コラム ― インタビュー ―

「未来を、世界を、かっこよくしたい」ファッション×科学技術 ~デジタルハリウッド大学大学院 Fashion Tech Lab~(第1回)

デジタルハリウッド大学大学院 学長 杉山知之さん、助教 オルガさん

掲載日:2018年11月9日

デジタルハリウッド大学大学院――株式会社が設立した日本初の大学及び大学院だ。ここの大学・大学院による大学発ベンチャーの創出数は、2018年発表の経済産業省の調査で国内第10位。私立大学に限定すれば、早稲田大学に次ぐ第2位だ。一方、この大学には科研費を獲得した教員がいない。日本の大学界に新風を巻き起こすデジタルハリウッドを取材した。

2回シリーズの第1回目は、創設者で学長の杉山知之さんには、デジタルハリウッドの今日までの道のりと、盛んなベンチャー創出の背景を、大学院に今年新設された「ファッションテックラボ(以下「FTL」)」を主宰するファッションテックデザイナーのオルガさんには人材育成に携わる信念と、「ファッションとテクノロジーの融合」の現状を、聴いた。

デジタルハリウッド大学のキャッチフレーズ「みんなを生きるな。自分を生きよう。」、そしてFTLが掲げる理念「未来を、世界を、かっこよくしたい」に込めた想いとは。

ファッションテックラボの皆さん
ファッションテックラボの皆さん

杉山学長インタビュー

—— キャッチフレーズは「みんなを生きるな。自分を生きよう。」ですね。これに込められた大学・大学院が目指すべき理想や、あり方を教えてください。

杉山知之さん
杉山知之さん

1994年10月に「デジタルハリウッドTHE MULTIMEDIA SCHOOL」を開校した当初から、21世紀には大学院を創ると決意していました。また当時から、コンピューターやネットワークが世界を覆い尽くした環境が、人類の生活環境になることも予期していました。基本的に学生には、将来どんな職業を目指してもらってもいいと思っています。ただし、どのような分野においてもこの生活環境を最大限に生かし、世の中を変える力を持つリーダーを育てるのが、デジタルハリウッドの目指すべき理想です。

まだまだ昭和の価値観を持っている人も多いと思いますが、21世紀の若者は吸っている空気からして違う感じがするというか、コンピューターやネットワークがあることを前提として物事を考えるのです。そういう考え方を自然にできる人、最初からその環境が普通だと思っている人が、どの産業においてもリーダーになるべきだと思っています。

—— その理念は、大学発ベンチャー創出数が国内第10位、私大2位であることと無関係ではないと思いますが。

そうですね。先ほど言ったような感覚を前提として大学をつくった人がいなかったので、自分でつくろうと思いました。「実践」を意識した結果だと思います。ただ、順位もさることながら、教員と学生数をベースにした割合では、上位10校の中でナンバー1です。創出数トップの東京大学は3万人ぐらいの規模に対して250社ですが、本学は1,300人ぐらいで50社ほどです。私は、従来型の社会システムの中で大人に認められるよりも、「分からない人は気にしない」と自分たちなりにやり、新たなお客をつかむ仕事の方が、ずっと面白いと思っています。自分の思うような会社を作った方がいいでしょう。そのような考え方が浸透している結果だと思っています。

—— 1994年10月に掲げた志が実現されるまでの道のりを100とすると、現在値はどれぐらいですか。

40ぐらいですね。まだまだ始まったばかりですから。確かに、初期の卒業生は、デジタルコンテンツ産業にたくさん従事しています。ただ、その中心にあるエンターテイメントの分野は第一歩といいますか、デジタルコンテンツが最も簡単に使えて、受け取る側も容易な分野にすぎません。私は、エンターテイメントを起点に、デジタルコンテンツが全産業に広がっていく理想を持っているので、今になってようやくファッションや医療・ヘルスケアの分野に到達したという感覚です。デジタルハリウッド大学大学院に医師や政治家が在籍していることを知ると、皆さん驚かれますが、私からすると「やっと来てくれた」という感覚ですよ。

