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地方自治体主導で再生可能エネルギーの導入を(倉阪秀史 氏 / 千葉大学大学院 人文社会科学研究科 教授)

2011.10.27

倉阪秀史 氏 / 千葉大学大学院 人文社会科学研究科 教授

千葉大学大学院 人文社会科学研究科 教授 倉阪秀史 氏
倉阪秀史 氏

注目される再生可能エネルギー

 3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原発事故によって、日本のエネルギー政策が大きく見直されようとしています。原子力発電を新増設していく従来のエネルギー政策はもはや継続することが困難となりました。「脱原発依存」が政治的なキーワードとなり、その具体化が進められようとしています。

 その際に、化石燃料に依存していくことも困難です。今世紀に入って、石油の枯渇が現実感をもって捉えられるようになっています。今後、原油価格はさらに上昇していくことになるでしょう。従来型の天然ガスは、石油と同じくらいの資源量しかないと言われています。石炭はまだ100年以上採掘できると考えられますが、石炭は他の化石燃料に比べて、温室効果ガスである二酸化炭素を多く排出します。脱原発依存にあたって化石燃料にシフトしていくことは、短期的には仕方がないところですが、長期的には難しいところです。

 このため、再生可能エネルギーに注目が集まっています。再生可能エネルギーは、資源基盤が太陽・地球・月といった天体エネルギーによって日々更新されるタイプのエネルギーです。具体的には、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス(生物資源)が典型例です。利用形態としては、電気に変えて利用する場合と、熱として利用する場合の双方があります。

「エネルギー永続地帯」研究から読み取れるもの

 再生可能エネルギーの供給量は、現状では、それほど大きいものではありません。千葉大学倉阪研究室では、NPO法人環境エネルギー政策研究所と共同して、2005年から「永続地帯」研究を進めています。この研究は、全国の市区町村ごとに、再生可能エネルギーの供給量と、地域的エネルギー需要量を推計するものです。地域的エネルギー需要量とは、民生部門と食糧生産部門のエネルギー需要量を指します。平たく言えば、住み続けるために必要なエネルギー需要ということになります。10月17日に公表した最新版(2010年3月末現在)速報値では、日本全国では、地域的エネルギー需要量の約3.5%を、再生可能エネルギーで賄っていることが分かりました。

 全国的にはさほど大きい比率ではありませんが、地域的に見ると再生可能エネルギーによる供給可能率が大きい所があります。今回の試算では、地域的エネルギー需要量の100%を計算上再生可能エネルギーで賄っている市町村(100%エネルギー永続地帯)が、2010年3月末で全国に60市町村あることが分かりました。都道府県レベルでは、大分県27.5%、秋田県19.8%、富山県18.4%、青森県14.7%、鹿児島県13.3%、長野県12.2%、島根県11.9%、熊本県10.7%の8県が、地域的エネルギー需要量の10%以上を計算上、再生可能エネルギーで賄っています。

 前年比でみると、2009年11月の太陽光発電の余剰電力固定価格買取制度の影響で、2009年3月から2010年3月にかけて太陽光発電は30%以上の伸びを示し、再生可能エネルギーによる電力供給は6%増加しました。しかし、小水力発電(1万キロワット以下)と地熱利用は微減、太陽熱利用は微増にとどまった結果、国内の再生可能エネルギー供給の総量は3.7%の伸びにとどまりました(2008年度は2.3%の伸び)。この伸び率では、再生可能エネルギー供給量が2倍になるまでに約20年かかります。

再生可能エネルギー特別措置法の効果

 2011年8月に、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再生可能エネルギー特別措置法)が成立しました。しかし、この法律には国としての導入目標が定められていません。東日本大震災に伴う福島第一原発事故を受け、再生可能エネルギーを一刻も早く基幹的エネルギーに育てるために、国として再生可能エネルギーの導入目標を定める必要があります。

 先に述べたように、現在の再生可能エネルギー供給の伸びでは、供給量を2倍にするために20年もかかるなど、基幹的エネルギーに育てるという観点からは不十分です。再生可能エネルギー特別措置法では、固定価格買取制度が導入されましたが、来年7月の施行に向けて、今後、買取価格と買取期間が定められます。再生可能エネルギーの導入が飛躍的に促進されるように、十分な買取期間と買取価格が設定されるべきです。

