コラム - インタビュー -

第1回「研究開発から安全保障、実利用重視へ」

筑波大学准教授(人文社会科学研究科国際政治経済学専攻) 鈴木一人 氏

掲載日:2008年3月24日

「見直し迫られる日本の宇宙開発」

宇宙基本法の成立を目指す動きが活発化してきた。日本の宇宙開発のありかたを根本から見直し、国民の安全・安心に寄与するものとすることを狙った法案を、与党は既に国会に提出している。民主党も独自の法案を今国会に提出できるよう、1月に組織横断的な検討チームを立ち上げた。与党の宇宙基本法草案作りにアドバイザーとして尽力した鈴木一人 氏・筑波大学准教授(人文社会科学研究科国際政治経済学専攻)に、宇宙基本法の狙いを聞いた。

- 与党が提出した宇宙基本法案が成立すると何が変わるのでしょう?

鈴木一人 氏

鈴木一人 氏

 

例えば、第14条ではわが国の安全保障に資する宇宙開発を推進できるよう必要な施策を求めたり、第16条では、民間企業における宇宙開発に関する事業活動を促進できるよう、政府に対して、物品や役務の調達を計画的に行うことを義務づけています。

しかし、これらは強制的なものではなく、例えば、防衛省が安全保障のために衛星を開発する義務があるというものではありません。一方で、基本法が成立すれば、防衛省が開発しても法的問題を指摘されることはなくなります。これは、宇宙の「平和利用」の解釈を「非軍事」に制限した1969年の国会答弁を見直すものとして大きな効果があります。ただし、これらの話はどれも表面的なものに過ぎません。宇宙基本法の本当の目的は、これまでの宇宙開発の考え方を変えることなのです。

- これまでの宇宙開発のどこをどう変えるのでしょう?

わが国は、研究開発を目的としたロケットや衛星ばかり開発してきており、メーカー側も価格やリスクの高いものを製造してきました。これでは各メーカーが市場で勝利することができません。確かに、研究開発を進めることで日本の技術力を上げることはできています。しかし、それが新しい「何か」を生んだでしょうか? H2ロケットの国産化が、何かに活かされたでしょうか? 産業活性化につながったのでしょうか? 累計4兆円もの予算をかけて何を得た? 私たちは今、こうした問題を正面から受け止め、研究開発中心の宇宙開発の考え方を改めなければならないところに来ています。宇宙開発は、人に役立つものでなければならないということです。

そこで、宇宙基本法は (1)人に役立つことをする (2)安全保障に役立てる (3)研究開発文化を改める (4)外交政策に使う (5)人類初を目指す-ことを目標としていると考えています。

- 「安全保障に役立てる」には幾つもの壁があるのではないでしょうか。1969年の国会答弁や、政府による実用衛星開発を制限した90年の日米衛星調達合意といった。

69年当時の情勢をひも解いてみると、ロケットをミサイルに転換することに懸念があり、それを払拭しようとして、国会答弁が行われた節があります。決して、防衛目的全体での宇宙開発を規制しようとしたものではありません。それに、世界各国は宇宙の「平和利用」の解釈を「非軍事」ではなく「非侵略」に置いており、安全保障目的に利用することを是としています。

また、日米衛星調達合意の解釈変更については、日本が考えるほど米国に根強い抵抗感があるわけではないのです。例えば、準天頂衛星の開発では、米国製部品を多く使用する計画だったことで、米国から高い評価を得ています。つまり、「取引」で解決できる問題なのです。要は、米国との間に対話の場を設けることが必要であり、それが実現すれば、自ずと乗り越えられる問題だと思います。

なお、世界貿易機関(WTO)を通じて、調達の公正さを保っていくという方策もあります。しかし、WTOで紛争解決をするとなると、第三者が評価することになります。これは時として、日本が不利な立場に追い込まれることもあり得ます。それゆえ、WTOではなく、米国とのバイラテラルな関係で調整していった方がよいのではないでしょうか。安全保障や気象観測、地球観測を目的とした実利用衛星の開発は、米国との協議で解決できる可能性があると考えています。

(日本航空新聞 鈴木 孝直)

(続く)
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鈴木一人
鈴木一人 氏
(すずき かずと)

鈴木一人(すずき かずと)氏のプロフィール
1970年長野県生まれ、95年立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了、2000年英国サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了、筑波大学社会科学系・国際総合学類専任講師、05年から現職。専門は国際政治経済学、欧州連合(EU)研究。主な著書・論文は、「グローバリゼーションと国民国家」(田口富久治共著)、「EUの宇宙政策への展開:制度ライフサイクル論による分析」、「経済統合の政治的インパクト」など。

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