ただ、理系の大学などでも、デジタル技術を他の産業に応用している人はたくさんいます。私たちと彼らが大きく異なる点は、エンターテイメントに由来する「表現」に基づいているところです。だから、サービスを受けた人は楽しい気持ちになったり、美しいと思ったりしてくれます。エンターテイメントの持つ「感動させる力」も技術と捉え、全産業に波及させていきたいと考えています。

—— 大学・大学院は「種まき」のフェーズだとお考えのようですが、具体的にどういったことを身に付けて欲しいと考えていますか。

デジタル表現技術というのは多岐にわたります。大学では一通りできるようになって、得意技を一つぐらい作って欲しいですね。対して大学院は、その技術を使って自分の成したいことをどう成すか。どうすれば実社会に適合し、続けられるのか。実践する力をつけて欲しいですね。

—— 学生の考えを絶対に否定されないと聞きました。マネジメント的には、学長や学校の方針に集中させる方が簡単だと思うのですが、あえてそうしない行動原理を教えてください。

簡単なことで、世の中に正解はないと思っているからです。全てのことにおいて、それぞれのやり方が尊重されればいいだけの話です。大人による価値観の押し付けみたいなものは、私は子供の頃から理解できませんでした。そして今は、学生に対してそのままの考え方で接しています。

—— 大学院に新設されたFTLの取り組みは、理念と照らして「バッチリ」と言えそうですね。

いえいえ、方向性は大好きですが、全然バッチリではないですよ。まだ始まったばかりとはいえ、結果を出していないですから。「楽しみにしている」といったところですね。オルガ先生のもとに、いい意味で「変な人たち」がやっと集まりだしたので、ここからかな。チームビルディングって、すごく大事じゃないですか。どれだけいい先生がいても、どんな人が集まるかによって、力を出し切れるかが変わりますから。出だしとしては、とてもバラエティのあるメンバーで、いいですよね。

—— デジタルハリウッドにはどんな人に来て欲しいですか。

バラエティが重要だと思っています。「多様性」という言葉が世間でもよく使われるようになりましたが、本質的に多様性を持たせることはとても難しいことです。例えば、一般的な大学だと、受験のシステムで人を集めるので、どうしても似通った境遇の学生が集まりやすい。

デジタルハリウッドはその点ではめちゃくちゃですから。全然違う育ち方をしてきた人が、ここに集います。そのダイナミックさは、国内の他の大学にはないと、誇るところですね。でも、集めたわけではなく、自然と集まってくるんです。とにかく、デジタルハリウッドに来てもらいたいですね。自分の好きなようにやっても、大して文句を言われない環境ですから。スタッフは「それはちょっと…」と言うかもしれませんが、僕は「やってみればいいじゃない」と言ってあげたいので、何でも相談してくれればいいのです。本学は、そうやってバランスが取れているんじゃないかと思います。僕は後からスタッフに渋い顔をされますがね。

—— 「何でも相談してくれれば」とのご発言がありましたが、学長室にはチョコレートが置かれていて、学生がフランクに食べに来るそうですね。

たくさん用意しておけば、学生は食べたくなって勝手に来るじゃないですか。コミュニケーションさえ生まれれば、きっかけは何でも良いのです。

オルガさんインタビュー

—— 杉山学長にも聞きしましたが、キャッチフレーズ「みんなを生きるな。自分を生きよう。」に込められた大学・大学院の目指すべき理想や、あり方について教えてください。

オルガさん
オルガさん

私は杉山学長のまねをしているだけです。彼のポリシーを、今の時代にアジャストさせていきながら、自分の得意なことを混ぜて、下の世代に伝えられるかどうか、だと思っています。

「みんなを生きるな。自分を生きよう。」って、結局「反乱軍」の考え方なんです。反乱軍が大事にすべきことは、従わないこと、疑うこと、戦い続ける姿勢を持つことだと思うんですよね。だから、みんなに合わせることのできない人たちで良いと思っています。

