インタビュー

第1回「ピンチをチャンスに」(津村啓介 氏 / 内閣府 政務官)

2010.02.16

津村啓介 氏 / 内閣府 政務官

「科学技術は国家戦略の中心」

津村啓介 氏

昨年9月の政権交代以来、科学技術政策は大きく変わった。2,700億円基金の見直し、縮小、事業仕分けとそれを受けた予算要求の縮減に加え、予算編成プロセスの透明化や昨年末発表の新成長戦略に科学技術が明確に位置づけられたことなどが大きな関心を集めている。2月3日に開かれた総合科学技術会議の本会議では、概算要求前に総合科学技術会議が各省予算にコミットメントするアクション・プランの作成が了承された。

新政権の科学技術政策に対する姿勢や、今後どのように政策を進めて行くのか。科学技術政策を担当する内閣府の津村啓介・政務官に聞いた。

―新政権発足後、事業仕分けの実施に加え、具体的な戦略がなかなか見えてこないことなどに不安を持つ研究者も多い。科学技術の位置づけや今後の方向について、どのように考えていますか。

今回の鳩山内閣は、首相、副首相、文部科学相、官房長官が理系出身のサイエンティスト内閣です。鳩山内閣は日本の科学技術立国を国家戦略の中心に位置づけていると思っています。鳩山首相は就任直後にチャレンジ25を外交テーマに取り上げ、成長戦略の中で2つのイノベーションを一番の強みと位置づけました。地球温暖化と少子高齢化というピンチを逆転の発想でチャンスに変えて、世界の中でも最初に科学技術の裏付けのあるイノベーションを行い、それをこれから50年、100年飯の種にしていこうと実際にうたっています。それを身のあるものにするためには、当然、科学技術予算の裏付けが必要で、政権としては、科学技術予算の質と量の両面を充実していくことが科学技術立国に不可欠だと思っています。

量の確保についていえば、研究開発投資を国内総生産(GDP)比で官民合わせて4%にするということにコミットしています。「目指す」ではなく「する」にしたというのは、成長戦略の中で唯一、予算にコミットした数字であって、官民合わせて4%ということを盛り込んだこと自体がすでに大きな成果です。さらに川端文部科学相は、政府だけでGDP比1%ということも打ち出していて、当面の焦点は、政府1%ということを6月の成長戦略に盛り込めるかどうかです。

一方で質を高めるということも非常に重要です。事業仕分けというのはまさに質を高めるためにやったものであって、量を削るためにやったものではありません。科学技術予算を質・量ともに充実させることが重要で、事業仕分けは質、研究開発投資の国内総生産(GDP)比官民4%は量。この2つをやっています。事業仕分けのようなものがあることによって、今までの科学技術予算のぜい肉をそぎ落とすことが期待されるわけです。

そういう意味で、これからも科学技術予算についてがんがん事業仕分けをやるべきだと思っています。全体で量を増やしながら一方で質をきちんと高めていくために、事業仕分けのようなやり方はどぎついようだけれども非常に効果があります。科学技術の中身についての国民的関心を高めることにつながるので、個人的には科学技術予算について事業仕分けはどんどんやるべきだと思っています。

―新政権発足後、事業仕分けの実施に加え、具体的な戦略がなかなか見えてこないことなどに不安を持つ研究者も多い。科学技術の位置づけや今後の方向について、どのように考えていますか。

第1回の事業仕分けには課題も多かったと思います。それは仕分け人の側の知識の限界、事前準備の限界、一方で仕分けられた側、事業官庁側のプレゼン能力の致命的な低さがあります。いかに予算の意義というものを今まで説明してこなかったか。私自身も出席しましたが、仕分け人の質問の乱暴さもさることながら、答える人のふてぶてしいほどの開き直りと、上からの目線が気になりました。仕分け人がものを知らないことは当たり前で、きちんとそれを伝えるべきなのに非常にばかにした態度をとるような役人もたくさんいました。

的を射た、短い、分かりやすい答えをすることが求められていたのに、それが全くできない答えも目立ちました。だからこそ仕分けられたのであって、これを仕分け人サイドの準備不足、知識不足だけをあげつらうのはフェアでないし、実際、そんなことをしていても今後持たないと思います。

