サイエンスポータル SciencePortal

コラム - インタビュー -

第3回「いずれ国連安保理の最大テーマに」

日本学術会議・高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会 委員長 今田高俊 氏

掲載日:2012年10月29日

「高レベル放射性廃棄物『暫定保管』提言の衝撃」

原発に依存した社会であり続けるか、脱原発化か、で世論は真っ二つの様相をきたしている。しかし、どちらを選択するにしても日本はすでに深刻な問題を抱え込んでいる現実に変わりはない。すでに相当量たまっている使用済み燃料を含む高レベル放射性廃棄物をどこに処分するか、という難題だ。どちらの道を選ぶにしろ、深刻さの度合いの差でしかないように見える。「最終処分する前に数十年から数百年程度の期間、回収可能な状態で安全に保管する」。これまでの原子力政策にはなかった「暫定保管」という新しい選択肢を盛り込んだ提言「『原子力委員会審議依頼に対する回答高レベル放射性廃棄物の処分について』PDF」を9月10日にまとめた「日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」の今田高俊委員長(東京工業大学大学院 社会理工学研究科 教授)に、高レベル放射性廃棄物処分の難しさと今後の見通しを聞いた。

- 検討委員会は工学系の委員の先生方も合意できる案でまとめたということですが、日本学術会議全体のチェックを受けなかったのでしょうか。

今田高俊 氏
今田高俊 氏

日本学術会議として提言や勧告を出す場合には、「科学と社会委員会」の査読というチェックを受けます。科学と社会委員会のメンバーは学術会議の会員です。今回のような行政からの審議依頼に対する「回答」については、入念なコメントが入ります。科学と社会委員会から出された意見を受けて回答文面を手直しした後、さらに幹事会のチェックも受けます。

この際、特に今回は、日本学術会議会長および副会長から新たな意見が寄せられました。高レベル放射性廃棄物の総量管理について「総量を抑える」という表現だけでは誤解を与える可能性があるから、今後増えていく量、つまり増(加)分とこれ以上は増やさないという上限の設定の2タイプに分けて記述すべきだ、という注文です。

ということで結局、次のように変更しました。総量管理の方法として、「総量の上限の確定」と「総量の増分の抑制」とがあり、その内実が原子力政策の選択と深く関わる、と。「総量の上限の確定」とは、総量に上限を設定することで、社会が脱原子力発電を選択する場合には、そのテンポに応じて上限が定まります。また、「総量の増分の抑制」とは、総量の増加を厳格に抑制することで、単位発電量あたりの廃棄物の分量を可能な限り少ない量に抑え込むことです。社会が一定程度の原子力発電を継続する道を選択する場合には、この考え方を適用して、総量の増分を厳しく管理することになります。回答では、高レベル放射性廃棄物の「総量管理」と「暫定保管」の2つを柱として、大局的なエネルギー政策の枠組みを再構築することを提言しています。

- 「暫定保管」という考え方には、例えば外国に参考となるような例があったのでしょうか。

米国はブルーリボン委員会の検討結果を受けて、使用済み核燃料を中間貯蔵するという方向に向いています。地層処分の予定地であったユッカマウンテンが住民の反対にあって、ゴーサインが出せず、頓挫したかたちになったからです。

しかし、日本の場合は、「中間貯蔵」という地表に置いておく方式ですと、テロ行為に遭う心配があるという議論になりました。地下どのくらいの深さに、とは言っていませんが、数十年間から数百年間、埋め込んでしまうのではなく常時、モニタリングし、安全性に配慮しながら厳重に管理をする「暫定保管」が適切ということになりました。

フィンランドで建設中の高レベル放射性廃棄物の地層処分施設「オンカロ」(フィンランド語で「洞穴」の意味)は、2億年くらい安定している岩盤の中にあるそうです。それでもなおデンマークで制作され、NHKでも放映された「地下深く永遠に-核廃棄物10万年の危険-」というドキュメンタリー映画がつくられたくらいです。

「2億年安定している」といわれる地層が駄目なら、地球上ほかに適地などあるだろうか。そういう場所ですら否定的な見方もあるということですから、日本国内で地層処分の適地を探すことなど、まず無理でしょう。現に候補地選定に向けた文献調査(過去にあった地震など、地層の安定性に関する資料調査)を原子力発電環境整備機構(NUMO)に勝手に申請した高知県東洋町の町長が、住民のリコール運動で辞職に追い込まれ、出直し選挙で落選という憂き目に遭っています。

これは私見ですが、高レベル放射性廃棄物の処分問題について、あと50年経過するかしないかのうちに、国連安全保障理事会の最大のテーマになるのではないかと思います。今、原子力技術についての専門家が十分にそろっていない国でも、原子力発電をどんどん導入しようとしています。この調子でいくと、使用済み核燃料は莫大(ばくだい)な量になります。米国やフランスは、開発途上国に使用済み核燃料の地層処分を任せるでしょうか。現在の取り決めだと、自国の原発から出てきた高レベル放射性廃棄物は自国内で処分することになっていますが、絶対に任せないと思います。リスクが高すぎて…。

そうなると、世界中の国が国連の場で対応策を協議することになるでしょう。放射性廃棄物はあくまで出した国が処分するのが原則です。しかし、技術が未熟な国、さらに日本のように技術水準は高いけれども地震や火山活動が活発で地層が不安定な国は、国連管理の下、どこか極めて安定した地層のある場所(国)に廃棄物の処分を依頼することになるかもしれません。その代わり、応分の負担を厳しく強いられることになるでしょう。

(続く)
( 第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 第5回 )

今田高俊 氏
今田高俊 氏
(いまだ たかとし)

神戸市生まれ、甲陽学院高校卒。1972年東京大学文学部社会学科卒、75年東京大学大学院社会学研究科博士課程中退、東京大学文学部社会学科助手、79年東京工業大学工学部助教授。88年東京工業大学工学部教授を経て96年から現職。日本学術会議会員。研究分野は社会システム論、社会階層研究、社会理論。著書に「自己組織性-社会理論の復活」(創文社)、「意味の文明学序説-その先の近代」(東京大学出版会)など。

ページトップへ