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フューチャー・アースにおける研究の方法論(1/2)(安岡善文 氏 / フューチャー・アース委員会 委員長)

2015.06.24

安岡善文 氏 / フューチャー・アース委員会 委員長

フューチャー・アース委員会 委員長 安岡善文 氏
安岡善文 氏

 フューチャー・アース(Future Earth; 以降、FEと略記)と呼ばれる国際プログラムが始められようとしています。FEプログラムは、これまで地球規模での環境問題に取り組んできた世界気候研究計画(WCRP)、地球圏/生物圏国際共同研究計画(IGBP)、生物多様性科学国際共同研究計画(DIVERSITAS)、地球環境変化の人間的側面に関する国際研究計画(IHDP)を統合し、新たな方法論のもとで、地球規模での変動についての研究と持続可能な開発を結びつけることを目的とするプログラムです。国際的(international)、統合的(integrated)、協働的(collaborative)、かつ課題解決を志向した(solution-oriented)研究を進めると記述されています(FE初期設計報告書)。

 これら4つの鍵となる標語を読んだだけでは、FEが地球規模での課題の解決に向けて立ち上げられた革新的な研究プログラムである、という印象を持たれないのではないでしょうか。しかしながら、FEの新しい点は、従来のように研究が学界の中のみで閉じるのではなく、学界を越えて社会とつながり、社会と連携する方法論を展開することにより社会的な課題を解決しようとしているところにあります。研究者以外の社会のさまざまな関係者を組み込んで、協働企画(co-design)し、さらには協働生産(co-production)することがFEの新たな方法論と云えるでしょう。この方法論はトランスディシプリナリー(trans- disciplinary)アプローチとも呼ばれ、FEの核となる考え方といえます。

 なぜ、WCRP、IGBP、DIVERSITAS、IHDPを再構築しなければならなかったのでしょうか。FEが発足した背景には、これらの国際研究プログラムが、論文や報告書の形で多くの新たな知見の創出に寄与してきたものの、気候変動や生物多様性の減少等の問題において必ずしも具体的な解決策を見いだせていない、という評価があると思います。これらのプログラムを支援してきた国際科学会議(ICSU)をはじめとする世界の研究機関連合や研究ファンディング機関の集まりであるベルモント・フォーラム(Belmont Forum)が、現在のままの研究の考え方や方法論では、近い将来に課題を解決することが難しい、と判断したともいえます。

 実際、地球温暖化や生物多様性の減少については、気候変動枠組条約締約国会議や生物多様性条約締約国会議等の政策的な議論を行う国際的枠組みができており、毎年のように会議が開催され議論が行われているにも拘わらず、具体的な解決への道筋が示されているとはいえません。

 課題が解決できていない一つの理由には、対象とする事象が複雑になり、これまでのように一つの科学原理や一つの科学的方法論で事象を捉えることが本質的に難しい、ということが挙げられるでしょう。しかし、それだけではないのではないか、という反省がFEの出発点となっているように思います。これまでの科学の課題の解決に向けた方法論にも問題があったのではないか、という考察です。

 FEで挙げられる最も重要な考え方として“トランスディシプリナリー(以下、TDと略記)”が挙げられます。これまで言われてきた“インターディシプリナリー”や“マルティディシプリナリー”といった考え方が、学問の世界(学界)における異分野間の連携であるのに対して、TDは学界の壁を越えて社会とつながり社会と連携することにより課題を解決する、という方法論を探索しています。

 しかしながら、FEはいまだ手探りの状態であり、その方法論や研究の仕組みは確立していません。FEが発足し、その名前が科学技術の世界で知られるようになった今でも、FEについて研究者に問うと、その理念は良く分かるが、具体的に何をしようとしているのかが良く分からない、また、その核となる研究の方法論が見えない、という答えが返ってきます。私自身、自然科学の研究が社会とつながり、社会のステークホルダーと協働することが重要であることを理解しつつも、それだけで、課題の解決に向けた道筋が作れるのか、新たな学問的方法論は要らないのか、を問いたくなります。本「コラム」では、私見ではありますが、FEにおける研究の方法論について例を挙げて考えてみたいと思います。それは、“設計”という学問的方法論を導入することの必要性です。 

 なお、FEプログラムの概要については、FE立ち上げのための暫定事務局((パリ)に勤務されていたJSTの竹内真央さんが「“超学際的な国際研究”で地球環境問題に挑むフューチャー・アース10年の活動スタート」と題してサイエンスポータルのレポートに書かれていますので、そちらを参照ください。

フューチャー・アース委員会 委員長 安岡善文 氏
安岡善文 氏(やすおか よしふみ)

安岡善文(やすおか よしふみ)氏のプロフィール
1947年10月生まれ。70年東京大学工学部計数工学科卒業、75年東京大学大学院博士課程修了(計数工学専攻、工学博士)。同年環境庁国立公害研究所(現国立環境研究所)入所、環境情報部、総合解析部等を経て、96年より地球環境研究センター総括研究管理官。98年より東京大学生産技術研究所教授。2007年より独立行政法人国立環境研究所理事、東京大学名誉教授。日本リモートセンシング学会、日本写真測量学会、計測自動制御学会、環境科学会、米国電気電子工学会(IEEE)等の会員。02-04年日本リモートセンシング学会会長、10-12年横断基幹科学技術連合副会長。14年より科学技術振興機構フューチャー・アース委員会委員長。現在、科学技術振興機構 研究主幹、国際環境研究協会 研究主監も務める。

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