また、事業仕分けは一番乱暴な道具ですが、事業仕分けをもう少しモデラートにしたスキームをつくることが必要です。もう少し中身の分かった専門家による、かつ国民に開かれた分かりやすい、そして外部からチェック可能な方法です。それがまさしくアクション・プラン(注)だと思っています。アクション・プランは、より改良された、より丁寧な事業仕分けで、アクション・プランを導入することによって、数多くの研究に泣いていただこうと思っているわけです。アクション・プランを推進しながら、とはいえ科学技術予算全体を底上げしようとは思っていません。いくつかの分野については切り付けていきたいと思っています。

―全体を増やすという話と、数多くの研究に泣いてもらうという話の整合性は?

全体を増やそうとは思っているんです。それでは全部今と同じで上にのせていくだけかというと、やはり全体が増えている中でも駄目なものは淘汰されるべきです。高度経済成長期においても駄目な企業は倒産していたのと同じで、やはり駄目な事業には倒産してもらおうと思っています。

―駄目な事業の洗い出し方法はどのようにするのですか。

それがまさに、これからのアクション・プランのチャレンジで、正直その答えは見えていません。かなり多くの人の力が必要で、各省にも協力してもらわなければいけないし、総合科学技術会議有識者議員の方々には自分の専門分野の応援ばかりでなくて、相互チェックをしてもらおうと思っています。アクション・プランを進めていくにあたっては、有識者議員が個々の専門分野を一人でやるのではなくて、ダブルチェック体制はキチンとつくらないといけないと思っています。

―総合科学技術会議の優先度判定と事業仕分けで異なる結論が出ましたが、同じようなことがアクション・プランと事業仕分けで起こることはありませんか。

起こり得るんですが、アクション・プランがうまく機能すれば、事業仕分けの場でそれを言えばいいんですよ。私たちはきちんとこういうことをやっています。そして前年度と比べて、ここは削っておりこの分野はこういう理由で大事だから増やしているんです、というようなプレゼンができると思います。

―アクション・プランに載ることで、事業仕分けに対応できるようになるということですか。

そう思います。逆に言うとアクション・プランにあまり載っていないものは切られやすくなるでしょうね。それは当然連動するし、事業仕分けをする側だって、そっちの方を削ろうとするでしょう。

また、アクション・プランを機能させるために、総合科学技術会議有識者議員と日本学術会議の協力を得て、科学者の科学者による科学者のための事業仕分けを行っていただきたい。アクション・プランがその舞台を提供できると思っています。

  • (注)
    これまで総合科学技術会議は毎年1、2月に「科学技術政策の重要課題」を取りまとめているだけで、6月の資源配分方針を決定するまで、各府省の予算にコミットすることはできなかった。そのため、各省から出てきた予算概算要求を後追いで優先度判定しているのが現状で、その結果も財務省のマイナス査定の参考程度にしかなっていなかった。アクション・プランは、各府省が概算要求を取りまとめるまでの間に特定の政策目標とそのための具体的政策について、総合科学技術会議と各府省で議論し工程表としてまとめていく。再来年度予算の策定に向けてはグリーン・イノベーションとライフ・イノベーションが対象となる。

(科学新聞 中村 直樹)

(続く)

津村啓介 氏
(つむら けいすけ)
津村啓介 氏
(つむら けいすけ)

津村啓介 (つむら けいすけ)氏のプロフィール
1971年岡山県津山市生まれ。90年麻布高校卒、94年東京大学法学部(政治コース)卒、日本銀行入行、オックスフォード大学経営学修士(MBA)、英外務省チーブニング・スカラーシップ奨学生。2002年民主党衆議院選挙候補者公募合格者第1号。03年衆議院選挙で初当選。現在3期目。鳩山内閣で内閣府政務官に就任。担当は国家戦略、経済財政政策、科学技術政策、地域主権推進、知的財産戦略、IT戦略など。毎週1回開催される総合科学技術会議有識者議員と担当大臣との会合には必ず出席し、関係する専門調査会などにも出席するなど科学技術政策策定に大きな役割を果たしている。

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