コラム - オピニオン -

[シリーズ]イノベーションの拠点をつくる〈4〉東北大学COI拠点
さりげないセンシングが導く10年後の健康イノベーション

東北大学 客員教授 革新的イノベーション研究機構 機構長、株式会社東芝ヘルスケア社ヘルスケア医療推進部ライフサイエンス部長 高山卓三 氏

掲載日:2015年7月3日

文部科学省と科学技術振興機構(JST)は、2013年度から「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」を始めた。このプログラムは、現代社会に潜在するニーズから、将来に求められる社会の姿や暮らしのあり方(=ビジョン)を設定し、10年後を見通してその実現を目指す、ハイリスクだが実用化の期待が大きい革新的な研究開発を集中的に支援する。そうした研究開発において鍵となるのが、異分野融合・産学連携の体制による拠点の創出である。本シリーズでは、COI STREAMのビジョンのもと、イノベーションの拠点形成に率先して取り組むリーダーたちに、研究の目的や実践的な方法を述べていただく。

第4回は、さりげないセンシングで得た日常の健康情報をビッグデータに集積して解析し、個人の健康づくりにフィードバックするためのしくみの検討と技術開発を進める、東北大学COI拠点の高山卓三氏にご意見をいただいた。

※COI STREAM/Center of Innovation Science and Technology based Radical Innovation and Entrepreneurship Program。JSTは、「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」として大規模産学官連携拠点(COI拠点)を形成し研究開発を支援している。詳しくは、JSTセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムのページを参照。

東北大学 客員教授 革新的イノベーション研究機構 機構長、株式会社東芝ヘルスケア社ヘルスケア医療推進部ライフサイエンス部長 高山卓三 氏
高山卓三 氏

拠点のコンセプト

現在私たちの直面している課題の一つに、少子高齢化の進展を受け入れながら持続的に発展する活力ある社会をどのように実現するかということがあります。マクロで見れば、社会保障費の伸びを抑えること、労働生産性を向上させることが解決するべき課題です。私たちCOI東北拠点は、一人一人の健康で活力ある日々がその基盤にあると考えます。

生きがいを持って毎日を健康快活に過ごしたいということは、誰もが願うことでしょう。しかし、病気への不安、孤独感、離れた家族の心配などがあり、現実は必ずしも理想通りとは限りません。私たちは、日々の生活の中で体調の変化や病気の予兆をとらえ、いつでも、どこにいても、自分や家族の生活や健康の状態が分かり、最適な応援支援が得られる社会の実現を目指し、さりげないセンシングによる「日常人間ドックTM※1の開発を行います。

 

研究開発概要

COI東北拠点は、「さりげないセンシングと日常人間ドックTMで実現する理想自己と家族の絆が導くモチベーション向上社会創生拠点」として、東北大学、東芝、日本光電工業が中核機関を構成し、新潟大学、東北学院大学、早稲田大学のサテライト機関、およびその他の参画機関により構成されています。

COI東北拠点では、近年目覚ましい成果を挙げているバイオインフォマティクス※2研究を基盤とするゲノム解析学の知見を活用し、疾病の遺伝的要因を明らかにします。さらに、東北大学が伝統的に強みとしているセンサ、通信、材料科学の研究基盤を活用し、超小型高性能のセンサを開発し生体情報を取得するデバイスを開発し、生活習慣に関する情報の取得を行います。これらのデータを集積・統合しパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)のビッグデータ解析を行い、個人ごとに最適化された健康アドバイスを提供するサービスの社会実装を行います。そして、PHRビッグデータを活用した新たな事業モデルの提案と産業創造を目指します。

現代の日本においては、がん、循環器疾患、糖尿病が主要な疾患であり、これらの疾患の発症や病態には、遺伝的要因と生活習慣が複雑に絡み合っています。予防においては、遺伝的リスクと生活習慣リスクの科学的評価、治療においては遺伝的特性を踏まえた個別化医療が重要です。「日常人間ドックTM」の開発は、遺伝的要因、環境的要因と生活要因の各側面からアプローチします。

図.革新的イノベーション創出に向けたビジョンCOI東北拠点が描く10年後の社会像
図.革新的イノベーション創出に向けたビジョン「COI東北拠点が描く10年後の社会像」

