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高レベル放射性廃棄物の暫定保管に関する政策提言-国民的合意形成を焦点として

東京工業大学 名誉教授 今田高俊 氏

掲載日:2015年8月19日

東京工業大学 名誉教授 今田高俊 氏今田高俊 氏

はじめに

原子力発電により発生する高レベル放射性廃棄物の処分に関して、2012年9月に原子力委員会からの審議依頼への『回答』を取りまとめた。回答はさまざまなメディアで取り上げられ、わが国の原子力エネルギー政策を見直すポイントの一つとなった。日本学術会議では、回答での提言を政府などが政策に反映しやすくするために、提言のより一層の具体化を図ることが必要であるとの判断から、2013年5月に「高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会」、および12月に二つの分科会、「暫定保管に関する技術的分科会」と「暫定保管と社会的合意形成に関する分科会」を設置し、特に暫定保管に焦点を当てて審議を重ねてきた。

その結果、2015年4月に12の政策提言からなる「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言-国民的合意形成に向けた暫定保管」をまとめた。その趣旨は、高レベル放射性廃棄物の最終処分については、技術上の安全性を確保しつつ、原子力発電に関して失われた国民の信頼、特に電力会社・国・科学者に対する信頼を回復し、最終処分に至る政策提言を具体的かつ分かりやすく作成することにある。副題の「国民的合意形成へ向けた暫定保管」には、その意図が込められている。

提言の内容は次の5つのカテゴリーからなる。(1)暫定保管の方法と期間、(2)事業者の発生責任と地域間負担の公平性、(3)将来世代への責任ある行動、(4)最終処分へ向けた立地候補地とリスク評価、(5)合意形成へ向けた組織体制―である。

これらに通底しているのは、高レベル放射性廃棄物に関しては、科学技術的な精査に基づき責任倫理と公平原理を軸にして国民的合意形成を図り、最終処分に至る民主的な手続きを経ることである。以下、5つのカテゴリーに沿って政策提言を見ていくことにする。なお、以下では誤解の生じない限り、高レベル放射性廃棄物を「核のごみ」と略式表示することがある。

(1)暫定保管の方法と期間

提言1 暫定保管の方法については、ガラス固化体の場合も使用済み燃料の場合も、安全性・経済性の両面から考えて、乾式(空冷)で、密封・遮蔽(しゃへい)機能を持つキャスク(容器)あるいはボールト(ピット)貯蔵技術による地上保管が望ましい。

現在、使用済み燃料のほとんどは、各原子力発電所内でプール保管されている。これらを核燃料サイクル向けに再処理してガラス固化体にすると約25,000本になる。これにフランスなどに委託して既に再処理した本数約2,000本を合わせると、27,000本になる。委員会で検討した結果、プール保管や浅地層保管よりは、地上で乾式(空冷)保管するのが望ましいと判断した。

提言2 暫定保管の期間は原則50年とし、最初の30年までを目途に最終処分のための合意形成と適地選定、さらに立地候補地選定を行い、その後20年以内を目途に処分場の建設を行う。なお、天変地異など不測の事態が生じた場合は延長もあり得る。

暫定保管の期間を50年としたのは、技術的・経済的な側面が主な理由であるが、重要なことは、この期間のうち最初の30年(一世代30年といわれる)で、世代責任を果たすことである。30年の間に電力会社・国・科学者の信頼回復を図ると同時に、廃棄物処分に関する国民的合意形成、立地候補地の選定を丁寧に行う。そして残りの20年かけて最終処分場を建設する。そのような悠長なことをいっている場合でないという批判もあり得るが、失われた信頼回復と最終処分に関する合意形成を図るには決して長くはない。焦りは禁物である。

(2)事業者の発生責任と地域間負担の公平性

提言3 高レベル放射性廃棄物の保管と処分については、発電に伴いそれを発生させた事業者の発生責任が問われるべきである。また、国民は、本意か不本意かにかかわらず原子力発電の受益者となっていたことを自覚し、暫定保管施設や最終処分場の選定と建設に関する公論形成への積極的な参加が求められる。

この提言は責任倫理について述べたものである。原子力発電により核のごみを発生させたのは電力会社であり、いかに国策により原子力発電が推進されたとはいえ、発生者の責任は免れない。また国民は暫定保管施設と最終処分場の建設について、公論形成への参加が求められる。

提言4 暫定保管施設は原子力発電所を保有する電力会社の配電圏域内の少なくとも1カ所に、電力会社の自己責任において立地選定および建設を行うことが望ましい。また、負担の公平性の観点から、この施設は原子力発電所立地点以外での建設が望ましい。

この提言は公平原理について述べたものである。各電力会社は核のごみを、自身の配電圏域で処分するのが公平性にかなう。ともすれば、原子力発電関係の立地については、過疎地域など弱小自治体に補助金がらみで了解を得てきたが、今後そのような方法により核のごみ保管と処分を依頼するには無理がある。負担は受益者が等しく負うべきであり、その上で具体的な方法について議論し合意を得るべきである。従って、最低限、暫定保管施設は各電力会社の配電圏域内でしかも原発立地点以外に建設すべきである。

