インタビュー

「高精度の気象・気候モデル目指して」第2回「ゲリラ豪雨の予測も可能に」(大西 領 氏 / 海洋研究開発機構 地球シミュレーション総合研究開発グループリーダー)

2016.07.13

大西 領 氏 / 海洋研究開発機構 地球シミュレーション総合研究開発グループリーダー

大西 領 氏
大西 領 氏

 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて新国立競技場建設計画が二転三転した騒ぎは記憶に新しい。大方の関心は膨大な建設費に集中したが、競技場建設が環境に与える影響を重く見て、計画の見直しを求めた昨年4月の日本学術会議提言も、大きな問題を提起した。この提言の根拠となった重要な研究がある。新国立競技場建設が周辺の熱環境にどのような影響を及ぼすか、海洋研究開発機構のスーパーコンピュータ-「地球シミュレータ」を用いて解析した結果だ。こうした局所的な要因による環境変化予測に加え、地球温暖化という大規模な変化がもたらす気象、気候への影響を解明しようとする研究にも関心が高まっている。果たして気象や気候に及ぼす影響の予測はどれほど正確になるのだろうか。「地球シミュレータ」を活用し、気象モデル・気候モデルの高精度化研究を進める海洋研究開発機構 地球シミュレーション総合研究開発グループの大西領(おおにし りょう)グループ長に聞いた。

―乱流をシミュレーションに取り込むと実際の降雨に至る現象がうまく説明できた、ということをもう少し詳しく説明願えますか。

 粒が成長する過程には凝縮による成長過程と衝突合体による成長過程があります。粒が非常に小さい時には凝縮による成長が支配的ですが、直径が数十ミクロンになってくると衝突合体成長の方が支配的になってきます。後者の衝突合体成長過程を二つのステージに分けて考えたところがポイントです。同程度の大きさの粒同士が衝突合体する第1ステージと、第1ステージによって生じた大きい粒子が小さな粒子を“捕集”してさらに大きな粒になる第2ステージです。落下速度が大きい粒子が小さな粒子に追いつき、合体成長するので、“捕集”という言葉が使われます。第1ステージでは、大きさが同程度の粒同士は落下速度に大差がないため、“捕集”が行われません。一方で、乱流の効果を取り入れると、大きさが同程度の粒同士の衝突が大きく促進されることを明らかにしました。

 これまでのモデルも、雲のできる範囲を立体の格子(グリッド)に分けて、それぞれ雲水、雨水、雪がどれだけあるか逐一計算する、というものでした。ただし、グリッド内の雨水、雲水の量だけから粒の成長を計算していただけです。グリッドにどれだけ乱れがあるかという情報を考慮して、粒の成長を計算した研究はこれまでありません。

―流れの乱れ、乱流とはどういうものですか。

 風はまっすぐ流れているように見えても、実は細かく変動しています。その変動が乱れです。例えば、線香の煙は直線にはならず、小さく波打ちながら流れていきます。雲には層雲と積雲とがあり、層雲というのはほとんど乱れがありません。対流によってもくもくとした強い乱流状態にあるのが積雲です。積雲の場合、この乱れを考慮しないと雲粒の急激な成長をうまく説明できないと考えています。大気にはさまざまな大きさの乱れがありますが、一番小さい乱れの大きさは約1ミリメートルです。大気乱流の現象を解明するには、この小さな乱れを正確に捉える精緻なシミュレーションが必要になります。

―そこまでして分かったことは、具体的にどのようなことに利用できるのですか。例えば、実際の気象予測に使うところまで来ているのですか。

 今後、気象モデルに反映できると考えています。現在は、今日、明日大雨が降るかどうかということにとどまらず、どのように集中して降るかが、重要になっています。局地的に大きな被害を出しているゲリラ豪雨は地形的な影響もあるのですが、これまでの気象モデルでは、ゲリラ豪雨をきちんと予測することはできません。気象庁の天気予報は、大気の状態を一辺が5キロメートルの立方体のグリッドに分けて、そのグリッド中での雲粒の成長を計算、判断していますが、残念ながら、その計算の中で乱流の効果は考慮されていません。乱流の効果を考慮した雲粒の成長モデルに関する論文も出しており、実際の気象予測に組み込める段階にきていると考えています。

―今後はどのような研究をお考えでしょう。

 地球全体を対象にした気候モデルから、都市のスケールまで狭い地域の天気予報までを含めて一つのモデルとして計算できる。そのような「コード」を開発中です。都市計画、建築など工学分野でも使え、例えば、今後温暖化が進むと台風の強度などにどのような影響が出るか、都市の雨の降り方がどのようになるかが予測できるようなモデルです。

 前にお話した林誠二国立環境研究所室長の研究で興味深かったのは、温暖化すると大雨の降る頻度は少なくなるけれど、降った時の浸水面積は増えるというシミュレーション結果でした。私たちの研究では都市の建物が、大気の乱流にどのような影響を与えて、雨の降り方にどう影響するかも分かるようにしたいと考えています。

地球から都市スケールまでのシームレスなシミュレーション可能に(大西領氏提供)
地球から都市スケールまでのシームレスなシミュレーション可能に(大西領氏提供)

―建物も雨の降り方に影響するのですか。

 今の気象モデルでも、海面や森林、建物が建ち並ぶ都市など地表の違いは単純化してはいますが考慮はされています。海のように滑らかな平面と、森林のようにざらざらした平面さらに建物によって凹凸ができている都市は、表面の状態によって気象への影響に差ができることが分かっています。ただし、建物の影響は表面の粗さという平均的な特徴としてでのみ考慮しているのが現状です。個々の高層ビルの影響までは、計算していません。似たような建物が並んでいるのと、ところどころ高層ビルが建っている場合とでは、気象に与える影響は違うのですが。

 例えば、高層ビルでは各階で使用するエアコンなどから出る排熱をビルの一番上からまとめて放出しています。大量の熱が限られた場所から放出されている状態であり、この集中化した熱源が雲の成長に大きな影響を与え得ると考えています。一方で、高層ビルが立ち並ぶ地域の中には地域暖房という形で、個々の建物からは排熱を放出していないところもあり、同じ高層ビルでも排熱放出の形態によって気象への影響が異なっている可能性があります。

 とにかく、気象モデルの研究に不可欠な高解像度の計算をするためには、乱流から逃れることはできません。乱流と雲の成長をいかにマッチさせるかが鍵と考えています。

(小岩井忠道)

(完)

大西 領 氏
大西 領 氏

大西領(おおにし りょう)氏プロフィール
2005年京都大学大学院工学研究科博士課程修了、国立環境研究所地球環境研究センターポスドクフェロー。同年11月海洋研究開発機構研究員。日本学術振興会海外特別研究員などを経て、14年から現職。

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