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新しい材料生み出す『元素間融合』…“現代の錬金術”でレアメタル代替

京都大学大学院理学研究科 教授 北川 宏 氏

掲載日:2015年4月8日

北川宏 氏

北川 宏 氏

 

従来の合金は、鉄とニッケルなどの異なる種類の金属を高温で融かし、混ぜ合わせることでつくられてきた。しかし、なかにはどう工夫しても均一に混ざらないものがある。そんな水と油の関係にある金属同士を、“原子レベル”で混ぜ合わせる「元素間融合」と呼ばれる製法の研究が進んでいる。従来の方法では決して混ざり合わなかった金属同士を混ぜ合わせることで、希少で高価なレアメタルの代替合金のみならず、優れた特性を持つ全く新しい材料をもつくることができる。

京都大学の北川 宏(きたがわ ひろし)大学院理学研究科教授は、この「元素間融合」で、レアメタル「ロジウム」の代替合金を人工的につくり出すことに成功した(京都大学プレスリリース)。ロジウムは、南アフリカからの輸入に頼るレアメタルで、自動車産業では不可欠な金属だ。主に触媒として、排ガスが含む有害な窒素酸化物を無害な窒素に分解したり、一酸化炭素を二酸化炭素に変換して無害化したりするのに使われている。

では、どのようにすれば、このロジウム代替合金ができるのか。まず、原料には、周期表でロジウムの両隣にあるルテニウムとパラジウムを使う(両者は、高温でも混ざり合わない金属)。これら二つの金属イオンが溶けた混合水溶液を、還元剤(トリエチレングリコール)と粒径制御剤(ポリビニルピロリドン)の入った溶液に混ぜ合わせる。プロセスはそれだけで、至ってシンプルだが、実際にはさまざまな工夫が隠されている。そのひとつは“霧吹き”。ルテニウムイオンとパラジウムイオンの混合水溶液を、還元剤と粒径制御剤の入った溶液に霧吹きで吹きかけることによって、瞬時にそれぞれが原子へ還元され、原子レベルで混ざり合った合金が得られるのだ。

北川氏が元素間融合の研究を始めたのは11年前にさかのぼる。きっかけは、燃料電池の水素貯蔵技術の開発だった。水素を取り込む性質を持つパラジウム粒子の周囲に、その作用を補助する触媒(白金)をかぶせる実験をしていたところ、水素を吸蔵する能力が、パラジウムの持つ能力を超えたのだ。調べてみると、白金の層でパラジウム粒子を覆っていたはずが、両者が原子レベルで混ざり合った構造に変化していることが分かった。驚くことに、室温では分離したほうが安定であるはずの白金とパラジウムの組み合わせが自発的に混ざり合ったのである。これが元素間融合のアイデアにつながった。以来、北川氏は、銀とスズからカドミウムやインジウムの代替合金(=有害元素の代替)、鉄と銅からコバルトやニッケルの代替合金(=レアメタルの代替)など、さまざまな新しい材料を創製することを目指している。

さらに、現在は、元素間融合の技術を応用して、シェールガスに含まれるメタンから高効率に化成品を合成する触媒を開発しようとしている。原油に依存しない化学産業の未来を開くためだ。元素間融合の成果は、これからのものづくりのありかたを大きく変えていきそうだ。

 

北川 宏 氏

北川 宏(きたがわ ひろし)氏のプロフィール
1986年、京都大学理学部卒業。91年に同大学院理学研究科博士後期課程を単位取得退学し、岡崎国立共同研究機構分子科学研究所助手。92年に博士号取得。94年より北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科助手、2000年より筑波大学化学系助教授、03年より九州大学大学院理学研究院化学部門教授、09年より現職。京都大学理事補(研究担当)、九州大学客員教授などを兼職。00年からさきがけ研究員(-03年)、05年からJST科学技術振興調整費研究領域主幹(-12年)。06年からCREST「ナノ界面」領域研究代表者、10年から文部科学省研究振興局科学官(-14年)、11年からCREST「元素戦略」領域の研究代表者。

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