提言5 暫定保管や最終処分の立地候補地の選定および施設の建設と管理に当たっては、立地候補地域およびそれが含まれる圏域(集落、市区町村や都道府県など多様な近隣自治体)の意向を十分に反映すべきである。

核のごみの暫定保管施設や最終処分場が設置される地域の数は限られるので、結果的には、一部地域への負担の強制と、他地域の「フリーライダー(ただ乗り)」化が起き、紛争の火種になりかねない。そうならないようにするためにも、慎重な議論が積み重ねられるべきであり、周辺自治体の意向も十分に踏まえる必要がある。

(3)将来世代への責任ある行動

提言6 原子力発電による高レベル放射性廃棄物の産出という不可逆的な行為を選択した現世代の将来世代に対する世代責任を真摯(しんし)に反省し、暫定保管についての安全性の確保は言うまでもなく、その期間について不必要に引き延ばすことは避けるべきである。

これは次の提言7とともに、将来世代に対する現世代の責任を述べたものである。暫定保管期間を50年、そのうち国民的合意形成に30年、最終処分場の建設に20年と期間を明記することが政策提言には不可欠である。

提言7 原子力発電所の再稼働問題に対する判断は、安全性の確保と地元の了解だけでなく、新たに発生する高レベル放射性廃棄物の保管容量の確保および暫定保管に関する計画の作成を条件とすべきである。暫定保管に関する計画をあいまいにしたままの再稼働は、将来世代に対する無責任を意味する。

この提言はマスコミなどがクローズアップしたものである。「日本学術会議が原発再稼働にまった」という類の見出しが数多く掲げられた。本意は、核のごみの保管容量の確保および暫定保管に関する今後の計画作成なしに再稼働するのは、将来世代に対する無責任となることである。再稼働の是非を問うマスコミにとっては、好都合の提言だったようだ。

(4)最終処分へ向けた立地候補地とリスク評価

提言8 最終処分のための適地について、現状の地質学的知見を詳細に吟味して全国くまなくリスト化すべきである。その上で、立地候補地を選定するには、国からの申し入れを前提とした方法だけではなく、該当する地域が位置している自治体の自発的な受け入れを尊重すべきである。この適地のリスト化は、「科学技術的問題検討専門調査委員会(仮称)」が担う。

日本は地震大国であり、火山列島であり、地層の隆起および断層運動など地質学的に大きな不安定性を持つ国である。従って、その立地候補地の選定は十分慎重に行うべきであり、子細なリスク評価が欠かせない。また、2002年以来、自治体からの公募方式を採用していたが、はじめの一歩である文献調査に着手できた自治体すらないため、国は今年の5月に最終処分に関する基本方針を改訂した。「国が前面に立って取り組む」、「国が科学的有望地を提示し、調査への協力を自治体に申し入れる」と1。国が前面に出ることを強調しすぎて、有望地の科学的精査が背景に退きかねない状況である。科学者、専門家が客観的に示すという表現の仕方が重要である 。2

提言9 暫定保管期間中になすべき重要課題は、地層処分のリスク評価とリスク 低減策を検討することである。地層処分の安全性に関して、原子力発電に対して異なる見解を持つ多様な専門家によって、十分な議論がなされることが必要である。これらの課題の取りまとめも「科学技術的問題検討専門調査委員会」が担う。

これまでの研究結果から、活断層の分布は局在しているので、処分場を包含する程度の範囲で活断層を避けることは可能であろう。ただし、火山活動、地熱活動、地層の隆起および断層運動の影響を避けたとしても、これらの現象と地震動が地下水の流れに影響し、間接的に処分場の隔離性能を減少させることが、最も大きな不安材料として残る。

「地下水の通路である割れ目の少ない岩盤を処分場候補地とすることが望ましいが、それには、岩盤内の割れ目を探す技術―特に非破壊の物理探査―の高度化と適用限界の明示が必要であり、さらに、地質履歴から割れ目の少ない岩盤を探す論理立てを確立することが必須である。そのためには、現有の地球科学的見解から、上記の地質事象の直接的影響が小さいと判断され、かつ、割れ目も少ないと推定される複数地域において、実際の割れ目の分布性状等の調査と評価を行う必要がある」3。この作業は容易ではなく、最終処分場立地選定の調査に当たって、評価困難な問題として最後まで残る可能性が高い。

(5)合意形成へ向けた組織体制

社会的合意形成を図りつつ高レベル放射性廃棄物問題に対処するためには、まず原子力発電行政に対する国民の信頼を回復することが重要である。そのためには、核のごみ問題の解決を目指した真剣な国民的議論を起こしてそれを活性化していく必要がある。こうした国民的討論の場を設け、討論過程の司会・進行を担う主体が必要である。また、核のごみはハイリスクであり、暫定保管や地層処分の施設の管理と安全性の確保に関して、社会的に信頼を得る形での科学的知見を作り出す必要がある。このために科学技術的問題についての専門家集団の合意形成が必要である4