—— 一人一人のモチベーションが高いですし、皆さん戦っているように感じました。まさにベンチャースピリットですね。大学のポリシーが浸透しているように感じました。

BCI(Business・Creative・ICT)という3本柱があって、兼ね備えた人材を育成するのが、大学院の目指すところです。どれか1つに特化してはだめで、自分のやりたいことを中心に、何が足りないのかも、ちゃんと見る。これがマインドセットされているのだと思います。

最近、科学技術振興機構(JST)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と接点を持つようになり、驚きました。我々からすれば普通のことをしていても、国の側から見ると「変なやつら」と見られていることが、分かったんですよ。特別な技術シーズがあるわけではないし、すごいビジネス的な可能性があるわけでもないけれど、「何だか新しいし、面白そうだから、来ちゃいなよ」みたいな感じで声をかけてもらいました。

学生には、チャンスをたくさん得て欲しいです。でもそのためには、コンペに出まくって、色んな人と会いまくって、リアクションを集計していく必要があります。

ファッションテックは新しい分野で、メディアアートのコンペには出られないし、コンテストもビジネス・ファッション・プロダクト、どれに合っているのか分からない。だから、とりあえず全部のコンテストに出てみる。そして、どこからいいフィードバックをもらえたかを確認する。これが今年やるべきことだと思っていて、目標でもあります。

—— オルガさんの経歴と、現在までの活動を振り返っていただけますか。

服飾関係の大学に在学していた頃から、ファッションとテクノロジーが絶対に融合すると確信していました。ただ当時は、ファッションテックを学べる場所が、日本にはほとんどありませんでした。一方、海外に目を向けると、ロンドンカレッジオブファッションという学校に、ファッションデザイン&テクノロジーという大学院のコースがあることを知り、他をよく調べもせずに飛び付きました。

その中で、3DCGによる表現がすごく面白いということが分かってきました。要は、紙も布も使わずに服を表現し、販売する手法です。実際にやり始めたのは、2005年ぐらいですね。

イギリスから帰国した後の2008年には、企業とコラボしてコレクションもやらせてもらいました。でも今から10年前なので、CGとファッションを融合させることや、紙を使わずに服を作ることなんて、まだまだ「反乱軍」扱いなんですよ。誰からも理解してもらえませんでした。実際、色々なコンペに出たものの、箸にも棒にも掛からない時期もありました。

その頃は、ファッションテックの先進的な研究をされていた方々がやめてしまったり、スタートアップ(※)が解散したり、全体的に苦しい時期でした。携わる人たちの熱意や未来を見る力に感化される一方で、時代の流れとイノベーションをマッチさせる難しさや、日本の保守的な潮流を思い知って、20代前半は色々なことが本当に身に染みましたね。

私は私で、「意味が分からない」というリアクションばかりされてきたのですが、「面白いね」と言ってくださったのが杉山学長でした。それで、デジタルハリウッド大学院に入学し、今では助教になってラボを持つこともできました。一つのプラットフォームを、アカデミックな分野で作れたことが、とても大きいです。

※スタートアップ…新しいビジネス領域で急成長し、市場開拓フェーズにある企業や事業のこと。

—— 「ファッションとテクノロジーの融合」、つまりファッションテックをなぜ志そうと思ったのですか。

製図が苦手だったんです。1ミリずれたらだめな世界なんですよ。型紙って設計図なので。「線が曲がっている」とか、指摘されるわけですよ。でも「当たり前じゃないか、手で引いているんだから」と思っていて。

ところが、イラストレーターを使えば、真っ直ぐで1ミリも違わない線が確実に引けます。でも当時は、そのことを十分に理解している先生がいませんでした。デザインにソフトを使うという発想自体が、そもそもなかったのでしょうね。でも私は「イラストレーターでいいじゃん」「今まで何をやっていたのだろう」と思ったのです。同時に「分かってもらえないだろうな」とも思いました。でも、手で線を引くことは、すぐではなくても、間違いなくいずれなくなると信じて疑いませんでした。ただ、10年経った今でも、完全になくなってはいません。