 また、再生可能エネルギー特別措置法では、認定を受けた再生可能エネルギー設備の送電網への接続義務づけが行われましたが、「電気事業者による電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき」には、電気事業者が接続を拒めるように規定されています(第5条第1項第2号)。再生可能エネルギーを大量に導入し、基幹的エネルギーに育てるためには、送電網を管理する側の努力が不可欠であり、従来と同じ運用にとどまることはもはや許されない状況であると考えます。この点に鑑み、国は、この条項を盾として接続を拒む電気事業者が出ないよう、再生可能エネルギー設備の送電網への接続義務づけを確実に実施すべきです。

地方主導での再生可能エネルギー導入政策の必要性

 再生可能エネルギーは、地域の風土に応じて、選択すべきエネルギー種が異なります。地域の風土に応じた再生可能エネルギーが適切に選択されるよう、市区町村が主体的に再生可能エネルギーの導入に関する施策を実施することが必要です。

 再生可能エネルギー特別措置法は、電気と熱という二種類の再生可能エネルギーのうち、電気のみを促進対象としています。先に述べた永続地帯研究では、再生可能エネルギー熱利用は、日本の再生可能エネルギー供給の約20%を占めていることが分かりました。熱については、ポテンシャルも大きいと考えます。特に、このような再生可能エネルギー熱の利用は、地域的に進めていく必要があります。電気は送電網を通じて広域的に融通し合うことができますが、熱は地域的にマッチングさせる必要があります。

 このため、建物の建築主に対してエネルギー需要の一定割合を太陽光、太陽熱、地中熱、バイオマス熱といった再生可能エネルギーで賄うよう設計することを義務づけることや、都市計画・まちづくりの中で再生可能エネルギーによる熱供給を念頭に置いた管路の敷設を検討することを促進することなど、再生可能エネルギー熱の導入促進に向けた地域政策が必要となります。

地方のエネルギー政策を立ち上げるためには

 これまで、日本においては、エネルギー政策は国が行うものだという認識が広がっていました。このため、現在の基礎自治体には、エネルギー政策を行うノウハウも財源も不足しています。

 市区町村のノウハウ不足を補うため、都道府県のブロックごとに地域エネルギー事務所を置き、関連NPOが運営に参画し、業者情報、技術情報、支援情報など各種情報を集める仕組みが有用です。市町村から、地域エネルギー事務所に職員を出向させノウハウを修得できるよう、国は、再生可能エネルギー政策を立ち上げるための地方交付金を創設すべきです。原子力発電所の新規立地のために用意していたエネルギー特別会計の予算を充てれば、各基礎自治体に最低一人ずつ専門の職員を雇用する経費くらいは十分賄えるはずです。

 また、地域資本が参加して再生可能エネルギーの導入が進められるように、再生可能エネルギーに関する地方債を基礎自治体が発行できるようにして、国が元利償還交付金を支出する仕組みを検討すべきです。

 さらに、再生可能エネルギーの地域における価値を高めるために、非常時のコミュニティ電源として再生可能エネルギーを活用できるようにする必要があります。今回の震災の際にも、地熱発電や風力発電が稼働していてもその電力を地域で使えず、エネルギー永続地帯であっても停電が起こってしまいました。再生可能エネルギーを「コミュニティ電源」として認識し、非常時には地域で生み出された電力を地域で活用できるように制度を見直していくことが必要です。

千葉大学大学院 人文社会科学研究科 教授 倉阪秀史 氏
倉阪秀史 氏
(くらさか ひでふみ)

倉阪秀史(くらさか ひでふみ)氏のプロフィール
三重県立上野高校卒。1987年東京大学経済学部卒。同年、環境庁に入庁し、環境基本法、環境影響評価法などの立案に従事。1998年千葉大学法経学部助教授、2008年同教授、2011年より現職。専門は環境政策論、環境経済論。地域内でエネルギーや食糧需要を賄うことのできる「永続地帯」の概念を提唱し、国内の全市区町村を対象とした「エネルギー永続地帯」の試算を行っている。著書に「環境政策論第二版」(信山社)、「環境を守るほど経済は発展する」(朝日選書)、「環境と経済を再考する」(ナカニシヤ出版)、「環境-持続可能な経済システム」(編著)(勁草書房)など

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