遺伝的要因の影響を評価ツールとして、日本人に最適化されたゲノム解析ツールの開発を行いました。平成26年度の社会実装成果としてジャポニカアレイ®※3によるゲノム解析サービスを開始しております。今後個別の疾患リスク評価が可能となる疾患別アレイの開発を行います。環境的要因や生活要因の取得を行うセンサは、小型で装着感のない、さりげないセンシングを可能とするものを開発中です。中でも今年度から、飲み込み型のセンサ開発を本格的に開始し、大きさと価格の両面で革新的な進歩を実現し、これまでにないセンサの社会実装を目指します。PHRを活用した新たなビジネスの構築を目指した拠点内のパイロット・プロジェクトも実施中です。これは、個人の活動量データを集積・解析し、健康アドバイスをモバイル端末で提供するサービスの実証です。本実証で得られた結果は、個人の遺伝情報も含むPHRを活用したビジネスの提案に反映できると期待しています。

 

中核機関における研究開発体制

健康や生活のデータをセンサや体重体脂肪計などの計測器ライフログとして収集・解析し、本人にフィードバックするサービスは増えつつあります。しかし、健康状態の評価や病気との中間である未病状態の判別を厳密かつ客観的に行うことには技術的課題があります。その大きな理由は、1)使い勝手に難がある、2)性能が発展途上である、3)サービスに必要な基盤データが不足している、4)健康な人が健康管理・サービスになかなか投資しないといったものです。これらを克服し日常人間ドックTMに必要なイノベーションを実現するため、中核機関における研究開発体制は、以下5つのワーキンググループを組織し進めています。

  1. 1) センサ開発グループ
    さりげないセンシングを実現するために、東北大学の強みであるMEMS※4、生体親和性素材センサ技術を基盤とする、装着感のないあるいは非侵襲・非接触のセンサの開発を行います。
  2. 2) エネルギー・通信技術開発グループ
    センサの動力源となる電力供給技術、センサの取得したデータを外部に送信し、センサを制御するための通信技術の開発を行います。
  3. 3) ゲノム・生体情報解析グループ
    ゲノム解析グループでは、東北メディカル・メガバンク機構の研究成果を社会実装します。ジャポニカアレイ®とその改良版の社会実装を行います。生体情報解析グループは、不定愁訴(頭痛、動悸など不調の自覚症状があるが、病気が見つからない状態)、あるいは未病状態の医学的定義と評価指標の開発を行っています。
  4. 4) クラウド・ビッグデータ研究開発グループ
    個人のゲノム情報を基盤に、センサから収集される膨大なライフログ・ビッグデータPHRの集積と一元管理をクラウド上で行い、双方組み合わせて解析するシステムの開発を行います。
  5. 5) データ活用研究開発グループ
    PHRデータ信託バンクのビジネスモデルを構築し、データの二次利用から生み出される収益をシステム維持コストなどに充当可能かを検討課題としています。健康管理を継続するモチベーション作りとして、個人に対し何らかのインセンティブを付与するサービスモデルの構築を目指します。

 

イノベーションのプラットフォームをつくる

COI東北拠点の技術、ジャポニカアレイ®によるゲノム解析、センサによる活動量の取得と解析は、毎日の生活の中で病気の予兆発見と発症予防を可能にします。COI東北拠点はさらにその先、PHRを活用した新たな産業創出を目指しています。それは、これまでにない全く新しいもので、社会を変えるインパクトを持つかもしれません。COI東北拠点では、法制度や経済学的観点からPHR活用ビジネスの社会へのインパクトを検討し、望ましい社会制度の提案も研究課題としています。

イノベーションには異なる分野の交流が不可欠です。COI東北拠点では、東北大学の工学系、医学系研究者だけでなく、社会科学系の研究者も参加し分野融合を積極的に進めています。

企業も巻き込んだイノベーションのプラットフォームには、知財戦略も重要です。COI東北拠点では、知財プールによる知財活用ルールを整備し、企業に対して積極的にCOI東北拠点への参画も呼びかけています。

  • ※1 日常人間ドックTM/日常人間ドックTMは、株式会社東芝の登録商標。
  • ※2 バイオインフォマティクス/bioinfomatics。生命情報学。遺伝子やタンパク質の構造など生命が持つ「情報」を分析し、生命とは何かを追及する学問。
  • ※3 ジャポニカアレイ®/国立大学法人東北大学の登録商標。
  • ※4 MEMS/Micro-Electro-Mechanical Systems。半導体集積回路制作技術を用いて作る微小電気機械素子。
東北大学 客員教授 革新的イノベーション研究機構 機構長、株式会社東芝ヘルスケア社ヘルスケア医療推進部ライフサイエンス部長 高山卓三 氏

高山卓三(たかやま たくぞう)氏のプロフィール
1991年株式会社東芝入社。東芝メディカルシステムズ株式会社、株式会社東芝の技術企画室、ヘルスケアニューコンセプト開発部長を経て、2014年東北大学客員教授、革新的イノベーション研究機構機構長に就任。同年7月より、株式会社東芝ヘルスケア社ヘルスケア医療推進部ライフサイエンス部長。

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