志半ばで断念した先輩たちのバトンを受けた私には、これを途絶えさせるわけにはいかないという想いがあります。私が継がないと、完全に終わってしまうかもしれない。だから細々とでも、ファッションとテクノロジーの融合をやり続けなくちゃいけないと思っています。

—— 最近の動向を教えてください。

東京大学に、繊維商社の豊島通商の寄付でファッションテックの研究部門ができたり、ZOZO(発表当時はスタートトゥデイ)が九州工業大学とファッションの可視化に関する共同研究を始めたり、ファッションテックがアカデミックな分野でフィールドを作り始めています。まさに今「始まるぞ!」感があって、とても面白いです。

一方で、今が重要な局面だと思っています。私は今年、ファッションテックに特化した会社を立ち上げました。学生たちには、私がビジネスとしてどのように飯の食えるものにしていくのかを、見てもらいたいです。失敗しようが、いい感じになろうが、サンプルとしてはどちらでもいいのです。先生というよりは、ビジネスマンやデザイナーとして見てもらいたいですね。BCI人材を目指す上での、参考にして欲しいと思っています。

最近、他大学の学生のピッチを聞く機会があったのですが、プロジェクトの動機の根本にBCIが備わっているんです。空気を吸うみたいに自然に、しかもバランス良く。スタートアップ文化のスピード感の中で、私もすぐに化石化するかもしれません。それぐらい早いんです。だから、どんどん下の世代に伝えていかなければならないし、自分も行動で示さないといけません。

そのためには、自分が一番クレイジーでいなければならないと思っています。クレイジーな大人の姿勢には、私もたくさん勇気をもらいましたから。私がクレイジーじゃないと、下の世代も自分も、つまらない人間になっちゃいます。

—— デザイナー業だけに止まらず、なぜ「次世代育成」に携わろうと思ったのですか。

誰にも認めてもらえなかった経験って、貴重だと思うんですよ。でも、そんな経験は絶対にしない方がいい。

権威やパワーのある人から「全然面白くないよ」「絶対実現しない」みたいなことを言われちゃうと、今の子ってシュンとしてしまうんですよ、結構早めに。よく「最近の子は…」と言うけれど、大人が変わらなければいけない部分もあるのでは?と思うのです。最近は、起業家のメンタルをケアするサービスなども立ち上がっていますが、不健全な生態系を正す意味でも本当に大事だと思っています。大人が、下の世代を潰しかねない言葉なんて絶対にかけるべきじゃないし、もっと普通にアイデアを育てていきたかったのです。

—— 一方で、オルガさん自身はそこからはい上がったわけですよね。

いや、はい上がったわけでもないんです。ポッキリと折れて、「早すぎたのかな」とか、思いました。でも、自分が好きなこと、ワクワクすることって、結局ファッションテックしかないんですよ。それだったら、嫌なことがあっても頑張れる。

同じ嫌なことが起きるのでも、嫌々やっていたときと、好きでやっていたときとでは、乗り越えるためのモチベーションが全く違うんですよ。だから「好きなことをやる」って、実は合理的なことなのです。

ネガティブな発言は、口にするだけで周りにとって悪影響ですよね。好きなことをやっている中で悔しいことがあれば、学生たちはフォローし合うと思うんです。でも、「かったるい」みたいなことを言っていたら、誰もフォローしませんよね。結局、「好きなことをやった方がいい」に集約されます。自分を生きないと。

—— 「未来を、世界を、かっこよくしたい」と掲げた理由を教えてください。対象は、なぜ「未来」と「世界」だったのでしょうか。

FASHION TECH LAB

「未来」を創っていきたいんですよ。時代は流れるのがものすごく早いので。今創ったものも、たぶんすぐに古くなっちゃう。FTLも今年は注目していただけましたが、次の新しいことを始めていないと、もう遅いのです。だから「常に未来を創り続ける」ことを宣言したかったんですよ。それを真面目に考えている人たちと、一緒にやっていきたいというメッセージですね。

