コラム - インタビュー -

近未来SF漫画で描かれるテクノロジーの未来(1/3)

漫画家 山田胡瓜さん

掲載日:2018年3月8日

SF漫画「AIの遺電子」シリーズ

科学技術の発展によって、未来の暮らしや社会はどうなっていくのだろうか。AI(人工知能)やロボティクスが発展した先の未来を表現したSF漫画「AIの遺電子」シリーズを描く漫画家の山田胡瓜(やまだ きゅうり)さんに、科学技術の未来や漫画で描かれる近未来社会の世界観などについて聞いた。

サイエンスフィクション(SF)の小説や映画、漫画では、昔から「近未来」を題材に多くの作品が描かれてきた。現在、山田さんが『別冊少年チャンピオン』に連載する「AIの遺電子」シリーズもそういった近未来SF作品の一つだ。

漫画「AIの遺電子」シリーズは、人間、人間そっくりのヒューマノイド、産業用ロボットが存在する近未来を舞台にしたSF漫画作品。近未来の世界には、人間とほぼ同じ能力・性格を持ったヒューマノイドたちが人間たちと共に暮らしている。ヒューマノイドは日々の生活の中で、普通の人間と同じように悩みやトラブル、葛藤を持ちながら生きている。ヒューマノイドの治療を専門とする主人公の「医師・須堂光(すどう ひかる)」は、病院を訪れるヒューマノイドたちの持つさまざまな問題と向き合って治療していく。未来の世界に暮らすヒューマノイドたちの「心」をテーマにした異色の作品となっている。

IT系の記者を経て漫画家になった経歴を持つ山田さんが描く近未来の物語には、AIやAR(拡張現実)、ロボティクスといったテクノロジーの進化に伴ってこれから起こり得る身近な問題も数多く登場する。

近未来を描くこと、人の心を描くこと

― 科学技術の進歩が目覚ましい現代に、SF作品を描くことについてどのように考えていますか。

今は本物っぽい(現実に近い)SF作品を描くことは難しいですよね。例えば、宇宙船に乗って戦う物語などはエンターティメントとしては面白いですが、技術が進歩して世の中がSFじみてきた中で、実際にそれを本格的なSF作品として想像するとなかなか難しい。いろいろ考えなくてはいけないことがあって描きにくくなってきたように感じます。

SF作品に対する読者の物語の捉え方についても、時代と共に変わっていくように思います。これまで描かれてきたSF作品の中には、例えば、機械が自我を持って反乱を起こしたけれども最後は人間が団結力や愛の力で冷酷な機械を上回って勝つ、というような一つの型がありました。こういったヒューマニズムの勝利というような物語は、テクノロジーが進んで人々がAIなどに持つイメージが変化した現代では、上手く受け入れてもらうことが難しくなったような気がしています。

僕の場合は、「今より少し発達した未来の世界」で、人間が抱える人間的な小さな物語が共感や実感を持って読まれるのではないか、という感覚で作品を描いています。僕自身はSF作品にそれほど詳しいというわけではありません。代わりにIT系の記者をしていた経験があるので、記者としてテクノロジーを見ていた時に感じていた問題や可能性などを基にして、未来を想像して描いているという感じです。また、仕事でテクノロジーに関わるようになって、身近な変化というものを感じるようになりました。そのため、そういうものを壮大な物語とは別に描いてみたいと思いました。

― 近未来を考える上で、どのように世界観を構築していくのでしょうか。

いろんな可能性を考えつつ、今の自分たちが共感できる物語というのを目指しています。単に未来の可能性ということで言えば、未来には人間そのものが変化してしまうという可能性はあると思っています。精神をプログラミングするとか、遺伝子的に変えてしまうとか、機械化するとか。人間そのものを変えてしまうような可能性もあるわけです。技術的にも少しずつ見えてきていますよね。ですが、今の自分たちにとって共感できる物語では、やはり今の自分たちがベースにないと共感できないですよね。まるっきり姿形や価値観が変わってしまった人間を描いても、今の自分たちが読む「未来を描いた漫画」としてはちょっと成り立たないんだろうなというのがあります。

「AIの遺電子」シリーズを描くにあたって考えたのは「今の人間が人間らしく暮らすけれど世の中は結構発展している」という状況を作り出すにはどうすれば良いかということでした。そうした時に、人間の知能をはるかに超えてしまった人工知能(作中では「超AI」と呼ばれている)が人間の代わりに人間社会を壊さないように管理していたり、人間と同様に扱われる「ヒューマノイド」と機械として扱って良い「産業AI」がいたり、という設定に繋がっています。

―山田さんの作品では全体的に科学技術の未来について、かなり肯定的に捉えていると感じましたが。

基本的には技術が進化することが人の幸せに繋がって欲しいと思っていますし、そういうものをずっと取材してきた身としてはやはり期待もあるんですよね。一方で、そうした期待を幻滅させないためにも、やはり問題点は問題点として指摘していくことがすごく大事だと思っています。

漫画で未来を描く時には、「技術が進んだらそうなるかもしれない」と思わせる現実味のあるディティールを足すのが好きですね。また、そういうところにテクノロジーが抱える問題などを少し散りばめていたりもします。

例えば漫画の中で、自動運転の車をマニュアル運転のモードに切り替えると、車が「保険適用外になります」と言ってくるシーンがあります。また、最近は自動運転で事故が起きたら誰の責任になるかといった倫理的な問題が出ていますが、そういうテクノロジーの良いところと悪いところの両方に注意を向けたいという思いがあります。

画像1 未来の世界では自動運転の方が安全で、人間の運転は車両保険適用外になるというシーン(第一話「バックアップ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
画像1 未来の世界では自動運転の方が安全で、人間の運転は車両保険適用外になるというシーン(第一話「バックアップ」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
画像2 自動運転で事故が起こった場合に責任は誰にあるのか、というテーマを扱った話(第76話「あるAIの結末」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
画像2 自動運転で事故が起こった場合に責任は誰にあるのか、というテーマを扱った話(第76話「あるAIの結末」より)(c)山田胡瓜(秋田書店)2016
山田胡瓜 氏

山田胡瓜(やまだ きゅうり)さんのプロフィール
漫画家。2012年、「勉強ロック」でアフタヌーン四季大賞受賞。元「ITmedia」記者としての経験を基に、テクノロジーによって揺れ動く人間の心の機微を描いた「バイナリ畑でつかまえて」を「ITmedia PC USER」で連載中。「Kindle版」は「Amazon」のコンピュータ・ITランキングで1位を獲得した。2015年11月、週刊少年チャンピオンで初の長編作品となる「AIの遺電子」を連載開始。2017年10月より続編の「AIの遺電子RED QUEEN」を別冊少年チャンピオンにて連載中。

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