コラム - オピニオン -

地方大学の強み活かす政策を!- 科学技術創造立国の危機救う切り札

山形大学 研究プロジェクト戦略室 教授 小田公彦 氏

掲載日:2011年1月7日

山形大学 研究プロジェクト戦略室 教授 小田公彦 氏

小田公彦 氏

 

来年度の政府予算原案が、昨年末に閣議決定された。危機的状況の国家財政下のもと、二度の事業仕分けにより科学技術予算も例外なく厳しく予算査定されている。国立大学法人の運営費交付金や私立大学補助金は毎年1%以上減額され続けている。

地方大学の多くは競争的資金の獲得もままならず、地域とともに生きる使命の達成、特に教育・人材育成に困難を与えている。これでは資源の少ない日本の生きる道「科学技術創造立国」が危うい。そもそも科学技術の成果達成を実用化の成否のみで、あるいはムダの視点でのみ評価し判断することに危機を覚える。事業化・産業化に科学技術の成果たる特許などの知的財産の活用が大事だが、権利は最初の発明の申請者に与えられる。

ノーベル賞受賞や論文の栄誉は最初の発見者に与えられる。厳しい国際的な競争のなかで戦っている研究者に、「1番ではなく2番を狙ってはいけないのか」や「研究の結果はほとんど直接実用化に結びつかない。研究はムダの塊ではないか」などと言うことは、志気を低下させるだけではないか。中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーンーバラ校(UCSB)教授は「研究の本質は知的な賭け事(リスクテイク)」と看破されている。米国、欧州(特にEU)はもとより、韓国、中国、シンガポールなどの新興国は、猛烈に科学技術予算(大学をコアとして活用)を増やしている。経済産業の成長に高付加価値を与える源泉(エンジン)だと認識しているからである。

一方日本の総科学技術投資はほぼ横ばいで、しかも政府負担分(20%強)が少なく、産業界が多くの負担をしているという構造的な課題がある。イノベーションにつながる中長期的、革新的な技術は、政府特に大学の活動から創造されるからである。幸い「第4期科学技術基本計画」に、わが国の総科学技術投資は「国内総生産(GDP)の4%、うち政府負担分は1%を目標とする」との数値目標が記載される見込みになった。実は第3期も同じ数値目標の考え方で5年間25兆円の政府科学技術投資が記載されていたが、結果は大きく未達成なのは明らかである。目標が3期連続未達成では絵に描いた餅で失望を買うだけであろう。未来への先行投資と考え、国民を初め、産学官の皆様の理解を得て確実に達成するよう政府関係者に格段の奮起を願いたい。

科学技術の効率的効果的な振興の上で、長年念願としてきた基金化による多年度予算の確保(科研費に適用)などの制度改正がなされるとのことであるが、実に大きな一里塚となろう。基本計画原案や新予算原案では、新成長戦略の実現を目指す具体的な施策が2大(グリーンとライフ)イノベーション、オープン・イノベーション、地域活性化、産学官金連携、国際拠点とネットワークなどをキーワードとして出てきており、大いに期待できるのではないか。

さて近年、人口減少期に入った少子高齢成熟社会日本の再生(経済成長復活)の鍵は地域だと指摘されてきた。特に大学を中心にした科学技術を成長エンジンにした地域再生に期待が集まる。知的クラスター(文部科学省)、産業クラスター(経済産業省)が地域クラスターとして統合され、また国立大学の法人化、成果の地域・社会貢献など制度的環境整備もされてきた。しかし10数年以上の取り組みにもかかわらず、目に見える成功例が出ているとは言えないようだ。気づいた課題(バリア)摘出と解決策を展望したい。

昨年11月30日に、東京で「地域に根ざし世界を目指す有機エレクトロニクスの未来~山形大学の挑戦~」が開催された。420人以上の参加者があり、立ち見が出るほどの盛況であった。結城章夫学長の発言「わが国の国家戦略の一つとして、有機エレクトロニクスの実用化に向けた研究開発が強力に推進されている。山形大学は最先端研究分野(YU-COE)と位置づけ、本年4月には世界最高水準の研究拠点作りを目指し、「先端有機エレクトロニクス研究センター」がスタートする。特色ある地方大学として地域の活性化を目指す挑戦を続けたい」にリーダシップを感じる。

山形大学では城戸淳二教授が1993年に世界初の白色有機EL開発に成功し、米沢で東北パイオニアが世界初の有機ELディスプレイの製品化に成功するとともに、さらに山形県が研究所を開設し、世界初の有機白色照明パネル会社が設立され、この1月には量産出荷される。世界の卓越研究者を招聘(しょうへい)してドリームチームをつくる「先端有機エレクトロニクス国際研究拠点形成プロジェクト」(JST地域卓越研究者戦略的結集プログラム)が、一昨年12月からスタートした。昨年11月には産業化の萌芽期にある有機エレの実用化を提言する研究会が産学官の参加(70人以上)を得て立ち上がった。

近年産業化に向けて頭角を現しているドイツのドレスデン大学(ザクセン州)に30人近い産学官調査団の一員として訪問した。大学、州政府・市を中心に連邦政府・EUと連携して特区に近い手厚いシステムで推進しており、このままでは基礎研究で勝てても産業化までを考えると勝てない。少なくとも同じ土俵(支援体制)にして戦いたい。

以上山形モデルと言われる取り組みを紹介したが、地方大学の強みを活かす骨太施策が必要で、政府関係者に次のような対応が考慮されるよう強く求めたい。

  1. 地方大学の光る特色を見いだし、集中投資をする。地方の弱点は人材の層が薄いこと。優秀な研究者を集めて特色ある世界の研究開発拠点にし、地域の活性化を図る。

  2. 有機ELなどの先端研究は材料、部品(デバイス)、装置などいろいろな技術の融合で産学官の連携が肝要。大学が技術を垂直統合する中核的な拠点になるため予算が必要だ。

  3. 産学連携は実用化という明確な出口戦略が必要である。官だけでは無理で産からの戦略性を持った提案を吸い上げるなど、大学を中心にした産学官の拠点作りを進める。

  4. 有機エレ分野は大学の層が厚い。ネットワーク化を図り、またグローバル化に対応した国際連携の強化を図る。ハブ大学は総合プロデューサーの役割を果たす。

  5. 日本でも念願の総合特区構想が来年度に発足する。これを地域一体で活用することだ。

 

山形大学 研究プロジェクト戦略室 教授 小田公彦 氏
小田公彦 氏
(おだ きみひこ)

小田公彦(おだ きみひこ) 氏のプロフィール
1948年上越市生まれ。新潟県立柏崎高校卒。東京大学で工学博士取得。76年科学技術庁入庁、86年在西ドイツ大使館一等書記官、90年大型放射光施設整備室長、91年予算企画調査官、94年放射線医学総合研究所管理部長、96年研究基盤課長・地域科学技術振興室長、97年地球フロンティア研究室長・地球シミュレーター次長、99年ライフサイエンス課長、01年内閣府参事官、02年文部科学省大臣官房政策課長、次長、審議官を経て05年総括審議官、06年科学技術・学術政策局長、07年国立高専機構法人理事、10年4月から現職。

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