そして、やはり「世界」を意識すべきだと思っています。留学を経て、日本の素晴らしさがよく分かりました。だから、シリコンバレーの好事例を参考にしてもいいとは思いますが、日本人がそればかりを追う必要はないのかな、と。日本の旧態依然とした部分が良くないことも、分かっています。けれど、この国が好きだし、家族や友達もいるし、ここで育ったわけじゃないですか。世界を意識しつつ、日本らしさを考えていきたいですね。

でも、日本の中で日本らしさを出しても仕方がないので。あくまでも「海外に発信するための日本らしさ」であるべきとも思います。それはつまり「海外から求められる日本らしさ」でもあると思うので。日本人が自己満足的に「クール・ジャパン」と言うよりも、あくまでもニーズベースであるべきです。どこの部分を「クール」と言ってもらえたのかも、ちゃんと意識する必要があります。

—— ラボでの学生たちの取り組みを、どのように見ていますか。

いいチームワークができていると思います。基本、放任主義なんですよ。自分のやっていることを分け与えるイメージでした。コネクションも情報も。その中で、ファッションテックとは何か、このラボに足りないものは何か、自発的に考えているところは、期待以上のことでしたね。私がタスクとして与えていたら、たぶん自発的に考えるようにはならなかったと思うんです。私にとってもいい勉強になりましたね。

「人を育てる」って、非常におこがましいことだと思っています。学長が言っていたとおり、正解なんて一切ないのです。私の言うことなんて、ささいなことだと思ってもらっていいんです。もしかしたら、現時点では正しい可能性が高いかもしれませんが、彼らの考えを「実現できる」と言い切ってあげたいですし、「できない」とは言いたくありません。だから、私の方が学ぶことは多いです。「心配しなくて大丈夫だったな」ということの方が多いです。ケアしすぎるのも良くないと思っています。

—— ラボ内にいいスパイラルができているように思いますが。

今年は自分のネットワークを駆使して、さまざまな会社、JSTやNEDO、ハロー・トゥモローなど、BCIに即した人たちと会えるようにしました。外部の人たちと会うことで、学生たちのやりたいことが、どれだけブラッシュアップされるか見たかったんです。とにかく名刺を配って、自分のやりたいことを伝えるように促しています。すごく重要なことだと思っていて、極端に言えば、起業家マインドは別になくてもいいんですよ。好きなことでつながっていけば、最終的には何か良いものが生まれるじゃないですか。自分がCEO(最高経営責任者)にならなくたっていいんです。

—— 今どんな成果が出ていますか。

場づくりと、ネットワーク・リアクションの獲得が、今年のラボの目標でした。具体的な成果を残せるとは思っていなかったんですよ。だから今回、(JSTが主催する科学イベント)サイエンスアゴラに出ることになり、しかも注目企画になっていることが、ラボとしてすごい成果になると思っています。驚きました。これもリアクションの一つなんです。

デジタルハリウッド大学大学院は専門職大学院であり、株式会社が経営する大学院です。教員もビジネスの世界で成功している人ばかりです。自身の理論は、ビジネスのフィールドでトライ&エラーし、実証しています。

そんな中でも、文部科学省や経済産業省といった、国立・私立の大学が得意とするフィールドに、デジタルハリウッドみたいな存在が受け入れられたことは、この大学にとっても非常に重要なことなのです。サイエンスアゴラもその一つなので、これを成果と言いたいです。

—— サイエンスアゴラにはどのような印象をお持ちでしたか。

京都工芸繊維大学がサイエンスアゴラのリブランディングに関わっていたと思うのですが、大学と国の機関の連携として、すごくいい事例だと思っていました。これまでデザインの力は軽視されてきた部分があると思うのですが、近年非常に重要視されてくるようになってきました。デザインというのは、「普及力の要」だと思っています。私たちも、そういった重要性を伝えていけたらと考えています。

