asia." Routledge, New York, USA.
  • Muñoz P., Petters K., Managi S., and Darkey E. (2014). "Accounting for the inclusive wealth of nations: Key findings of the IWR 2014". In UNESCO/UNU-IHDP and UNEP. Inclusive Wealth Report 2014. Measuring progress toward sustainability. Cambridge: Cambridge University Press.
  • 馬奈木俊介, IGES(編著)『グリーン成長の経済学―持続可能社会の新しい経済指標』昭和堂,2013年
  • 山口臨太郎, 大久保和宣, 佐藤真行, 篭橋一輝, 馬奈木俊介 2016. 新しい富の指標計測:持続可能性計測研究の過去と未来, 環境経済・政策研究 (印刷中).
馬奈木俊介 氏

馬奈木俊介(まなぎ しゅんすけ)氏プロフィール
九州大学工学部飛び級。九州大学大学院工学研究科修士課程修了。米ロードアイランド大学大学院博士課程修了(Ph.D.〈経済学〉)。九州大学大学院工学研究院都市システム工学講座教授。2015年12月都市研究センター長。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」代表執筆者、「生物多様性および生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(IPBES)」総括代表執筆者、国連「新国富報告書」ディレクターを兼任。学術誌「Environmental Economics and Policy Studies」共同編集長。専門は都市工学、経済学。著書『環境と効率の経済分析―包括的生産性アプローチによる最適水準の推計』(日本経済新聞出版社)、『日本の将来を変えるグリーン・イノベーション』(中央経済社)。
研究室ホームページ http://www.managi-lab.com

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