コラム - インタビュー -

「模型が教える 巨大津波からの身の守り方」
第3回「模型作りで生徒は大きく成長」

岩手県立宮古工業高校 機械科実習教諭 山野目弘 氏

掲載日:2016年3月11日

東日本大震災からまる5年になる。巨大津波災害に度々遭遇してきた東北・三陸海岸の一角、岩手県宮古市の県立宮古工業高校が独自の精巧な津波模型を手作りし、これまで100回を超える各地の実演会や学校への出前授業を実施してきた。いずれも評判が良く、震災前にこの授業を受けた児童・生徒の津波犠牲者は1人も出さなかったという。日本水大賞、防災コンクールなどでの輝かしい受賞歴も多い。南海地震が想定される四国・徳島県や関西方面からも実演依頼の熱い声がかかる。巨大津波の痛ましい経験の記憶をどう伝え、次にどう備えることができるのか。指導に当たった機械科実習教諭の山野目弘氏に話を聞いた。

山野目弘 氏
山野目弘 氏

-12年間続けてこられた津波模型作りと、これを使った実演会は、生徒たちへの教育効果が大きかったようですね。

先ほども説明したように、ベニヤ板の切り込みと紙粘土の扱いに加えて、30枚近い地図をベニヤ板にはるのだって手早く正確に処理しないと、接着剤で伸縮が生じて失敗します。みんなホコリだらけ、汗だくで根気よく、夜遅くまで頑張っています。ここでモノ作りの厳しさを学び、完成した時の喜びを味わいます。

過去の津波被害の様子を当時の写真などを使って紹介するとか、地震や津波の発生メカニズムを小学生に説明しています。もちろん津波模型の説明もします。こうして人前での説明能力が驚くほどついてくるのです。特に技術系の生徒ですから普段は話し下手で、そうした機会にも恵まれませんでしたので、良い経験になっていると思います。就職試験の面接では大変役立っているようですね。

-すると、単なる防災教育ではなく、全人教育に近いですね。

確かにそうですね。卒業を前にした3年生のリーダーは生徒会長も兼務していました。全国に出かけて津波模型の説明をこなしてきたため場慣れして、説明が驚くほどうまくなりました。なかには、人前で話すことが困難な生徒の指導を、頼まれることもあります。

モノ作りの苦労と人前で説明する訓練が、生徒たちを成長させる
写真.モノ作りの苦労と人前で説明する訓練が、生徒たちを成長させる

—さて、津波模型作りを長年続けてこられた先生のそのエネルギーは、いったいどこにあるのですか。その義務感のようなものは何が支えているのですか。

私たちの住む三陸はリアス式海岸で、常に大津波の恐怖にさらされています。当初は、昔から背負った津波に脆弱(ぜいじゃく)な地域の役に立ちたいと、機械科の課題研究として取り組んだのです。すると、メディアや自治体、学校から大きな評判をいただいたために、その勢いで宮古市内の漁港の模型を幾つか連続して作りました。

数年続けてきて、当初の目的を達したと思われるため、そろそろやめようかとも考えたのです。次に生徒たちが取り組むための、機械科らしいテーマが何かないかと探したのですが、思いつきませんでした。

そうこうしているうちに東日本大震災が起こり、巨大津波の襲来を受けてしまいました。それ以降は、津波模型に対する関心が異常に高まり、他のことを考えられなくなってしまったのが実情です。

津波模型作りの体験が基になって、生徒たちからは次々とユニークなアイデアが生まれた
写真.津波模型作りの体験が基になって、生徒たちからは次々とユニークなアイデアが生まれた

-自動車関連のメーカーに就職が決まった卒業生も多かったようですね。津波模型作りで苦労した経験が、モノつくりの担い手として何か若者らしい夢などを語っていますか。

毎年、自動車会社など大手メーカーに就職する生徒が多いですね。その中の1人は、自動車がこれまでのように単なるスタイルや格好良さ、環境適合型、自動運転というだけでなく、もっと「災害対応」の装置を組み込めないものだろうかとの問題意識を持っているのです。

具体的なイメージや提案はこれからでしょうが、彼ならきっと良いものを生み出すでしょう。そんな発想も、この津波模型と取り組んできたからこそのアイデアであって、大いに期待したいですね。

私たちは地震や大津波の際の情報はやはりラジオ、テレビの緊急放送に頼ります。しかしそんな時に最も困るのは停電です。3.11もそうでした。災害時は初期の的確な判断や行動が生死を分けます。

だから、停電しても30分や1時間は緊急放送が安定して受信できるような非常電源を組み込んだ便利なテレビやラジオはできないものか。そんな問題意識を持っている生徒もいます。特にこのあたり(岩手県)は山と谷が入り組んでいて、電波が入りにくい地域が多いから、切実なのですね。

また他の生徒はこんなことを言っていました。昔の人は、悲惨な津波体験を紙芝居や絵本、語りで僕らに伝えてくれたと。それはとても大事ですが、これからは僕らがもっと創意を凝らし、最新の情報通信技術などを使って現代社会に合った分かりやすくて実感が湧き、効果的なものを開発し、防災に貢献する必要があると言うのです。

なんと、教えたはずの生徒たちから、逆に教えられることも多くなりました。うれしいことです。

-教師冥利に尽きますね。ありがとうございました。

(科学ジャーナリスト 浅羽 雅晴)

(完)

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山野目弘 氏

山野目弘(やまのめ・ひろし)氏プロフィール
1952年生まれ。71年岩手県立釜石工業高卒。静岡県や岩手県の民間造船所で船体造りや設計を担当。86年県立宮古工業高の実習教諭に。

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