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フューチャー・アースにおける研究の方法論(2/2)(安岡善文 氏 / フューチャー・アース委員会 委員長)

2015.06.24

安岡善文 氏 / フューチャー・アース委員会 委員長

フューチャー・アース委員会 委員長 安岡善文 氏
安岡善文 氏

 これまでの科学は“対象を知る”ということを中心に組み立てられてきました。自然界における真理を見いだす、という分析的な方法論であったといっても良いと思います。多くの場合はその真理は一つであり、17世紀以降に始められた新たな科学的な方法論でその一つの真理が追求されてきました。

 FEでは、“対象を良くする”ことに重点があります。そこで中心的な役割を果たす新たな学問的な方法論は、“設計”ではないかと思います。設計において重要なことは、解は必ずしも一つではない、ということです。複数の解の候補からさまざまな境界条件を考慮して最適な解を得なければなりません。さまざまな要素を対象として最適なシステムを構築することが要求されます。残念ながら、現時点では、どのように解の候補を探索するか、そのなかからどのように最適な設計を導き出すか、その方法論は確立していないようです。FEでは、この方法論を確立することが求められます。しかも、対象は地球規模での気候変動や生物多様性の保全といった早急に解決することが求められている課題です。

 設計は、既に、工学や、医学、農学といった分野でさまざまな方法が展開されてきました。政策学や経営学などの人文社会学の分野でも同様であったのではないでしょうか。いわゆる“実践”の学問領域では、課題を解決することを目的とすること自身は当たりまえであったともいえます。FEにおける一つの方法は、これまでの自然科学で用いられてきた分析的な方法に、他の分野で培われてきた、複数の解を前提とした新しい設計という考え方を導入することではないかと考えています。FEでは、自然科学と人文社会科学を含む他の分野との統合や協働が不可欠な要素として重要視されていますが、さまざまな分野で培われてきた固有の方法論を融合するための努力がまずは試行されなければなりません。

 本「コラム」では、FEにおける研究の方法論の一つとして、設計論導入の必要性について私見を述べました。今日、われわれが抱えるさまざまな地球規模での課題を解決するためには、新たな研究の方法論が必要であることは明らかです。

  • さまざまなステークホルダーを組み込んで
  • 課題解決に向けた道筋を設計し
  • 最終的な社会実装による効果までを評価する

 というアプローチはその一つといえます。容易ではありませんが、まずは第一歩を踏み出しましょう。

 JSTにおいてもFE研究を推進するプログラムが開始されました。RISTEX(社会技術研究開発センター)においては、平成26年度よりフューチャー・アース構想の推進事業「フューチャー・アース:課題解決に向けたトランスディシプリナリー研究の可能性調査」を開始しました。平成26年度には、24件の応募があり、以下の8件をフィージビリティスタディ(FS=feasibility study。可能性調査)として採択しています。

  • 「持続可能な開発目標(SDGs)実施へ向けたトランスディシプリナリー研究」
  • 「水・食料・エネルギーネクサスを考慮した地域の持続可能性構築に関する予備研究」
  • 「指標開発を通じたメガシティの持続可能性の実現」
  • 「環境・災害・健康・統治・人間科学の連携による問題解決型研究の可能性調査」
  • 「気候・社会変動への対応を推進するイノベーション創出フレームワークに関する調査」
  • 「地域・伝統知と科学知の融合を活かしたアジア太平洋地域における社会・生態システムの将来シナリオとガバナンス」
  • 「インドネシアにおける小規模アブラヤシ農園の持続可能ガバナンスの樹立に向けて」
  • 「気候工学(ジオエンジニアリング)のガバナンス構築に向けた総合研究の可能性調査」

 本選考にあたっては、地球規模課題の解決に向けた研究としての重要性に加え、自然科学と人文社会科学の融合、ステークホルダーとの協働設計(Co-design)、また国際連携の実現性を評価し、さらに課題の多様性も考えて採択しました。これらのFSプロジェクトでは、FEが必要とする研究の新たな方法論の構築を目指して研究推進のための国際的なネットワーク作りが進められています。その成果は半年以内に公開される予定ですのでご期待ください。

 また、平成27年度の公募も近日中に開始される予定です。多くの皆様の応募を期待しています。

フューチャー・アース委員会 委員長 安岡善文 氏
安岡 善文(やすおか よしふみ)氏

安岡 善文(やすおか よしふみ)氏のプロフィール
1947年10月生まれ。70年東京大学工学部計数工学科卒業、75年東京大学大学院博士課程修了(計数工学専攻、工学博士)。同年環境庁国立公害研究所(現国立環境研究所)入所、環境情報部、総合解析部等を経て、96年より地球環境研究センター総括研究管理官。98年より東京大学生産技術研究所教授。2007年より独立行政法人国立環境研究所理事、東京大学名誉教授。日本リモートセンシング学会、日本写真測量学会、計測自動制御学会、環境科学会、米国電気電子工学会(IEEE)等の会員。02-04年日本リモートセンシング学会会長、10-12年横断基幹科学技術連合副会長。14年より科学技術振興機構フューチャー・アース委員会委員長。現在、科学技術振興機構 研究主幹、国際環境研究協会 研究主監も務める。

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