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コラム - オピニオン -

小水力利活用で脱温暖化地域社会を

NPO法人 地域再生機構 理事長 駒宮博男 氏

掲載日:2008年12月23日

NPO法人 地域再生機構 理事長 駒宮博男 氏

駒宮博男 氏

 

小水力発電は温室効果ガス排出量が格段に小さいエネルギー生産を可能とする技術である。地域資源利活用技術を駆使した持続可能な自立型社会形成のスターターになり得る、特に農山村地域において開発が容易で、充分な開発余力を残存する有用なエネルギー資源である。

われわれが目指す「小水力を核とした脱温暖化の地域社会形成」が、科学技術振興機構・社会技術研究開発プロジェクトである「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」の事業に採択された。この研究開発に基づいて、経済的メリットのある「魅力的な小水力利用の可視化」と法制度・運用上の制約・障害の見直しや、合意形成手法・事業化手法の具体化をベースとする「小水力利用の技術・事業と規制・制度の地域化」が行えれば、開発適地を有す多くの地域で開発意欲・開発需要を飛躍的に高めることが可能といえる。さらに、地域で地域とともに取り組む本研究開発プロセスは、潜在的地域資源を原資とする自立型地域開発プロセスの手引きとすることができ、同時に次の時代を担うかもしれない無数の小さなエネルギー資源を地域レベルから積み上げることで、将来向かうべきフローベース社会の部分構造としてのプロトタイプを提示することになると考えられる。

 

地域を核とした持続可能社会

研究の概要は以上のようなものだが、続いて研究のベースとなる考え方をお話しようと思う。

まず、持続可能社会を支える自然資源は、当たり前だが郡部にその多くが存在している。小水力にしろ、木質バイオマスにしろ、資源の多くは郡部にある。ここで注意を要するのは、こうした資源は都市には無く、都市が単体では持続不能であることと対照的に、郡部は単体で持続社会が構築可能であるという事実である。エコロジカルフットプリントを計算すればより明白になるだろうが、この事実をまずは認めねばならない。加えて、持続可能論を論じている多くの者が郡部ではなく都市に居を構えていることが原因となり、持続可能社会のビジョンに愚かな制約(物質的生活の右肩上がりの向上を前提とするなど)を加えていることも認識する必要があろう。客観的視座を基調とする研究者であろうと、生活者としてのバックボーンから逃れることは困難なのである。

これは私見だが、持続可能社会構築の唯一の戦略は、持続可能な小地域をひとつひとつ丁寧に構築すること、そしてその集積が社会全体を持続可能へと導く。国・県単位ではなく、広くても基礎自治体レベルで、いかに持続可能な地域をデザインするか、これが最大の戦略である。そして、県・国はそうした地域ビジョン実現に対して補完的に機能することが重要である。一言で言えば、「補完性の原則」に従うことである。

 

持続社会構築のための3つの原則

持続可能社会構築には、欠くことができない3つの要素があるが、その1つが上記の「補完性の原則」である。この原則は既に欧州連合(EU)マーストリヒト条約、第27次地方制度調査会答申など、地方自治の原則にかかわる数多くの文面で明記されている。しかし残念ながらわが国ではいまだ絵に描いた餅(もち)であり、「逆補完性の原則」が横行していると言うべきだろう。辛辣(しんらつ)に言えば、アメリカを日本が補完し、県が国を、市町村が県を、そして行政にできないことを地域コミュニティー、NPOが補完している。一刻も早く、これまでの過度な中央集権から脱皮する必要があろう。

この「補完性の原則」は、技術の普及という面でも重要と考えられる。特にエネルギー関連の技術(太陽光、ヒートポンプ、一部のバイオマス発電など)や資源(化石燃料、ウランなど)の多くは大企業に集中している。こうした技術や資源を利用したのでは地域に根ざしたものとは成り得ず、地域は常に受身の状態に置かれる。このような技術・資源を用いず、持続社会の一つの条件と考えられる自立分散型エネルギー供給を可能とするためには、地域固有の資源をもう一度見直す必要が生ずる。そうしたコンテクストの中で、小水力は極めて有望な素材なのである。

なお、3要素の残りの2つは「自然資本主義」、そして、「バックキャスティング」である。

「自然資本主義」とは、自然がもたらす利子のみを使った経済活動を良しとする考えである。あくまで利子のみを使い、決して元本には手を付けない経済を原則とする。従って、いわゆる枯渇性資源を多用してきたこれまでの経済のアンティテーゼであることは言うまでもない。化石燃料、ウラン、リン鉱石などを多用する元本取り崩し型経済が持続可能なはずがないことは赤子にも分かる原理と言える。元本取り崩し型経済に固執する者は悲しい自己中心主義者であり、子供や孫の世代に対する責任を放棄していることは明白である。

さて3つ目の原則はご存知の「バックキャスティング」である。CO2の6%削減、食糧自給率の5%アップ等々、とりあえず現状から一歩先にという場当たり的行動はすべて「フォーキャスティング」である。たとえ遠くとも、明確に持続可能な将来像を提示し、そこに至るロードマップを作り実行する、これが「バックキャスティング」である。

ここに提示させていただいた3つの原則に対して社会的合意が形成できれば、持続可能社会構築へ大きな一歩が踏み出せると考えている。と同時に、小水力発電の普及など、地域に密着した、地に足のついた行動を地道に行うことこそが持続可能社会を構築する最大の戦略なのである。特に国家レベルでの明確なリーダーシップが不在の今、持続可能な小地域の集積こそが社会全体を持続可能にする最も有効な手法ではないだろうか。

 

NPO法人 地域再生機構 理事長 駒宮博男 氏
駒宮博男 氏
(こまみや ひろお)

駒宮博男(こまみや ひろお)氏のプロフィール
1954年横浜生まれ。東京大学中退。幼少よりゲーテルなど、数学基礎論について父に聞かされて育つ。学生時代は年に120日以上山中で過ごし、登山の海外遠征は10回以上を数える。NPO法人地域再生機構理事長、NPO法人地球の未来理事長、ぎふNPOセンター理事長代行、名城大学大学院経営学研究科客員教授。著作に『ぎふ発、地域からのカクメイ~持続可能社会構築のための地域自治に関する政策提言~』(NPO法人地球の未来、2003年)、『地方住民から国土形成計画への提言』(道づくりフォーラム、2006)、『地域をデザインする~フラードームの窓から見た持続可能な社会~』(新評論、2007)など。

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