さらに、専門家集団の合意が国民の合意へとつながることが必要であると同時に、この合意を国民の総意を反映する大局的方針として、政府および国会に提言する役割を担う主体が必要である。以上の機能を担うために、以下二つの委員会と一つの会議の設置を提言する。

提言10 高レベル放射性廃棄物問題を社会的合意の下に解決するために、国民の意見を反映した政策形成を担う「高レベル放射性廃棄物問題総合政策委員会(仮称)」を設置すべきである。この委員会は、後述の「核のごみ問題国民会議(仮称)」および「科学技術的問題検討専門調査委員会」を統括する。本委員会はさまざまな立場の利害関係者に開かれた形で委員を選出する必要があるが、その中核メンバーは原子力事業の推進に利害関係を持たない者とする。

提言11 福島第一原子力発電所の激甚な事故とその後の処理過程において、国民は科学者集団、電力会社および政府に対する不信感を募らせ、原子力発電関係者に対する国民の信頼は大きく損なわれた。高レベル放射性廃棄物処分問題ではこの信頼の回復が特に重要である。損なわれた信頼関係を回復するために、市民参加に重きを置いた「核のごみ問題国民会議」を設置すべきである。

提言12 暫定保管および地層処分の施設と管理の安全性に関する科学技術的問題の調査研究を徹底して行う諮問機関として「科学技術的問題検討専門調査委員会」を設置すべきである。この委員会の設置に当たっては、自律性・第三者性・公正中立性を確保し社会的信頼を得られるよう、専門家の利害関係状況の確認、公募推薦制、公的支援の原則を採用する。

核のごみ問題国民会議による国民レベルでの広範な合意形成と、専門調査委員会における専門家間の合意形成が、総合政策委員会での協議や総合的な政策判断の基礎となる。総合政策委員会が有効に機能するためには、核のごみ問題国民会議による公論喚起と信頼回復、専門家間の合意形成が不可欠である。以上の過程を経て、国民的合意形成による最終処分地選定が行われるべきである。

おわりに

多くの国で処分地の選定と国民の合意形成が進行中である。スウェーデンとフィンランドでは、住民の意見が反映された地層処分場サイトが決定している。フランスでは、公開討論会を経て、地層処分施設が2025年に運転開始を目指して手続きが進行中である。脱原発を決めたドイツ、ユッカマウンテン処分場計画が中断された米国では、核のごみの処分計画について再評価を実施中。日本は、電力事業者、行政府、国民が一体となった対応が求められる。そのためには、専門家の知見を基に広く公論を起こし、納得のいく解決法を見いだす真摯な取り組みが必要である。

1 経済産業省・資源エネルギー庁,2015,「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針が改定されました~国が前面に立って取り組みます~」News Release: 5月22日(http://www.meti.go.jp/press/2015/05/20150522003/20150522003.pdf 2015年5月30日検索)。
2 経済産業省が第3回最終処分関係閣僚会議で配布した資料1では、科学的有望地の提示について「総合資源エネルギー調査会で専門家により検討中」とのコメントが付されてはいるが、あくまで国が前面に立って取組むことが焦点である(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisyu_syobun_kaigi/dai3/siryou1.pdf 2015年6月7日検索)。
3 日本学術会議、高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会、暫定保管に関する技術的検討分科会、2014、報告「高レベル放射性廃棄物の暫定保管に関する技術的検討」12頁(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140919-2.pdf)。文中にある「非破壊の物理探査」とは、地盤や岩盤を破壊せずに内部構造を探査する物理探査手法のことであり、弾性波、電気、電磁波、重力などを用いる方法が一般的である。
4 なお、経済産業省が総合資源エネルギー調査会に設置した「地層処分技術ワーキンググループ」における地層処分の成立性や安全性についての検討は、あくまでも政府部内に設置された議論の場で行われたものであり、これは日本学術会議の回答が必要性を指摘してきた「自律性のある科学者集団(認識共同体)による専門的な審議の場」としての条件を備えているとはいいがたい。関連分野の学会長からも疑問の声が出されている。加藤照之, 2014,「放射性廃棄物地層処分技術ワーキンググループ設立をめぐって―日本地震学会からの回答と考え方」『科学』Vol.84,No.2.
東京工業大学 名誉教授 今田高俊 氏

今田高俊(いまだ たかとし)氏のプロフィール
神戸市生まれ、甲陽学院高校卒。1972年東京大学文学部社会学科卒。75年東京大学大学院社会学研究科博士課程中退、東京大学文学部社会学科助手。79年東京工業大学工学部助教授。同工学部教授、同大学院社会理工学研究科教授を経て2014年から現職。日本学術会議連携会員。研究分野は社会システム論、社会階層研究、社会理論。著書に「自己組織性-社会理論の復活」(創文社)、「意味の文明学序説-その先の近代」(東京大学出版会)など。

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