インタビュー

第2回「増え続ける異常な死」(大島伸一 氏 / 国立長寿医療研究センター 理事長・総長)

2012.02.24

大島伸一 氏 / 国立長寿医療研究センター 理事長・総長

「健康長寿社会の構築目指し」

大島伸一 氏
大島伸一 氏

50年後に日本の人口は今より3割減り8,674万人になる、という推計を国立社会保障・人口問題研究所が公表した。世界に類をみない速さで進む高齢化とともに、全体の人口は減り続けるというどの国も未経験の時代に日本は突入している。医学部を持つ大学は全国に80あるが、需要が増え続ける老人医療の講座を持つのは22大学だけ。福祉・年金制度が破綻しないか、といった財政面での議論は盛んであるのに比べ、高齢者の急増に医療が全く対応していない現実に対する関心は驚くほど低い。地元自治体、企業、住民などと連携して新しい医療をつくる運動を進める大島伸一・国立長寿医療研究センター総長に、高齢社会におけるあるべき医療の姿を聞いた。

―急速な高齢社会への移行に追いついていない最も深刻なシステム、制度はなんでしょうか。

最もわかりやすく現れているのは社会保障制度です。社会保障制度というのは20世紀に初めてできた制度で、それ以前はありません。就業の形態を次世代に継続していくという考え方で、退職制度とセットで社会が年金を高齢者に支払うというシステムをつくり上げてきたわけです。しかし、それはピラミッド型の人口構造の中でつくられた制度であって、現在のような超高齢社会でも通用するようには設計されていません。医療保険制度でも同じことが言えます。

世界と日本との違いはどこの国も経験したことのない、その先頭に日本がいるということです。世界中が日本と同じ状況になりつつありますから、みんな日本を見ています。日本は一体どうするんだろう、と。

―中国なども、意外と早くそういう時代が来るという話も聞きます。

20年後には、中国は日本と同じ高齢社会を迎えますが、人口のけたが違います。韓国も10年後くらいには日本と同じようになるでしょう。台湾も、香港も日本と同じ状況になってきています。日本の場合、もう火がついているのに、高齢化による変化が、目に見えにくいか、ひとごとのようにのんびりしています。とんでもない話です。例えば、あまりよい例ではありませんが、私は高齢社会がいい社会か悪い社会かを考える時に、極めてはっきりしている指標があると考えています。人の死に方です。人の死に方には異常な死と正常な死があり、正常な死というのは病死か老衰かのどちらかしかありません。異常な死は事故死、あるいは殺人、自殺、心中等々、要するに普通ではない死に方です。

例えば高齢者の自殺は非常に多い状態がずっと続いていますし、孤独死や無縁死というのも増えています。正確な統計というのはないのですが、今では、万を超える孤独死があるのではないかと思います。それから介護心中、介護殺人なども増えています。高齢者の事故死も結構多いです。高齢者の絶対数が増えているのだから,こうした例も増えるという考え方ももちろんあるでしょうが、それを超えた異常な死が増えていると思います。この一事をもってしても、非常に厳しい状態が進みつつあることが分かります。

―病気あるいは老衰と言われる範囲に入るかもしれないのも、孤独死という異常な死に入るのでしょうか。

難しいですね。そこには人生観のようなものがあって、しょせん最後はみんな孤独で死ぬんだということや、あるいは自分の生き方、死に方の選択肢のなかにあるとすれば、それをどう考えるかというような話になる、といろいろあるでしょう。ただ、病気であれ老衰であれ、独り住まいでたまたま倒れ、そのまま動けず、だれも呼ぶこともできないまま亡くなってしまうというような状態を、自分が望んだ死と言えるのかどうかと考えると、どうでしょうか。少なくともそういう死に方がいい死に方だとは、なかなか言いにくいのではないでしょうか。NHKが番組で無縁死という言い方をしましたが、この表現には少なくとも望ましくない死という思いが込められていると思います。このような死は、非常に厳しい言い方をすると、社会に大きな責任があるのではないか、もっと厳しい言い方をすれば、社会による殺人じゃないかというような見方もできます。要するに社会が知らん顔をしているということです。少なくともこのような現実を見る限り、社会がきちんと対応する体制なり仕組みなりを十分に準備しているとは言えない、ということは言えます。

どのような死に方であっても、自分で選んだ一つの結果にしかすぎないのだから大騒ぎするほどのことでもない、というのも一つの考え方かも知れません。しかし、本当にそれでいいのか、それほど達観した見方ができるのでしょうか。

(続く)

大島伸一 氏
(おおしま しんいち)
大島伸一 氏
(おおしま しんいち)

大島伸一(おおしま しんいち)氏のプロフィール
旧満州生まれ、愛知県立旭丘高校卒。1970年名古屋大学医学部卒、社会保険中京病院で腎移植を中心に泌尿器科医として臨床に従事し、1992年同病院副院長。97年名古屋大学医学部泌尿器科学講座教授、2002年名古屋大学医学部附属病院病院長、04年国立長寿医療センター総長。2010年4月から独立行政法人化に伴い現職。日本学術会議会員。科学技術振興機構社会技術研究開発センター・研究開発領域「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」領域アドバイザーも。

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