出展することには、学生が一番ビビっていると思います。有名な大学も多く出展されるじゃないですか。自分たちには技術シーズがないのに、「同じ空間にいて大丈夫なのか?」という不安が、彼らの中にはあると思うんですよ。でも、これも「みんなを生きるな。」だと思います。技術シーズがあることが、果たして成功のど真ん中にあるかと言うと、そうではないと思うんですよね。

だから、国立大学の学生には足りていないけれど、うちの学生にはあるもの。そしてその逆も、明らかにあるはずです。

—— 融合することが大事なのでしょうね。

「餅は餅屋」と言うように、CTO(最高技術責任者)気質の方と、CEOに向いた人は全然違うと思うんですよ。同じように、大学のカラーも違っていて当然です。今回サイエンスアゴラに出ることで、自分たちが他の大学に提供できることが、分かるのではないかと思っています。それに、他の大学や企業が「一緒にやりたい」と言ってくれるかもしれない。こうして、フィードバックが得られるのです。だから、すごく面白そうだなって思っているんですよ。もちろん心配もしているのですが。

ただ、本当の意味での「失敗」って、まだないと思っています。失敗しても、何がダメだったのか分かるじゃないですか。ファッションテックって、今でこそチヤホヤしてもらっていますが、全然そうじゃなかった時期もあるので。リアクションがあること自体、ありがたいです。リアクションを得られることで、「自分をちゃんと生きているか」見出せるのではないかと思っています。

うちのラボのことはスパイスだと思って欲しいのです。凝り固まって、意味のない会議を繰り返すよりも、デジタルハリウッドから変なやつを連れてきて、一緒にコーヒーを飲んだら「すごくいいアイデアが浮かんじゃったよ!」みたいな役割を担っていけたらな、と思っています。

—— 今後の目標を教えてください。

これからはもっと具体的な成果を出さないといけません。ラボのメンバーはどんどん変わっていくんですよ。企業みたいなもので、掲げた理念に沿って集まってくれた人たちが、その時々で考えるものに期待したいと思っています。私はその種を渡すだけにしたいですね。

ラボでもそれ以外のことでもいいのですが、学生がくじけそうなときに、私が意味のわからないことに、絶対に無理そうなことにチャレンジしていたら、彼らもあきらめなくなると思うんですよ。そういう、いいスパイラルを作りたいですね。

—— オルガさんも戦い続けていかないといけませんね。

本当に自分を律することが重要ですよ。「守りに入るな」みたいな。私も頑張ります。

(取材 「科学と社会」推進部 関本一樹、黒田明子、瀧戸彩花)

杉山さん

【杉山知之さんプロフィール】
デジタルハリウッド大学大学院 学長/工学博士
1954年東京都生まれ。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同・大学院・スクールの学長を務めている。2011年9月、上海音楽学院(中国)との 合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。VRコンソーシアム理事、ロケーションベースVR協会監事、超教育協会評議員を務め、また福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。 著書は「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」※最新刊(ちくまプリマー新書)ほか。

オルガさん

【オルガ(Olga)さんプロフィール】
デジタルハリウッド大学大学院 助教/Etw.vonneguet 代表/デザイナー
ロンドンの大学院にてファッションとテクノロジーの関係性を独自に学び、3Dモデリングから洋服をデザインするという異色のファッションデザイナー。デジタルツールを駆使した新しい服づくりへの挑戦と、ファッションの新たな視点を提案している。国内外アーティストへのPVやライブ衣装、ツアーグッズのデザインを多数手掛けるだけでなく、東京コレクションにも参加するなど、活動は多岐に渡る。渋谷パルコや伊勢丹をはじめとする国内の百貨店にも出店し、デジタルハリウッド大学大学院助教に着任。国内だけでなくプリンストン大や文化ファッション大学院大学の留学生に向けても教鞭をとる。より深くファッションとテクノロジーの可能性を研究、事業化に力を入れていくと共に「未来を、世界を、かっこよくしたい。」という理念のもと、活動中。

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