インタビュー

第3回「自然エネルギーでも活用不可欠」(広瀬茂男 氏 / 東京工業大学 大学院理工学研究科 卓越教授)

2011.06.02

広瀬茂男 氏 / 東京工業大学 大学院理工学研究科 卓越教授

「ロボット研究開発は目的を明確に」

広瀬茂男 氏
広瀬茂男 氏

福島第一原子力発電所事故は、燃料溶融が起き、圧力容器だけでなく格納容器の損傷も起きていることが明らかになってきた。圧力容器から流出した高濃度の放射能汚染水を処理するだけで困難な作業が予想されており、当面の目標である原子炉冷温安定化が東京電力の工程表通り9カ月以内にできるか危ぶまれている。放射線量の高い原子炉建屋内での作業にはロボットの力が不可欠とみられるが、これまで原子炉建屋内で活躍したロボットは、米国製。日本のロボット技術は、どうしたのだろうか。ヘビ型ロボットの開発などを通じ真に役に立つ技術開発の重要性を強調している広瀬茂男・東京工業大学大学院理工学研究科卓越教授に、ロボット技術開発の現状と課題を聞いた。

―安全保障にかかわるような目的のロボット研究には役所も予算を付けるのは難しかったのではないでしょうか。少なくとも今回のような大震災が起きる前は。

私は昔から、ロボットは縁の下の力持ちに徹すればよいと言っています。人間社会の表舞台にしゃしゃり出てくる必要はなく、インフラの部分をきちんと維持して人間が普通に生活できるようにすることこそ、ロボットの役割ではないか、と。さらに社会に必要なことはいくらでもあり、そこは人間同士で何とかやっていけばよいではないか、ということです。原子力発電所などもそうですが、身近な下水道システムなどをきちんと動かすにも、人間が作業するとなると大変です。そこをロボットに任せて人間は普通の生活をすればよいではないか、というのが私の主張です。

―今回の大震災で、いったんまとまった第4期科学技術基本計画も再見直しの作業が行われていると聞きます。ロボット研究に関してはどのようなものを盛り込むべきだとお考えでしょう。

少なくとも、福島第一原子力発電所で事故を起こした原子炉の放射能汚染除去という問題が目の前にあります。その後に続く原子炉の解体を含め、遠隔操作でやらなければならないことはたくさんあります。そうしたことがきちんとできるロボットというのは、実は本当に古典的なテーマですけれど、まだまだまともなものはほとんどなく研究開発も停滞しています。これ以上研究は必要ないという感覚、雰囲気になってしまっているのでしょうか。そうした関心、需要をもう一度復活させて、着実に操作できる現実的なロボットをつくることが今、求められている、ということだろうと思います。

インフラの維持管理ということでは、通常運転時の原子力発電所では既に相当、ロボット化されています。将来の核融合などを考えても、原子力は今後ますます自動化しなければいけない世界です。さらに、これから拡大が望まれている自然エネルギーの分野でも、きちんと利用できるようにするには維持、管理が大変、重要になります。例えば太陽光発電施設を砂漠地帯などの、人が住んでいないような場所にたくさんつくろうとしています。ところが太陽電池板の表面は汚れると発電効率が落ちてしまいますから、全体を巡回して次々に表面をふいていくような、維持管理ロボットの導入が今後不可欠になるはずです。

―確かに太陽光発電にしても発電効率が何パーセントか良くなったところで、多くの人手をかけていたのではどうしようもないですね。ビルの窓と違って、人が出かけて簡単に作業できるような場所ではありませんし。

ええ、広さ、環境から言ってもものすごい地域ですから…。ロボット技術と組み合わせて、初めて機能するというのが大規模太陽光発電システムだろうと思われます。このような大規模システムのインフラ維持管理を、ロボットを活用することで進めましょうということです。

―最後に一言、今後のロボット研究の進め方についてご意見をください。

そうですね、企業にとっては採算性が大事ですから、基本的にもうからないものはまともにやってくれません。しかし、そのようなものの中にも、国民の安全安心にかかわるとても重要なものがたくさんあります。そのため、このような分野にかかわるロボット開発については、やはり国が本腰を入れて継続的にサポートし、企業も参加しやすいような環境をつくり上げていくことが必要だろうと思います。

今回の震災は日本国にとっての本当に大変な国難でした。しかし、何とかこの災いを福に転じるためにも、国がどのようなロボット技術がこれからの日本にとって必要かをあらためて再検討し、ぶれずにそれを実行し続けていただきたいと思います。

(完)

広瀬茂男 氏
(ひろせ しげお)
広瀬茂男 氏
(ひろせ しげお)

広瀬茂男(ひろせ しげお) 氏のプロフィール
東京生まれ。東京都立日比谷高校卒。1976年東京工業大学制御工学専攻博士課程修了(工学博士)。同学助手助教授を経て92年東京工業大学機械物理工学科(2000年以降機械宇宙システム専攻)教授。2011年卓越教授、スーパーメカノシステム創造開発センター長。専門はロボット創造学。1999年(第1回)Pioneer in Robotics and Automation Award、2001年文部科学大臣賞、04年IFToMM Award of Merit、06年紫綬褒章、08年エンゲルバーガー賞など受賞(章)。主な著作は「ロボット工学」(裳華房)、「生物機械工学」(工業調査会)、「Biologically Inspired Robots」 (Oxford University Press,1993)など。IEEE、日本機械学会、日本ロボット学会フェロー。日本学術会議連携会員。

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